カスペルとアンネル 勇敢なカスペルルと美しいアンネルルの物語(クレメンス・ブレンターノ原作)ダイジェスト版 ゴシック運命譚
カスペルとアンネル
原題 勇敢なカスペルルと美しいアンネルルの物語(クレメンス・ブレンターノ原作)
geshichte vom braven kasperl und dem shonen annerl
ゲシヒテ・フォム・ブラーベン・カスペール・ウント・デム・ショーネン・アンネール
(以下、私のダイジェスト版でどうぞ。)
とある初夏のころの夜だった、
私は家路を急いでいた。
と、、ある建物の前に人だかりが、、
行ってみると一人の老婆が何かわめいている。
遠くの村から歩いてきてもう動けないという、
だが何を言っているのかさっぱり要領を得ない、
しかし、、私はなぜかこの老婆に惹かれるものがあった、
次第に人だかりも消えていつしか私とおばあさんだけに、、
老婆はしきりに、「嘆願書だ、嘆願書だ。あと4時間あるぞ、あと4時間だ」と
つぶやく、、
「おばあさん私は文士の端くれだよ。嘆願書くらい書いてあげようか?」と尋ねる。
「おや?そうだったのかい、じゃあ私の話を聞いて、それから、、
公爵様に、嘆願書を書いてくれるかい?」
私は「何をどう書くんだい?話ておくれよ」というと、、
それなら聞いてくれるかい?
私の孫のカスペルルと
名親のアンネルルのことをさあ。
そりゃあ
カスペルルは勇気があって
義侠心のある青年だったさ、
父親はぐうたらでどうしようもなかったがなんであんないい子が生まれたのかのう。
母親は苦労の果てに死んじまったし、、、、、。
もっとカスペルルと
アンネルルのことが聴きたいって?
そんなに、せかさないでおくれよ。
私は今年で88才になるんだよ、、。
カスペルルは槍騎兵でなあ、、ほんとに名誉ってことを重んじる子だったよ。
そしてアンネルルと恋仲だったよ。
アンネルルは私がなずけ親でなあ。
カスペルルはいつもアンネルルに言ってたなあ、
「いいか、名誉が一番大事なんだぞ、名誉が失われるくらいなら死んだほうがましだ」ってなあ。
だからアンネルルもいつしか顔つきまでしゃんとして
名誉ってことが染みついちまったんだろうさ。
カスペルルはだがじきにフランスへと勤務に戻った。
そして長い事便りもなくって、
もう、死んだのかって思ったことさなあ。
だがあの子は実は名誉の戦傷で、入院してたんだったとさ。
退院すると、、なんと伍長に昇進したんだとさ、
するとしきりに故郷が恋しくて、昇進も伝えたくてなあ、
上官に願い出て3か月休暇がもらえた、
カスペルルは馬を急がせて帰路に就いた、
やががて故郷も近づいたとき、、泊まった宿の主人に、こういわれた、
「お客さんよお、馬が鞍ずれができてますよ、こりゃあ、乗り手の名誉にかかわりますぜ」とさ。
言われてカスペルルは馬を降りて引いて歩いた、だから遅くなり故郷のはるか手前の
粉ひきの家に着くともう真っ暗だった、
仕方なく今夜は粉ひきの家にとまることにした。
そして自分の家族の近況を聞いてみると、
ばあさんも生きてるし親父も兄貴も息災だと、
アンネルルはなんでも都に出て女中奉公したそうだと。
それを聞くと安心して眠りについた、
夜中、、ふと目が覚めると、
顔に煤を塗った泥棒が、二人、棍棒を持って今まさに押し入ろうとしているではないか。
カスペルルはとっさに軍刀で応戦する。
すると二人は逃げて行ったという。
カスペルは急いで下に降りるとそこに粉屋の亭主が縛られて転がっていた。
幸い粉屋の命は無事だった。
しかし外に出ると
馬は盗まれていた。
その馬の旅嚢には50ターレルと伍長の任命状と母親の墓に供える花輪が入っていたというのに、、。
粉屋の主人は
「だが良かった。実はあんたの寝てた部屋に、俺の全財産のこれこの金袋が隠してあったんだ、」
といって金貨のいっぱい詰まった袋を見せた、
「あんたの盗まれた金と馬の分はこれで持ってってくれ」
だがカスペルルは
「俺はタダで金を一切もらわん。おれの名誉にかかわることだからな」
といって一銭ももらわなかった。
「だがその金を俺に貸してくれないか?証文も書くから」といって
粉屋の親父から70ターレル借りて急いで領主裁判官の元へ事件を訴えに向かった。
裁判官に、事細かく訴えてその足で村はずれの私の一人住まいの家にもよってくれたなあ。
それから父の家に向かっていったが
家に着くと、、
男が二人で顔を洗っていた「ちくしょう、この煤はなかなか落ちないや」
「おい馬小屋に行って盗んだ馬の尻尾とたてがみを切り取るんだ。わからないようにな。そして
旅嚢は深く埋めるんだぞ」
