次があるなら再会の約束を
雪の降る日。
妻が風邪を引いた。
私は薬を買うために、山向こうの町まで行くことにした。
「行ってくる。しっかり寝ていろよ」
「大丈夫。ちゃんと寝てるわ。気をつけてね」
「すぐ戻る」
それが妻との最期の会話。
薬を買って帰宅した私を待っていたのは、布団の中で冷たくなった妻だった。
あの時ほど泣いた日はない。
苦い、苦い、私の前世の記憶だ。
生まれ変わりだなんて、と思うかもしれないが、現に私は今世ではない昔の記憶を持っている。
若い頃は、妻もどこかで生まれ変わっていて、私の事を待っているのではないか、などとロマンチックな事も考えていた。
しかしどれだけ探しても、妻と再会する事は無かった。
仕事帰りの電車の中で、どことなく妻に似た横顔の女性を見て、昔を思い出す。
──妻に、会いたい。
私はどうしようもない衝動に駆られ、次に停車した駅で電車を降りた。
今までずっと避けてきた場所を目指す。
新幹線の切符を買う。
明日の仕事は休もう。
外を見ると雪が降っていた。
電車を乗り継ぎ、田舎道を進む。
暗い道を、突き進む。
見なれない道だが、懐かしい。
山道の開けた土地に、ぼんやりと浮かび上がる一軒家。
あれだ、私の家だ。
戸に手を掛けようとした瞬間、家は消えた。
辺りには何もない。
私はもう妻には会えないことを悟り、あの日のように泣いた。
彼女は今も一人、あの家で私の帰りを待っているのだろう。