目覚め
これまでとは違って環境設定に凝った話をゆっくり書いていこうと思っています。
少々淡々としてますが、主人公の性格的にも大体はこんな感じで進むと思いますので、苦手な方はバックしてください。
目を覚ます。
ぼんやりとした視界で辺りを見渡すと、徐々に鮮明に見えてくる。
このだだっ広い空間を囲む形で石の壁があり、それどころか床や天井も同じく石で出来ていた。一ヶ所だけ扉のない出入り口があり、そこからは暗くて何も見えない。
どこだろう、ここは。
そう思うと 頭の中に薄い透けた青色の四角形が思い浮かび、そこには『現在地:??? B3F』と表示されていた。
ゲームみたいだなと思う。どこかは分からないが、ここは地下のようだ。
とりあえず地上に向かえばいいのだろうかと思い、出入り口に向かう。近づいてみても暗く、覗けそうにはなかった。
なにか明かりになるものはないかと今一度見回したが、ここには今にも壊れそうな木製のベットに古びたマットレス、毛布、枕しかない。
よくよく考えてみると今いるこの空間もどうして明るいのか、謎だった。影は真下に出来ているのだが、見上げてみても光源は見つけられず、眩しさは感じない。
仕方がないので恐る恐る一歩足を踏み入れてみる。
途端。急に明るくなり、そこには成人男性が両手を広げた程度の幅で出来た道が続いていた。咄嗟に後ろを振り返ると、今出た出入り口の奥は明るいままで、さらに奥にベットが見えた。
踏み入れた空間は明るくなるってことだろうか。本当にゲームみたいだ。
そういえば、ゲームの中に入ってしまうシナリオの小説をいくつか知っている。今の僕は正しくそれなのではないだろうか。
でも、今ある状況になりそうなゲームには覚えがない。だいたいこの手のやつって直前までゲームしていたりするが、僕は———
そこまで考えて、ハッと気が付いた。何で今まで気づかなかったのだろうと思う。
「僕、誰だっけ……」
思わず口に出た声と共に「CN:ビベル・ドルマス」という文字が先ほどの四角と一緒に思い浮かぶ。
しかし、僕には、その声も、名前も、覚えが、なかった。
あまりの出来事に少し思考が止まってしまったが、少しずつ再起動し始める。
自分の体を見回す。15~6歳の男性の体をしており、ぼろぼろになった硬い布製の服と靴を身に纏っている。道具は何も持っていないが、体育会系の部活に入っていたのだろうかというぐらいの筋肉があった。
この身体にも覚えはない。
何とも言い難い不安を覚えるが、まずは先に進もう。
まるで何かから逃げるように、思考を前に向ける。
ずっと石造りの道が続くだけで何もない。後ろを振り向くとこれまで通ってきた道と奥に空間が見える。
ぼとっ
何か重い音を後ろに聞き、前を向き直る。
そこには子供ぐらいの身長しかない二本足の犬のような化け物がいた。なんだっけ?確か……そうそう、コボルトなんて呼ばれてるやつだ。そいつは右手にもつこん棒を振りかぶりながら跳んできて
「いっっったぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
無意識に腕で頭を庇ったが、両腕に鈍い痛みを覚える。折れた感じはしない。
「あ、あ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
尻もちをついてしまった体を起こして我武者羅に来た道を引き返す。
後ろから追いかけるように鳴き声と足音がする。
逃げなきゃ、逃げなきゃっ!
と、その道を塞ぐように天井から更にコボルトが落ちてきた。前にもコボルト。後ろにもコボルト。挟まれた形だ。
「はっはは……」
僕は絶望のあまり力が抜けてその場にへたれこんだ。
後ろから思いっきり殴られて前に倒れる。痛む体を起こそうとすると更に前からも殴られる。殴られる殴られる。殴られる。殴られる。
僕は死んだ。