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中年勇者とロリの旅  作者: どらねこ
3章 テタンドの街編
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26話 己の指針

「こんなところでコソコソ壁のぼりたぁ……お前そんな暗いヤツだったか?」

「……何しに来た」

「いや、魔王の反応がでたっていうからな? 賞金目当てで現場に来てみたら、この有様だ」


 随分気張ったなぁ、と言ってドモンは辺りに倒れた兵士たちを眺める。

 そんな仕草にも、懐かしさを感じてしまう。

 そうか、世界を敵に回すってことは……コイツラも敵に回すってことだったんだよな。

 親友を斬る。……出来るだろうか、俺に。

 いや、躊躇うな。隙を自分から作ってどうする。


「戦うというなら、容赦はしないぞ」

「ハッ! 手負いのお前に二人がかりで負けるわけねえだろ。俺だけじゃねえ、こっちにゃレネリーもいるんだぜ?」


 ドモンは鼻で笑う。

 それを無視して、俺はついさっき腰に差したばかりの血に染まった剣を再び取り出した。

 ドモンもレネリーも、俺の仲間だ。だけど、リーベを守るためには戦わなきゃいけない。

 たとえ二対一だとしても、負けるわけにはいかないのだ。

 しかし、剣先を向けられたドモンは動じず、ガシガシと粗雑な動作で頬を掻くのみ。


「……だからまあ、今回は見逃してやるよ。早く行け」

「……は? どういうことだ」


 意味が分からない。

 見逃す? どういうことだ?

 耳を疑い聞き返した俺に、ドモンは苛立ったように声を荒げる。


「だから! 今回は見逃すっつってんだろ!」

「なんでだよ、説明しろ。いきなりじゃ信用できるか!」

「ごめんねヴォン、この人照れ屋だから」


 俺たちの言い争いにレネリーが口を挟んだ。

 しなやかな指をドモンの手に当てている。

 ドモンはパクパクと顔を赤くしながら言葉に窮していたが、少し間が空いて「だ、誰が照れ屋だ!」となんとか絞り出す。

 そんなドモンを微笑ましげに流し見ながら、レネリーは崖の上を指差した。


「行きなさい、二人とも。ここはあたしたちがなんとかしてあげるわ」

「だが……」


 俺たちの部屋を訪れたとき、レネリーは言っていた。

 報酬のために魔王を倒しに来たと。

 その魔王が目の前にいるとわかった以上、手を出してきて当然なんじゃないのか。

 疑心暗鬼になった俺の心が、レネリーの言葉を素直に受け入れさせてはくれない。

 二十年前の記憶が、民衆に裏切られた記憶が。脳裏を覆い尽くしていく。


「お姉さんのいうこと、わたしは信じる」


 そんな俺の耳に届いたのは、リーベの言葉だった。


「リーベ……?」


 俺は背後を振り返る。

 リーベはドモンとレネリーに向かって、グッと親指を突きだしていた。


「だってお兄さんとお姉さんは、おじさんの仲間だもん! そうでしょ?」

「……チッ、その通りだぜリーベちゃん」


 ドモンが照れくさそうに言う。

 それは紛れもなく、二十年前から変わらぬドモンの姿だった。

 ああそうだ、俺は何を馬鹿なことを。

 コイツラだって、裏切られた側の人間なんじゃないか。

 ガツン、と脳を岩で揺らされたような衝撃が走る。レネリーは言う。


「……正直に言うと、多分あの時再会なんてしていなければ、あたしたちはあなたたちを殺そうとしたと思う。……でもねえ、もう無理なのよ。リーベちゃんの幸せそうな姿が、娘と……エルサティと重なるんですもの」

