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番外編:ルスティカーナ辺境伯

2020.08.13 脱字を訂正

 私は、中級妃の一人カメリア・ルスティカーナの父である。


 先日、下級妃の一人、チェリア・ケラススが陛下を殺害した。

 そのチェリアは自害していた為、死体は埋葬を許されずにゴミとして捨てられた。

 そして、ケラスス男爵は絞首刑・男爵夫人は流罪となった。



 ケラスス男爵夫人は、かつて、私の妻であった。

 しかし、当時伯爵だったケラスス男爵と浮気をしたので離婚したのだ。


 この王国において、浮気は許されるケースと許されないケースがある。

 許されるのは、普通に夫婦生活があるにも拘らず、三年経っても子が出来ない場合。または、子供が全員七歳以上である場合だ。


 二人は、使用人達が誰一人として私に告げ口しないと思っていたのだろう。

 二人の関係を知った私は、離婚を申請し・慰謝料を請求した。


 浮気の慰謝料は、当然の事ながら、許されるケースでは請求が出来ない。

 だが、カメリアは当時生後一月にも満たず、一番上の息子ですら七歳を超えていなかった。


 王国の法律では、七歳未満の子供の数に比例して慰謝料が高くなる。

 更に、一番幼い子供が生まれてからの日数に反比例して慰謝料が上がる。


 七歳未満の子供が四人もいた上に、末っ子が生まれたばかりと言う事で、慰謝料は王国史上最高額となった。

 私は、現金の代わりに、ケラスス男爵が有していた領地を貰った。

 その為、伯爵だった彼は男爵となったのだ。



 使用人達の証言で、二人の関係はカメリア誕生後に始まった事が判った。

 私は、子供達が何方の子か、揉める事にならずに済んで安堵した。

 しかし、その後元妻の妊娠が発覚し、その子が何方の子かが問題になった。

 それについて、陛下が、浮気後の妊娠である事と既に離婚が成立している事からケラスス男爵の子とすると仰ったので、それが事実となった。


 元妻は私の子であると主張していたが、その真偽は不明である。

 そもそも、何故私の子だと断言出来るのだろうか?

 どちらにせよ、そう主張した真意は、その子が不必要と言う事だろう。


 それについて、元妻の母は、もしも、その子が私の子であるならば、辺境伯家で育てられないのは可哀想だと思ったのだろうと、彼女の味方をした。

 貴女の娘は、故意に何方の子か判らぬ様に子供を作っておきながら、良き母親の振りをして私を悪者扱いするのか? 確かに、そんな女に育てられるのは可哀想だ。碌な子に育たないかもしれない。だが、私の知った事では無い。その子は、上の四人と違い、彼女が彼女の為だけに作った子だからだ。

 私は、そう答えた。



 一連の醜聞により、私は、末子が七歳になる前に妻に浮気される程つまらない男・ケラスス男爵は、伯爵領と引き換えに妻を買った馬鹿・元妻は、末子が七歳になるまで我慢出来なかった淫乱と言う評価を受けた。




 時は流れ、先王陛下が崩御された。

 我が娘を、息子――つまり、現陛下――の上級妃にするようにと遺言して。

 しかし、王太后殿下はその遺言を無視し、自らの好みで上級妃を選んだ。


 我が国において、いや、周辺諸国でも、女は男と対等ではない。

 女は父に従い・夫に従い・息子に従うものだと言う事が常識の世界で、夫の遺言を無視して息子を傀儡とする王太后殿下に対する反発は、当然の事ながら強かった。

 王太后殿下の言動が容認されたのは、彼女によって娘が上級妃に選ばれた者達の後ろ盾があったからである。


 だが、王太后殿下にとって誤算だったのは、陛下が他の妃には目もくれず、チェリアのみを寵愛した事だろう。

 母親の言いなりである陛下が、こればかりは頑として譲らなかったのだ。



 そんなある日。

 チェリアを正妃にしたいと行動し始めた陛下は、あろう事か、この私にチェリアを養子にするよう頼んで来た。

 ケラスス男爵に恨みはあろうが、チェリアには罪は無い、だとか。

 チェリアが私の娘という可能性もあるではないか、だとか。

 チェリアを私の養子にして上級妃とすれば、先帝陛下の遺言が叶う、だとか。


 親が親なら子も子だな。

 そうは思ったが、私は条件付きで承諾した。


 一.カメリアを上級妃にする事。

 二.チェリアがカメリアと仲良くする事。

 三.チェリアが正妃に相応しからぬ品位の無い言動をしない事。


 一つ目は妥協したが、後はそうするつもりは無い。

 果たして、陛下のお眼鏡に適った女は、どの程度のものなのか……。



 後宮に入ったカメリアから届く手紙に、時折チェリアの事が書かれていた。

 供を付けずに出歩く事・陛下が雨宿りに来た事に嫉妬して怒鳴り込んで来た事・お茶請けを勧めたら、施しは要らないと怒鳴られた事……。

 私は、この時点で養子の件は断る事に決めた。



 寵妃暗殺未遂事件が起きた時、私は、陛下が短慮にもカメリアを犯人と決め付けるのではないかと危惧した。

 幸い、陛下は其処まで愚かでは無かったようで、私は評価を改めた。



 やがて、チェリアは男児を産んだ。

 その養育を王太后殿下にと、陛下に頼んだらしい。

 王太后殿下がチェリアに良い感情を抱いていない事は王宮では有名だったが、ケラスス男爵の耳には入っていなかったのだろう。

 不謹慎にも、何日持つか賭ける者もいた。


 暫くして、王子殿下は原因不明の死を遂げた。

 その知らせを受けた陛下は、何を思ったのか、王太后殿下を牢に入れた。

 まさか、そんな事をするなどとは、誰も予想だにしなかったに違いない。


 我が子の死を知らされたチェリアは乱心し、カメリアを殺そうとしたらしい。

 それを庇うほど愚かでは無かった陛下は、チェリアを無期限謹慎とした。



 ある日、私は王太后殿下の様子を見に行った。


「惨めなものだな」


 国で最も身分の高い女が、粗末な牢暮らしとは。


「ルスティカーナ……!」


 王太后殿下は、私を睨み上げた。


「秩序は守らなければならないと私の娘に仰ったそうですが」


 一拍置いて、続ける。


「夫の遺言を無視するという秩序に反した事をしたから、罰が当たったのでしょうな」



 その後、王太后殿下は自害して果てたらしい。

 己の惨めさに、耐えられなかったのだろうか?



 母親を亡くした陛下の憔悴が酷かったので、私は陛下に囁いた。

 後宮で妃の誰かに慰めて貰っては如何でしょうか? と。


 その結果、陛下はチェリアに殺害されたのだ。

 陛下が、何故、乱心しているチェリアの元へ単独で向かったのかは、判らない。

 陛下はチェリアの元へ向かうかもしれないと思いつつ、囁きはしたが。

最後までご覧頂き、ありがとうございました。

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