15 朝食準備 シェアハウス物語 第3シーズン-3
その夜はずっと雨が降っていたが、朝になると幕が開いた
ように太陽が顔を出した。朝がお天気だと洗濯物を干したく
なるのは昔からだが、今日は絶対にそうしたいと思った。それ
とそろそろ衣替えもしておくころだし、夏物をしまっておくか。
「リサちゃん。手伝ってもらえるかい」
小川さんが呼ぶ声がした。
「はい。5分して行きます」
いつものように、5分程で超スピードメイクをしてから食堂へ
降りて行った。
ハウスの住人の人用の朝食の用意だが、ここは営業レストラン
でもあるので、外部からのお客さんも同じようにビュッフェ式
で食事をしてもらうのだ。とにかく野菜と果物を、私は、ただ
ひたすら切り続けた。20人分位で、手の込んだものはないと
は言うものの、大変な作業である。でも新鮮な野菜や果物を買
い出しに行くのも、こうやってカットするのも楽しい。
でも、和田さんが病院からハウスに戻って来て、この食堂にベッ
ドを置いてとなれば、お客さんは断るのだろうかと思って、卵料
理と定番のウンナーなんかを作っている小川さんに聞いてみた。
「私も最初は、そうした方が一番いいのかとも思っていたんだけ
どね。和田さんは、そんなに皆と話はしないけれども、自分以外
の人たちが美味しそうに食べているのを見るのは、とても好きだ
ったから、どうにかして、人が活気づいている場所に居させてあ
げられるようにと思っているのよ」
秋の空気を感じてもらえるように、食堂ではいつもとは少し違う
ハローウィンにちなんだディスプレイを中心にした配置にしたが、
数日前から私もお手伝をさせてもらっていた。
まだまだカットは続く。すでにカットされた野菜や果物は、朝早く
食べに来られたハウスの住人さんやお客さん向けに、小川さんが鮮
やかな色合いを盛り付けし、皆さんの前に並べられていた。
この時は、私たちも誰もが考えていなかったのだが、和田さんは病院
からもどって来る時は、自分でトイレに行けないほどで、ずっとベッド
に寝ていたのに、このハウスに戻って3日目には、私が今やっている
野菜と果物のカットを和田さんがやり始めたのであった。
それはあたかも、最後の命の炎が、勢いを増して燃えているような風にも、
その時の私には感じられた。