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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第1章
38/109

38 ヘル・ロード

 ヘルロウは、『三途の渡し』と『賽の河原』にそれぞれ石橋を架ける。

 しかし彼の今回のクラフトは、それだけにとどまらなかった。


 それからヘルロウは大勢の亡者たちを動員し、道の舗装に着手する。

 等活地獄の壁を削った岩を石畳として敷き詰めていった。


 それは、地獄の正門から玄関までもを繋ぐ、庭の敷石のよう。

 しかしてそれは、気がついたら新人亡者たちを全て取り込んでいるという、恐るべき敷石であった。


 まず、新たに地獄にやって来た亡者たちは、三途の渡しの前に出るようになっている。

 そこに渡しがおらず、石橋が架かっているのであれば、誰もが疑いなく渡るだろう。


 そしてその先に石畳があるのであれば、順路だと思って進むだろう。


 さらにその先に、エンマ大王っぽいのが待ち構えていたら、誤解するだろう。

 たとえ想像とは違うかわいさだったとしても、罪を告白することだろう。


 そこでニセエンマの手によって、新人亡者たちはふたつに振り分けられる。


 まず、重い罪を犯しており、『等活地獄』よりも上の地獄に送られそうな者は、左のルートを進むよう、ニセエンマから指示される。


 左の石畳の先には『ヘルロウ村』があり、そこで村人として取り込まれてしまうというわけだ。


 ヘルロウ、地獄に来た人間を、労せずにゲット……!


 そして反対側となる右のルートへは、軽い罪を犯した者……。

 ようは『等活地獄』行きとなりそうな罪の者を、本物の地獄が待ち受ける道へと案内するのだ。


 右の石畳の先には、本物の地獄門があり、本物のエンマが待ち構えている。

 そこで本物のエンマは、新人亡者に対して、『等活地獄』行きの裁きを下すことだろう。


 ヘルロウ村の者たちは、それをニセエンマの事前調査で知り得ているので、『等活地獄』の底で待ち構えることができる。

 落ちてきた新人亡者を、サツマイモの網で受け止め、ヘルロウ村に案内する。


 ヘルロウ、ここでも地獄に来た人間を、労せずにゲット……!


 ……さて、ここで疑問に思うことがあるだろう。


 地獄に来た新人亡者たちを取り込むであれば、全員そのままヘルロウ村に案内すればいいのに……。

 なぜわざわざ一度、本物の地獄に送るような真似をするのか……?


 もしそれをしてしまうと、決定的な綻びが出来てしまう。

 それは、


 『本物の地獄に、パッタリと亡者が来なくなってしまう』こと……!


 地獄に来たすべての新人亡者たちを取り込んでいては、エンマ大王の元には一切亡者が行かなくなってしまう。

 そうなると、エンマ大王もその不自然さに気付き、調査に乗り出すことだろう。


 それでも亡者が来る頻度は減ってしまうが、不自然に途絶えなければ、「ちょっと減ったかなぁ?」くらいの違和感しかない。


 これで、なぜニセエンマ大王なるものが誕生したか、おわかり頂けただろうか。


 そう……!

 ヘルロウはエンマ大王の目を欺くために、『等活地獄』に送られるであろう亡者だけを、ニセエンマに選別させていたのだ……!


 『等活地獄』はすでにヘルロウの支配下にあるので、そこに送られてくる亡者であれば、どうとでもできる。

 しかしそれ以外の地獄に送られてしまった場合は、手出しができなくなる。


 よって重罪人だけを、直接ヘルロウ村に取り込めば……!


 『地獄』に、人は絶えず送られているというのに……。

 その実はすべて、『ヘルロウ村』へ、ようこそ……!


 ……ウェルカム、ウェルカム、ウェルカムっ……!


 しかもそのことに、地獄の支配者であるエンマ大王は、微塵も気付いていないという怖ろしさ……!


 ヘルロウが創ったのは、ただの便利な石橋と、ただ長いだけの石畳ではなかったのだ。

 計算され尽くした、横取りオートメーションっ……!


 いちど乗せられたら最後、全ての者はわけもわからないまま、ヘルロウ村の住人になってしまうのだ……!


 いつしか人は、この石畳のことを、こう呼ぶようになった。


 歴史的な交易路である、『シルクロード』のように……。

 地獄への改革となる、大きな礎となったこの道のことを……。



【ヘル・ロード】 施設レベル:HELL

 ヘル・クラフトによって創られた石畳の道。

 地獄の歴史は、この道が出来たことにより大きく変わるだろう。



 ちなみにではあるが、賽の河原のほうに架かっている橋の石畳は、そのままヘルロウ村へと繋がっている。

 子供たちはエンマ大王も気にしていないので、そのまま取り込んだところで何の問題もないからだ。


 そして子供たちも加わったことにより、ヘルロウ村は地獄でいちばんの活気あふれる場所となった。


 軒を連ねる石づくりの家と、広大なサツマイモ畑。

 家の中も外も、家族のように仲睦まじい者たちの笑顔であふれている。


 それは亡者だというのに、誰もが生前よりもずっといい顔立ちをしていた。


 ……その笑顔は、たったひとりの少年の、ひとつの想いからはじまった。

 彼は、空から堕ちたあとも、全てを奪われてしまったあとも、決してくじけることはなかった。


 賽の河原で初めての供養塔を完成させ、多くの子供たちを天国に送る。

 そして鬼たちを従え、地獄征服の足がかりとなる拠点を、その地に創りあげた。


 最初は3人の下級鬼と、1体のカカシという、実に頼りない構成であった。


 そのときは、誰もが思っていた。

 地獄の改革など、絶対に不可能である、と。


 しかし、今は違っていた。

 誰もが、もしかしたらと思うようになっていたのだ。


 彼ならば、この地獄を変えられるのではないか、と……!


 天国と地獄の両方を知り、神の頭脳と、悪魔の手を持つ、あの少年ならば……!


 少年は今ここに、新たなる一歩を踏み出した。


 堕天使、ヘルロウ・ヘヴンハンドラー……。


 『等活地獄』を、征服っ……!

 八大地獄のひとつを、その掌中にっ……!


挿絵(By みてみん)

このお話は、今話でいったん終わりにしようかと思っておりました。

でも、ブックマークがそれなりに付いているのでもうちょっとだけ続けたいと思います。

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そして次回からは、新展開…!

意外な人物がヘルロウの元を訪れます!

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