カスペルはそれを聞くと気も狂わんばかりになって
「公爵様の名において言う、抵抗すると打ち殺すぞ」って怒鳴ったんだ。
何のことはない、馬盗人は父と兄だったんだよ。
カスペルはきちがい同然でなあ
「俺の名誉は、俺の義務は」ってわめくばかり、
やがて駆けつけた粉屋と追手の物がなだれ込んで
父と兄をふんじばってひったてていった。
しばらくしてカスペルがいないことに気がついた。
その時、、墓場のほうでズドンと銃声がする
行ってみるとなんとまあ。、カスペルが胸を打ち抜いて
母親の墓の上で死んでたんだよ。
その後、裁判官から私は呼び出されて
カスペルのことを尋ねられたよ。
そしてカスペルの最後の手帳を渡された
そこには遺言が書かれたそうだよ、
「俺は盗人の子だ。そんな俺とアンネルルを結婚させるわけにはいかない。
この50ターレルはアンネルルにやってくれ。
お前は自由だから誰とでも結婚してくれ、俺は恥を忍んでは生きられない」って書いてあったったそうだ。
「ああかわそうなカスペルル、自殺したから墓も立てても葬ってもならんっていうんだよ。
でも、、、カスペルルはいい時に死んだよ、もし何もかも知らされていたら
それこそ絶望で気が狂っただろうよ。」
「え?それはどういうことだね?」
と私は聞いた。
老婆は、、するとこんな話を語りだした。
私が名親をしてるアンネルルのことさ、
私の従妹の娘なんだが、
もう昔のことになるが、
その従妹は後家で、、ある飲んだくれの猟師が好きになってさあ。
ところがこの男が人を殺しちまって
死刑になるってんで従妹は気を病んで病気になり、とうとう死んじまったのさあ、
それで私が幼いアンネルルを引き取って名親になったっていうわけさあ。
それからしばらくしてとうとう猟師の処刑の日が来た。
私は幼いアンネルルを連れて従妹の遺言を町の処刑場まで
猟師に伝えにいったんさあね。
「どうか改心して処刑される前に、神様にお詫びしてくれってなあ」
途中、、どうしても、獣医兼首切り役人の家の前をとおらにゃあならないんだ。
私は村長さんから薬をもらってくるように頼まれたたんさあ。
仕方なく寄って薬をもらってると、
小さいアンネルルが戸棚の前でこんなことを言うんだ。
「おばあちゃんこの戸棚の中にねずみがいる。がたがた言ってるわ」って、
それを聞くと首切り役人の親方の顔色がさっと変わって震えだしたのさ。
それもそのはずその戸棚の中には首切り処刑の大きな斧が入れてあったのさ。
親方が戸棚を開けると風もないのに首切り斧がゆさゆさ揺れてた。
親方はそれを見ると、
「どうかこの小さいアンネルルがかわいいならこの子の首をほんの少しだけ
この斧で触らせてもらえないかね?この斧がこの子の血を欲しがってるんだ、
今、、この子の血をほんの少しだけこの斧に吸わせておかないと
後々
この子がとんでもない不幸になるんだよ」
そういうが親方はアンネルルをひっ捕まえる、
アンネルルは「殺される」と叫ぶし、、
たまたま入ってきた町長様も
それは迷信だよと言って、
引き離したのさ。
親方は
「だがそれは先祖代々言い伝えらえたことでさあ」というだけだった。
それから監獄の猟師の元に行って
遺言を伝える、
すると猟師は後悔して、
改心してくれた、
そしてぜひ俺の最後を見届けてくれっていうのさ。
で、私はアンネルルと処刑に立ち会ったのさ。
見ている私たちの前で首切り役人の斧が首に飛んだ。
その途端、その生首がアンネルルの前掛けに向かって飛んできて
噛み付いたのさ。
親方はあわてて飛んできて生首をもぎ離して、、、、、、
「だから言ったろう、この斧はアンネルルの血を欲しがってるって」
アンネルルは火のついたように泣き叫ぶし、
町長様はみかねて、家に入れてくれて
アンネルルにお金を与えてくれるし牧師様は神信心をこんこんとと説いてくれたのさ。
だが、、どうだ、親方の予言は結局すべて当たったんだよう。
「で?アンネルルはどうなったんだい」と私は聞いた。
老婆は言う。
「あの子は何かに取りつかれたんだ、、そうして今日があの子の処刑の日なんだ。
あの子は都でどこかの身分ある男にだまされてその男に捨てられて
生まれた我が子を絞め殺したのさ、それもほれ、あの前掛けでさ。
誘惑した男は、、カスペルはフランスで戦死したとウソまで言って
結婚すると約束までしたそうだ。
それで捨てられて絶望してこんなことまでして、、、
それから自首して、、嬰児殺しの罪で今日が死刑の日なんだ」
そうしてアンネルルから手紙があって
最後の面会に来てくれないかというので今行くところなのさ」
私はそこまで聞くと
