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中年勇者とロリの旅  作者: どらねこ
3章 テタンドの街編
23/28

23話 二十年間の重み

「なるほど、両親を探してるのね」

「ああ、そういうことだ」


 俺はレネリーにそう答えると、一つ息を吐いた。

 それを見て、ドモンが訝しげな顔をする。


「なんだヴォン、随分と疲れた顔だな」

「ああ、お前が全然理解してくれないからな」


 まさか『リーベは俺の子供じゃなくて、本当の親を探してるんだ』ということだけを伝えるのに一時間もかかるなんて、予想外も良いところだ。

 レネリーは一度説明すればわかってくれたというのに、この大男ときたら……。

 俺のジトッとした視線を受けたドモンは、ジャスチャーで謝る素振りを見せた。


「……まあ仕方ないか、ドモンだもんな」

「仕方ねえだろ、難しいことは頭が拒否しちまうんだから」

「単細胞だからね、あんた」


 レネリーの言葉に軽く笑いながら、俺は膝に乗せたリーベの身体を揺する。


「リーベもふざけ過ぎだぞ?」

「ごめんなさーい」


 リーベは言葉だけの謝罪を口にする。

 本気で怒っているわけではないし、まあいいか。

 こういうときにぐちぐち怒ってしまうと、本当に大事な時に怒っても話を聞いてくれなくなってしまうのだ。

 だからいつか来るかもしれないその時のために、今は寛大な心でリーベを許してやろう。

 でも何かお仕置きはしておかないとな。……くすぐっておくか。


「こちょこちょー」

「ひゃんっ! ちょっ、おじさん、くすぐったいよぉ!」


 リーベは笑いながら涙目で俺に抗議する。

 きちんとお仕置きもしたし、もう今回の件は許して問題ないだろう。……可愛いし。


 そんなリーベを、レネリーがしみじみと眺めていた。

 こういう目をされると、なんだかコイツも年を取ったんだなぁと感じられるな。

 本当に外見はほとんど変わっていないが、二十年間で中身は大人になっているのだろう。


「かわいいわねぇ。リーベちゃん、ヴォンのこと好きなの?」

「大好きだよ! お姉さんは?」

「そうねぇ……友人としてなら好きだし良いヤツだと思うけど、男としては無いわね。あたし、くよくよ悩む男はタイプじゃないから」

「ガッハッハッ、振られたなヴォン!」


 ドモンが大きな声で言う。耳が痛え。


「うるせえ、振られてんのはお前だろ」

「それは言わねえ約束だろうが!」


 そう、一緒にパーティーを組んでいた二十年前、ドモンはレネリーに事あるごとに告白しては、その度に玉砕していたのだ。

 むしろそれが一種の恒例行事みたいになっていて、俺がドモンを慰めるために企画した『玉砕百回記念』には当人のレネリーまで参加してお祭り騒ぎだったからな。

 あれってよくよく考えると結構おかしなことだったよなぁ。


 そんな昔の思い出に浸っていると、目の前のドモンがニィッと邪悪な笑みを見せた。


「……それにな、ヴォン。お前の情報は二十年前で止まってるぜ?」

「は?」


 どういうことだ?

 理解できない俺に、ドモンとレネリーはお揃いのリングを見せつけてくる。

 ……おいおい、嘘だろ?


「……まさか、付き合ってるのか?」


 震える声の俺に、ドモンはニヤつきながら首を横に振る。


「違う違う、その先だ」

「……結婚か!?」

「ええ、そうよ」


 レネリーが頬を染めながら頷いた。

 結婚……結婚!? 結婚って、あの結婚か!?

