4.カメリア、異父妹に会う
陛下が雨宿りにいらっしゃってから、二日後。
「寵妃様がいらしたのですが、如何致しましょう?」
「どのようなご用件で?」
「それが、話があるとの一点張りで……」
もしかして、陛下が此方で一晩過ごされた事を誤解しているのでしょうか?
客間に通された寵妃様は、お独りでした。
供を付けずに出歩くなんて、この国の淑女としては、大変珍しい事です。
なるほど。陛下は、このような淑女らしからぬ女性がお好みですのね。他の妃に興味を示さない訳ですわ。
「貴女なんかに、陛下は渡さないんだから!」
開口一番、寵妃様はそう仰いました。
「まあ。お二人の仲には付け入る隙があるのですね。わざわざ教えに来てくださって、ありがとうございます」
私が微笑んで答えますと、寵妃様は怒りからか顔を真っ赤になさいました。
「どうせ、卑劣な手を使ったんでしょう!?」
「……落ち着いてくださいませ。お掛けになってチョコレートケーキでも」
ルスティカーナ辺境伯領では、カカオを輸入しておりますの。
それを加工したチョコレートをたっぷり使用したケーキは、私のお気に入りです。
「要らないわよ! 施しなんて!」
施し? 何を言っているのかしら?
「お茶請けは、施しとは違いますわよ?」
「知っているわよ! そんな事!」
寵妃様は、そう怒鳴ると踵を返しました。
「もう良い! 帰るわ!」
寵妃様が客間から出て行くと、私はクラウド・モネットの絵を振り返りました。
寵妃様の視界に入っていたとは思いますが、あの様子では認識出来たか怪しいですわね。
それにしても、あれが私の異父妹ですか……。
両親が離婚しなかったら、私やお姉様も彼女の様になったのでしょうか?
それとも、ケラスス男爵家の伝統なのでしょうか?