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17  カヌレ・ド・ボルドー  シェアハウス物語 第3シーズン-5

「タケシ君。今日の美味おいしそうな話は何?」

毎朝、ハウスの『おやかたさま』こと小川さんが僕に聞いてくる。

「今日は、フランスの伝統的なお菓子のカヌレの話しを、朝食

を食べながら説明するよ」

「作ってみる?」

「うん。1回挑戦してみたけど上手くいかなかったけど、今月

はカヌレ作りに挑戦する月にしようと思ってるんだ」

「楽しみだよ。いつもタケシ君が、お菓子作りに挑戦している

姿をこうして近くで見られるのが、私の創作意欲にもすごく刺

激をもらえて、楽しいのよ」


小川さんは、いつも僕に『好きなことに没頭しなさいね』って

言ってくれる。そしていつでもそれをサポートしてくれ、いつ

も声をかけてくれる。それが僕はすごくうれしかった。


僕がハウスに来たのは1年半前だ。

東京での暮らしで、学校にも馴染なじめず、両親と上手くいかずに、

完全に居場所がなくなってしまっていた時に、ふわーと風に乗っ

てしまったように、急だけど何の抵抗感も違和感もなく、九州

のこの場所に呼ばれるようにうやって来た。

叔父おじさんがこの近くに住んでいて、学校の手続きなんかもやっ

てくれた。

最初は、叔父おじさんの家に住むって話しだったけど、どういうわけ

か、途中に通っただけの、このハウスに興味をひかれて、ちょ

っとだけ見学をさせてもらったのがきっかけだった。

誰が住んでいるとかも分からなかったし、小学生がここに住め

るなんていうのも考えてもなかったけど、なぜだか、『ここは

僕の家』だって思ってしまった。


上手くいってなかった両親だったけど、さすがに遠く離れてしま

うとなると、悲しかった。ホームシックというのだろうけど、こ

こへ来て3ケ月位は、両親のことをいつも思い出した。

それまでは当たり前にしか思っていなかったことが、ぜんぜん当

たり前じゃなかったんだって思って、僕の両親は僕のことを大切に

していてくれたんだって、離れてから初めて僕は理解ができた。


小川さんは、お母さんであり、また、お父さんでもあった。

いつも優しかったし、何でも教えてくれた。

小川さんだけじゃなくて、このハウスの住人の人は、僕にとって

『初めての家族』だった。


「カヌレは、フランスのボルドー修道院で古くから作られていた

焼き菓子で、蜜蝋みつろうを入れることと、カヌレ型と呼ばれる小さな型

で焼くことが特徴なんだよ。そもそもカヌレは「みぞのついた」と

いう意味で、外側は黒めの焼き色が付いてかたくて香ばしいけど、

内側はしっとりとして柔らかい食感なんだ。

正式な名前は、カヌレ・ド・ボルドーと言って、もともとは

ボルドーではワインのよどみを取り除くのに、鶏卵けいらんの卵白を使用して

いたんだ。それで大量の卵黄が余って、その利用法として考え出され

たらしんいだよ」


僕は、朝食の準備を手伝いながら、小川さんに説明をした。


「カヌレって名前は知っていたけど、そんな由来ゆらいがあったなん

て初めて知ったわ。なんだか、食べるときにも味わいが深くなり

そうな感じね」

小川さんは、本当に楽しそうに僕の話を聞いてくれる。




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