 頭の中がパンク寸前にまで追い込まれ、俺はしばし口をパクパクと開閉することしかできない。


「……驚いた。まさかお前らが結婚する日が来るとは思わなかった」


 なんとか口から出すことができたのは、月並みな言葉だけだった。


「あたしも驚きよ。こんな脳筋馬鹿男と結婚するなんて」

「おいレネリー!?」

「でも、優しいところもある人なの。二十年間で色々あったけど、常に横で癒してくれたしね」

「やめろい、照れるじゃねえか」

「惚気んなお前ら」


 イチャイチャと身体を寄せ合うドモンとレネリー。

 そういうのは余所でやれ。うちのリーベに悪影響だろ。


「ひゅーひゅーだね」


 リーベは膝の上から俺を見上げて言う。

 むぅ……あまりこういうことから離しすぎるのもよくないのだろうか。

 世間知らずに育ちすぎては、将来悪い男に誑かされる危険がでてくるかもしれない。

 迷うな……どうすればいいんだ? 子育てというものは難し過ぎやしないか。

 俺は悩んだ末、リーベに二人のそういう姿を隠すのはやめることにした。

 このくらいなら健全だからな。問題はないだろう、きっと。

 ただ、問題があるかないかということ以前に、二人がイチャイチャしている光景を見ている俺には一つ思うことがある。


「でもあれだな。一緒に旅した仲間同士が結婚するってのはなんというか……気持ち悪いな」

「ちょっとヴォン!?」

「ああいや、言葉足らずだった。悪い意味じゃなくてだな。こう、現実的じゃないというか、脳が理解を拒んでいるというか」


 例えるならそう、父親と母親が二人きりでラブラブしているところを不意に見てしまった時の感覚に近い。

 何年もパーティーを組んでいた俺たちは正直家族同然だと思っていた分、なんだか言葉にしがたい気持ち悪さを感じるのだ。


 とはいえ、もちろん俺にも祝福したい気持ちは大いにある。

 ただ少し、呑みこむのに時間がかかりそうなだけだ。


「つってももう四十手前だろ。遅すぎるくらいだぜ」

「そうなんだよなぁ」


 ドモンの言葉は間違っていない。

 俺ももう四十歳が目前に迫ってるし、世間で言ったらとっくに結婚して子供がいてもおかしくない時期なんだよなぁ。

 そう思っていると、レネリーがリーベに近づいて、頭を撫でた。

 頭を撫でられるのが好きなリーベは、気持ち良さそうに目をつぶる。

 それを見て、レネリーは「はぁっ……」と空いている方の手を赤く染まった頬に当てた。


「本っ当に可愛いわね、リーベちゃん。頭もいいし。エルサティもリーベちゃんみたいに育ってくれればいいんだけど」

「ん? おいレネリー、エルサティって誰だ?」

「ああ、うちの子の名前よ」

「……ちょっと待て、子供もいんのかお前ら!?」

「ええ、二年前に産んだの。見えないでしょ?」


 そう言って腰に手を当てるレネリー。

 たしかに子供を産んだとは思えないほどのプロポーションではあるが、今の問題はそこじゃなくて!

 レネリーが、子持ち!? マジで言ってるのか!?

 レネリーが俺をからかっているのかと思ってドモンを見てみるが、ドモンはウンウンと頷くだけだ。

 ドモンは嘘がつけないタイプで、嘘をつくとすぐに笑ってしまう。つまり、レネリーの言っていることは本当だってことだ。


「はぁー……ってことは、お前らももう『親』なのか。なんだか置いてきぼりにされた気分だ」

「馬鹿言え。お前にはリーベちゃんがいるじゃねえか。な、リーベちゃん?」


 今度はドモンがリーベの頭を撫でた。

 大きな手でガシガシと乱暴に撫でるその仕草は俺からすると少しハラハラするものだが、リーベは嫌がる様子はない。


「うん。わたしはおじさんに色々教えてもらってるよ? だからわたしのおじさんはわたしのお父さんみたいなもの!」


 そんなリーベの言葉に、俺は胸がジンと熱くなるのを感じる。


「リーベ……ありがとな」

「……あ、許嫁! 許嫁!」

「それは絶対ないからな?」


 慌てて言い直したリーベの言葉を、俺は冷静に却下した。




 それから数時間話し込んで、夜。

 レネリーとドモンが帰るというので、俺は玄関まで見送りに出る。


「長居しちゃってごめんなさいね。つい楽しくて」

「いいって。リーベも喜んでたしな」


 久しぶりに俺以外の他人と長く話したリーベは疲れてしまったようで、すでにうとうとと目を擦っている。しょぼしょぼになった目が、まるでぬいぐるみの目みたいで可愛らしい。

 微笑ましげにリーベを眺める俺を見て、レネリーはクスリと笑う。


「まあ、楽しそうで何よりだわ」


 それにドモンが続いた。


「正直会う前は結構緊張したからな。『もしまだ立ち直ってなかったらどうする?』って二人で話し合ったりしてたんだよ」

「いや、ついこの間までは正直立ち直ってなかったんだけどな。この子のおかげでなんとかここまで元気になったんだ。俺にとっちゃリーベは女神様みたいなもんだよ」


 リーベを見下ろすと、リーベも眠そうな目で俺を見上げる。

 そしてゆっくりとした動作で自分を指差した。


「わたし、女神様?」

「ああ、女神様だ」


 俺は笑いながらそう答えた。



 完全に眠気がピークになってしまったリーベを寝室に残し、俺は玄関前で二人と話す。


「もし魔王について何かわかったら、お前に協力を頼んでもいいか?」


 ドモンの言葉に一瞬リーベの顔がよぎった俺だが、すぐに頭からかき消した。

 リーベが魔王なんてこと、あるはずがないのだ。


「……ああ、わかった。お前らの頼みなら断れないからな」

「悪いわね」

「いいや、大丈夫だ。お前らこそ、まだ戦えるのか?」


 俺が尋ねると、二人はもちろん、とでも言う様に力強く頷く。


「あたぼうよ、俺たちゃまだまだ現役だぜ! 魔王をとっ捕まえて、レネリーの親のところに預けてるエルサティに、新聞の一面に載った俺たちの顔を拝ませてやるんだ! な、レネリー?」

「ええ、ドモン。それに、これから大きくなっていくエルサティの為にはお金も必要だしね。報酬はいただくわ」


 子供のことを語る二人を見て「やっぱり変な感じがするなぁ」と感じながらも、同時に少し微笑ましくも思う俺であった。

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