「これからすっかり事情を話して公爵様に土下座でもしてアンネルルのお許しを乞うてみるよ」といった。
老婆は言う
「あの子はお許しなんか望んでねえ。正しいさばきがしてほしいだけなんだよう。
だって裁判官は父親の名を明かせばお許しがあるって言ったのに、、
アンネルルは「あの子を殺したのは私です。もしあの人の名前を言ったらあの人は身の破滅でしょう」
といって絶対名前を言わないんだよ。
「あと2時間で処刑だ、せめてあの子とカスペルルの墓が立つように
それだけでもお願いしますじゃ。」
私は取るものもとりあえず公爵の館まで走った。
しかし格子門の衛兵のグロッシンガー伯が私を止めた、
「こんな時刻にどこへ行く」
「今すぐ公爵に逢いたい」
「今はダメだ」
私は「名誉がかかってるんだ」そういうと
さっとすり抜けて
公爵の部屋へ向かおうとすると
マントに身をくるんだあやしの影がさっと隠れた。、
誰かが公爵の部屋へ忍んで行くところだったようだった。
さわぎを聞きつけた公爵は
降りてきた
私はいちいちこれまでの老婆の話を話して
「恩赦を。恩赦を」と叫んだ。
「哀れなこの村娘は、誤った名誉心のために死刑にされようとしているのです。
相手の男の名前を出すなら死んだほうがマシだというのです」
公爵は目に涙を浮かべて「もう良い」
そういうとグロッシンガー伯に命じて
「馬は乗りつぶすまで、駈けさせよ。目指すは刑場。恩赦。恩赦と呼ばわるのだ。」
グロッシンガーの顔はその時、、幽霊のように青ざめ狂ったように馬に飛び乗り飛び出していった。
岡の上の刑場についたときまさに朝日の中に
きらりと刃物の光るのが見えた、
しかし手遅れだった。
首切り役人は美しいアンネルルの血の滴る首を差し出しただけだった。
その顔はグロッシンガー伯のほうを悲しげに見つめて笑いかけていた。
「おお、神様、お助けを、」
グロッシンガー伯は屍の上に倒れ伏すと、
「殺せ、俺を殺してくれ。皆の者、誘惑して捨てたのはこの俺だ。おれを殺してくれ。」
それを聞くと民衆は怒りに震えて
グロッシンガー伯を踏んだり蹴ったり荒れ狂う民衆を警備兵もどうすることもできなかった。
その時「公爵様が来たぞ」という声がして、
公爵は馬車で駆けつけてきた。
馬車の中には、あのマントに身をくるんだ謎の男も同乗していた。
マントの男は「ああ、兄上」と叫んでいた。
それでそのマントの男がグロッシンガー伯の妹だとばれてしまったのだった。
公爵はあわてたが、すぐ気を取り直して、
「兄が恩赦を伝えようとするのをわしが馬車で通りかかったとき聞いて急いで男装して
同乗して妹も駆けつけたのじゃ」と
公爵はグロッシンガー伯の告白をその時初めて知り
激しい衝撃を受けた。
やがて公爵は無言で処刑場に入り
アンネルルの屍に対面した。
アンネルルは切り離された首を胴体にあてがわれて横たわっていた。
その切り口はあの前掛けで覆われていた、
「気のどくなアンネルル、破廉恥な誘惑者のお前が来るのが遅かったばかりに、、」
公爵はそういうのがやっとだった。
やがて公爵は
「カスペルルは士官として葬らせ、アンネルルはそのわきに葬らせよ。」
そういうと棺に納めさて故郷に送り届けさせ葬儀の礼を尽くすように命じた。
翌日。故郷でカスペルルは母親の傍らに葬られてアンネルルはそのわきに葬られたのだった。
私もその場に参列して、槍騎兵が葬送の礼砲を三発撃った時、
あの老婆は私の腕の中に倒れて、、、、見ると死んでいたのだった。
この老婆も、、カスペルの墓の傍らに葬られたことは言うまでもない。
それから、都に帰ると、、、。
私はグロッシンガー伯が死んだことを知らされた。
彼は毒を飲んで死んだのだった。
彼からの手紙が届いていた。
「ありがとう。君は僕の心を苛んでいた、罪をさらけ出してくれた。
アンネルルはとても気高い人間だった、僕は人間の屑だった。
あの子は僕が書いてやった結婚証書を焼いていたんだね。
あの子は僕のおばの家で働いていたんだ。
僕はそれを騙して誘惑した。ああ、神よお許しください。
それから君は僕の妹の名誉も救ってくれたね、
公爵は妹を愛していらっしゃる、
このことで僕は公爵の心も傷つけてしまった。
僕は毒を仰いで死ぬ」
グロッシンガー伯
ところで
打ち首にされたときの、、あのアンネルルの前掛けは
公爵家の宝物室に記録されて保管されたという。
それから、、
公爵はグロッシンガー伯の妹と
近々結婚されるであろうという。
また村の墓地には
名誉の犠牲者両名の記念碑が近々立てられるとも聞いている。
その記念碑は
十字架の前に
深々とひれ伏した
真の名誉と
偽りの名誉をあらわしたものだという。
終