「ま、まあ、そういうことだ」


 ドモンもレネリーの言葉に賛同した。

 レネリーは振り返り、背後を確認する。

 まだ増援がくる気配はない。


「この街の精鋭はあなたが全滅させたわ。だけど、まだ一番強いのが残ってる」

「一番強いの?」

「新勇者だよ、お前も知ってんだろ?」


 新勇者。

 新たに任命された勇者。

 勇者に任命される前から剣の心得がある人間。

 そうだ、まだソイツがいたんだ。


「そいつはあたしたちが何とかするわ。だから……」

「さっさと行けぇ!」


 ドモンが怒鳴る。

 この言葉を信じないわけにはいかなかった。


「悪い二人とも、恩に着る!」

「ありがとう、ドモンさん、レネリーさん!」


 俺はリーベを背負い、崖を上り始める。


「見つけましたよ、魔王!」


 遠くで誰かの声が聞こえた。

 俺は一瞬そちらに気を移す。

 短く切りそろえられた金髪に、整った目鼻立ち。そして何より体中から溢れ出る実力者のオーラ。

 見まがえようがあるはずもなく、それは新しい勇者であった。






「おじさん……っ」


 背中でリーベが声を震わせている。


「お兄さんと、お姉さん……血が……っ!」


 聞こえなかったふりをして、俺は崖を上っていく。

 あと少しだ、あと少しで――。


「はぁっ……!」


 昇ること十数分。俺はついに断崖絶壁を上りきった。

 下をチラリと確認する。

 ドモンとレネリーは血だらけで倒れかけていて、新勇者は未だほとんど傷を負っていないようだ。

 下から目を切り、続く道の方へと向き直る。

 一番の難所は抜けた。これで、あとは逃げるだけだ。そう、あとは逃げるだけ。

 リーベも段々と力の押さえ方が上手くなってきている。ここさえ逃げ切れれば、捕まる可能性はグッと低くなる。あとは逃げるだけでいい。


「いくぞ、リーベ」

「おじさんっ!」


 リーベが俺の前でとうせんぼうでもするように立ちふさがった。

 俺の背中でずっと二人の戦いを見ていたのだろう、目には涙が浮かんでいる。


「早く逃げるぞ、あいつらの戦いを無駄にする気か」

「わたし、助けに行く! なんだか力が湧いてくるの、今のわたしならあの人とも戦えるかも――」

「駄目だ」


 俺はすぐさま却下する。

 考えるまでもない案だ。


「たしかに魔王の力に覚醒したお前は、何も鍛えていない一般人よりは一段上の力や速さを手に入れたかもしれない。だけどな、それだけで勝ち目が生まれるほど戦いってのは甘くない。戦いを舐めるな、リーベ」

「おじさん……」


 ……もし。仮定の仮定の話だが……俺が行けば、助けられるかもしれない。

 二対一では勝てなくとも三対一なら。

 だが、俺にはリーベが――


「おじさん、助けに行ってあげて」


 俺の心を見透かしたかのように、リーベが言った。

 今度は即答することができない。


「……いや、だが……」

「おじさんの大切な人なんでしょ?」


 そうだ、大切だ。大切な仲間だ。


「それにあの人たちはわたしにも優しくしてくれた」


 当たり前だ、アイツらは俺と違って根っからの良いヤツなんだ。


「おじさんはわたしのことは大切にしてくれるけど、自分のことはいつも後回しで……わたし、おじさんには自分のことも大切にしてほしい! おじさんは今どうしたいのか、言ってよ!」


 過去の記憶と、今の状況と。

 今まで自分がやってきたことと、してきたことと。やられたことと、してもらったことと。

 リーベの言葉に、俺は頭の中がぐちゃぐちゃになって。


「……俺は、お前を守る」


 結局口を突いて出たのは、この上なくシンプルな言葉だった。

 そうだ、俺はリーベを守りたい。

 その気持ちに嘘はない。完璧に、そして完全に本心だ。

 でも、それだけじゃなかった。


「だけど、アイツらも守りたい。死なせたくない」


 続けざまに自らの口からでた言葉に、俺は呆れる。

 なんてわがままな願いだろうか。

 あっちもしたい、こっちもしたい。これじゃまるで子供だ。

 だけど、それができるかもしれない力が自分にはある。

 何年も何年も戦い続けて得た力が、俺にはある。


「おじさんならできるよ。だっておじさんは、わたしの勇者だもん」


 最後の背中は、やっぱりリーベが押してくれた。


「……リーベ、その岩の影に隠れててくれ」


 俺の指示に従って、リーベは岩陰に隠れる。

 これで崖の下から弓で狙われたりする心配はないはずだ。


「必ず戻ってくる。心配するな、俺には勇気がついている」


 そう言って、俺は崖下に飛び降りた。

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