5.カメリア、チェリアと歌対決?
春爛漫です。
後宮で、陛下主催の花見の宴が開かれました。
皆様、花々に負けじと華やかに着飾っております。
寵妃様も、陛下にお強請りをしたのか、それとも、陛下の御心遣いなのか、上級妃様方に匹敵する程の豪華絢爛なドレスを身に着けていらっしゃいました。
そんな中で私は、一人だけ黒いドレスを着ております。
喪服ではありません。
一応、花見の宴ですから、私も花の飾りを付けておりますわ。
「何て、美しい黒……」
その様な評価が聞こえます。
黒は染めるのが難しいらしく、これまでは、このように綺麗に染める事は出来なかったのです。
「ありがとうございます。実家の領地の新たな特産品ですの」
これで、需要が増えると宜しいのですけれど。
宴が始まり、下級妃や中級妃の志願者による余興が披露されました。
「続きまして、中級妃『カメリア・ルスティカーナ』様」
何故?!
私は、進行役の発言に驚愕致しました。
エントリーをしていないからです。
つまり、何方かの嫌がらせと言う事になります。
私は仕方なく、立ち上がって舞台に移動しました。
「宮廷音楽家ヨハンネス・モザルト作詞作曲『春の宴』を歌わせて頂きます」
ヨハンネス・モザルトも、お父様がパトロンをしておりました。
今回私が選んだ『春の宴』は、女性歌手の為の歌です。
最後の一音が最も高音で、しかも、徐々に高くなって行くのではなく、突然高音になると言う、素人には音を外し易い曲となっております。
私も素人ですけれど、実家や椿宮で何度か歌った事がありますから、恐らく大丈夫かと思います。
そして、私は最後の高音を外さずに歌いきる事が出来ました。
「お次は、寵妃チェリア・ケラスス様が歌を披露してくださいます」
舞台に上がった寵妃様は、私を睨んでから口を開きました。
「わ、私も、ヨハンネス・モザルトの『春の宴』を歌います」
あら。被ってしまいましたわ。
寵妃様も歌うと知っておりましたら、違う曲に致しましたのに。
私が嫌がらせで直前に同じ歌を歌ったと、思われてしまいますわね。
寵妃様がこの歌をお選びになったのは、ヨハンネス・モザルトが、かつてケラスス男爵が所有していた領地出身だからでしょうか?
寵妃様は、この歌しかご存じなくて、私が同じ歌を歌っても変更出来なかったのでしょう。
もしかしたら、寵妃様も、何方かの嫌がらせで歌う事になったのかもしれませんわね。
寵妃様は、最後の高音を外してしまったのです。
寵妃様を良く思わない方々でしょうか? 笑いを堪えている方が何人か見受けられます。
陛下がいらっしゃるので、我慢しているのでしょう。
「美しい歌声であった」
陛下が寵妃様を褒めました。
全ての余興を褒めていらっしゃいましたので、別に贔屓ではありませんが、フォローではあるのでしょうか?
ただ、私の時には、最後の高音を外さなかった事を褒めてくださいましたので、そこを外した寵妃様にとって慰めになったかは解りません。
幸いにも寵妃様で最後と言う訳ではありませんでしたので、宴は再び盛り上がって終わりました。
私は、その間ずっと寵妃様に睨まれておりましたけれど。