10 BathRoom(バスルーム) 第2シーズン-4 シェアハウス物語
昨日は、ハナとずっといっしょに居た。
でも、いつもとは違った。
ときおりポツリポツリと話をして、ずっと映画の映って
いるテレビの画面を、2人で眺めていた。
2人で居たけど、1人で居るような感じだった。
こんなに何もせず、部屋にじっとしているのは、いつ以来
だろうか。自分も含めて、誰も居ないような世界だ。
その時の私を少し思い出してみた。
あの時は、たわいのない何かが私を
その世界から連れ出してくれたような気がする。
ハナを連れ出してくれる、たわいのない何かは
何だろうか。
オーガニックのハーブをブレンドした、お香を焚いた。
それをお香皿に乗せて持って来ながら、
ハナに声を掛けた。
「ハナ、お風呂に入らない? せまいけど、2人で」
焦点が合っていないような目で、映画の映るテレビの方を
見ていたハナが返事をした。 「うん。入るよ」
少し生気がもどった気がした。
「なんか、子供の頃を思い出すな。お姉ちゃんと私とお父
さんと3人でお風呂にいっしょに入っていたな。その頃は
お風呂がせまいなんて思ったことなくて、くっついて入っ
ているのも楽しかった」
ハナが明るい声で話し始めた。
私の国では、お風呂に入る習慣はなかったから、兄弟でいっ
しょに入ったこともなかったけど、楽しい感じだったんだろ
うと思う。
「こないだ、ハナと他の大学生の女の子たちと、スーパー
銭湯に行ったじゃない。あの大きなお風呂に
入るのとは、また違った風情があるんだろうね」
私は手の置き場を探しながら、ハナのひざ小僧の上がちょ
うどいい場所だと思いながら手を置いて、言った。
「子供のころはね、こうやってお湯の中に顔を入れたり
お湯をジャバジャバ掛け合って遊んでたのよ」
ハナはそう言いながら、子供のようにはしゃいでいた。
「ちょっと、顔に掛けないでよ」
私の言葉におかまいなしのハナに、私も同じようにして
やった。
「ああ、楽しい。子供の頃の私が元気をくれたみたい。
何だか落ち込んでいた自分がバカみたいに思えてきち
ゃった」
いつもの元気な彼女にもどったように、ハナは言った。
「言いたくなければ言わなくていいし、言いたければ
言えばいいだけだよね。言おうか、どうしょうかなん
て考えなくても、その時の私がしたかったようにする
だけなんだよね」
ハナは、自分に言い聞かせるように話した。
風呂からあがっても、2人でずっとくっついて、気がつ
くと、そのまま寝てしまっていた。
あまりに明るくて、窓から空を見上げた。
この雨の季節に、お月様を見れるのは珍しくて、その上
満月だった。