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EN-FORCER  作者: 福寿
1/1

#1


--2104年 20:40 東京都 新宿区------


雨雲が覆い、一筋の光も指さない街は

降り注ぐ豪雨と怒号のように耳を劈く(つんざく)雷。

それらを一身に受けるビル群は、ただ静かに事の結末を見届けている。


普段は賑やかな街も今日は静寂が街を包んでいる。


そんな中、街の中枢に位置した高層ビルの一室に佇む一人の男。

懐から取り出した煙草に火をつけようとした時、耳に取り付けている通信機が作動した。


「はーい、こちらA地点のアッキーちゃんでーす。聞こてる??オーバー!」


あまりの声量に通信機にノイズが走り、鼓膜に鈍い痛みが走る。


「あぁ、聞こえている。そんな事より早く対象の位置情報を送ってくれ。」


(いつき)はせっかちだよねー。それに無愛想だし。そんなんだから友達1人も出来ないんだよ?」


人を小馬鹿にしたような口調の甘木(あまき)に、簡素に返答する。


「この仕事が早く片付いたらReblioに寄ろうと思ってたんだが、やめとくか。」


「それを早く言ってよね!私にかかればこんなのちょちょいなんだから」


あからさまな声色の変化が確認出来る。


「見つけたよ!対象のO's(オーズ)は南西から北西へ向けて逃走中。

対象は予定通り20:40にB地点を通過するはずだよ。」


左手首に装着した電子デバイスを作動すると、新宿区の立体地図が表示され、それぞれの

現在位置情報が赤点として表示されている。


「確認した。」


電子デバイスを閉じ、壁に立てかけたアタッシュケースに手をかける。


「...ねぇ、樹」


先ほどとは打って変わり、静かな声で続ける。


「これ以上苦しい思いをしてほしくないの。...だから」


「あぁ、分かってる」


最後に深く煙草を吸い、窓の縁で煙草の火を消した。


右脇に置いてある黒い横長のケースを開き、中から対O's用狙撃銃を取り出す。

10秒とかからず慣れた手つきで窓に固定し、スコープに目を当て、集中する。


研ぎ澄まされる感覚の中で、雑音が徐々に周囲から消えていく。


(対象位置再度確認、風速35m/s、対象と現在位置との距離約1200m。)


目を開き銃口を南西に向けスコープを覗く。



「対象を確認、B地点までの距離約100m。カウントダウン 3、2、1…」



周囲一帯に銃声が響き渡り、一発の7.62mm対O's弾は迷うことなく対象の眉間を貫き遠方に消えていった。


一瞬何が起こったのか理解できない被疑者。ゆっくりと確実に速度を落とすと、最後には地面に膝をつき倒れた。眉間からは黄色の液体が雨水に溶け込むように流れ、被疑者の周囲を染めた。


スコープから顔を離し、通信機に手を当て作動させる。



「こちらホーク2、地点Bにて対象の死亡を確認。これより本部へ帰還する」


「こちらイーグル1、了解した。本部へ帰還した後のことだが、今日の所はもう帰っていいぞ。ご苦労だったな。」



そこで通信は途絶えた。

通信を切ると、胸ポケットにしまっている煙草を取り出し火をつけようとする。だが雨で濡れたせいか火は一向につく気配がない。



「ちっ、湿ってやがる」



取り出した煙草を箱に戻すと、ライターと一緒に南西方向の塀の上に置いた。



「いつもは一本なんだが湿ってるから全部やるよ」



そう意味深に言い放つと、ライフルケースを背中に背負い屋上を後にした。


気づけば滝のように降っていた雨は止み、いつの間にか晴れ間が指していた。




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