表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

14 月の夜  シェアハウス物語  第3シーズン-2

和田さんのお見舞いから、この『ハウス』に戻って来ると、

食堂の奥から、いつものコーヒーの香りがただよって

来た。

「おかえり。リサちゃん」

コーヒー豆をきいている笑顔の小川さんが居た。

「ただいま」

そんな単純な挨拶あいさつだけど、本当にいつもそう

言ってくれる人が居る場所に住めることが幸せに思える。


「和田さん、早く戻れたらいいね」

小川さんが、カウンターに座っている私にコーヒー入れて

くれた。

「うん。和田さん、元気が出て来てたみたいで、すぐに病院

のソーシャルワーカーさんに相談をしたんだって。それで病

院の在宅支援をする人たちが、今週、このハウスに来るんだ

って」 私の言葉に、小川さんは少し戸惑った様子を見せた。


「どうしょう。明日にでも美容院に行けるように予約しとか

ないといけないわね」

小川さんは、そこが一番なんだと思いながら、私は足元にじゃれ

ついてきた子猫のミーを、私の足で遊んであげていた。


私が、このハウスに住むようになったのは、10ケ月前からだ。

大学の近くに借りていた部屋が、高い割には居心地が悪くて、

大学から少し離れてもいいから、もっと景色のいい所に移り

たいと思っていた矢先、お天気のいい日曜に、海沿いを自転

車で1人のんびりと散策をしていて、このハウスを見つけた。


最初は、洒落しゃれたお店だから、少しのぞいてみよう

と入ったら、確かに食事ができるお店ではあったけど、みょう

食事をしているお客さんたちが家族的な感じが不思議で、単

に常連客という印象ではなかった。それもそのはずだ。この

ハウスの住人が『お客』であり、その店の『従業員』だった

からだ。もちろん、住人以外にも、B&B[ベッド&ブレク・ファ

ースト]や観光で立ち寄るお客さんも来ていた。 


そして、このハウスの食堂の横には、洒落しゃれたインテ

リアとしてのイミテーション・フラワーとイミテーション・ブ

ックの工房とワークショップ用の部屋があった。ここのオーナー

であり『管理人さん』である女性の小川さんが、お花と本のイ

ミテーションをオリジナルで製作をしていた。


普段は自転車で通学をしているが、雨風の強い日なんかは、その

小川さんが、乗合バスのようにしてハウスの住人さんを車で送っ

てくれて、また帰りに迎えに来てくれる。住人さんたちからは

尊敬の念を込めて『お館様やかたさま』と小川さんは呼ばれていた。

ただ、今のように毎日、和田さんの病室に住人皆で、代わる代わ

るお見舞いに来て、バラバラに帰っていくのは、それぞれ自分

たちで、バスなり自転車なりで来ていた。


車の免許は、来年の正月明けに、合宿免許を取りにいく予定に

しているけど、自転車でまだまだ散策をしてみたいと思っている。


自転車でお見舞いに行く途中、稲が全部倒れてしまっている田んぼ

があって、そう言えば風が強かったなと思ったが、まったく倒れて

いない田んぼもあったので、それを和田さんに話したら、それは稲

が病気か何かで弱っているせいだろうねと教えてくれた。

『和田さんは、強い風が吹いても倒れないよね』と私が言うと、

『あたりまえだよ。『家族』に支えられてるからね』と笑顔いっぱ

いに答えてくれた。


今日も月がきれいな夜だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