21話 新しい勇者
「やっぱりおかしい……」
街中を歩きながら、俺は呟く。
今日は数日振りに魔物退治をしたのだが、前回と同じく……いや、前回以上に魔物が異常に俺たちの前に現れた。
「いっぱいお金貰えるんだから、良いんじゃないの?」
「それはそうなんだが……」
あそこまで行くとどう考えても普通ではない。
普段群れない魔物が集団で俺たちを狙ってくるなんて現象を体感して尚、素直に喜ぶなんてことはさすがにできそうになかった。
魔物が例外なくリーベではなく俺を狙ってくるのは不幸中の幸いなのだが、このまま魔物がもっと呼び寄せられるようになってしまうと、いつかリーベを守りきれなくなる。
……他の方法で訓練することも、考えた方がいいかもしれないな。
別に鍛える方法は魔物と戦う以外にもある。
対人で、木剣などを使って模擬訓練を行うのでも充分なはずだ。
命の危険がない分ぬるくなってはしまうが、リーベを危険に晒すよりはマシだろう。
「魔物退治はしばらくやめておこう」
「えー! そしたらごちそう食べられないじゃん!」
不満を垂れるリーベ。
俺はリーベに良いことを教えてやることにした。
こういうのは発想の転換が必要なのだ。
「いいかリーベ? ごちそうは滅多に食べられないからごちそうなんだ、いつも食べられたらそれは『普通の食事』になってしまう。わかるか?」
「そんなの詭弁だよおじさん! 子供は美味しいものを食べれるだけ食べたいんだから」
詭弁なんて言葉を使う子は子供じゃないと思うぞ。
リーベは賢い子だが、賢い故に説得には苦労するところもある。
これも子育ての苦悩というやつなのだろうか。
「なあリーベ、俺の作る料理は美味しくないか?」
リーベの言う『ごちそう』とはつまり、外食のことだ。
俺も料理の腕にはそれなりに自信があるし、栄養バランスも素人なりに考えて作っている。
美味しいと思ってもらえていると思っていたのだが、もしかしたらリーベは俺の作る飯はあまり好きではないのだろうか。
……もしそうならショックだな。立ち直れなくなりそうだ。
「……ううん、美味しい。わたし、おじさんの作るごはん大好きだもん」
よかった、俺の不安は的中せずに済んだようだ。
俺の悪い予感は良く当たるからな。よかった、本当に良かった。
「でもさ、おじさんと一緒に外で食べるのも好きだよ? だっておじさん、わたしのお世話でいつも忙しそうにしてるから……お外で食べれば、料理しなくて済むでしょ?」
「リーベ……お前、そんなこと気にしてたのか?」
「子供だって大人が思ってるよりいろいろ考えてたりしてるもん」
普段しきりにごちそうが食べたい、ごちそうが食べたいと言ってたのはそういうことだったのか……まったく、この子はどこまでいい子なんだ。
「俺のことを思ってくれるの気持ちは本当に嬉しい。だけどな、そんなことは気にしなくていいんだ。なぜなら俺は、リーベのために働けるのがいっちばん嬉しいんだからな」
そう言って頭を撫でてやる。
金髪をグシャグシャにされながらも、リーベは俺を見た。
「本当?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ今日はごちそうじゃなくて、おじさんが作ったご飯がいい!」
「任せとけ、今までで一番美味い料理を作ってやるぞ!」
「一番!? やったー!」
ピョンピョンと飛び跳ねるリーベ。
この期待を裏切らないような、すごい料理を作らないとな。
俺は料理の献立を考えてみる。
普段通りじゃ意味がない。もう数ランク高い食材を使って、おかずも多くして……そうなると、どう考えても外食より高くつきそうだ。
「えへへ、楽しみだなぁー! ごはん、ごーはーんーっ!」
だがまあ、リーベのこの笑顔の前ではそんなことはどうでもいいのだ。
今日は俺にとって、リーベが俺を凄く思ってくれているとわかった『特別』な日だからな。
全力でごちそうを振舞ってやることにしよう。
……やっぱり俺はリーベには勝てないなぁ。
そんなことを思いつつ、苦笑する俺だった。
食材を買い終えた俺は、リーベと共に宿へと向かう。
「大丈夫か? 重くないか?」
「任せてよおじさん!」
リーベには一番小さい買い物袋を持ってもらっている。
重さ的にはリーベに任せても大丈夫だとは思うのだが、子供の掌は柔らかい。
鬱血してしまいやしないかと、ついつい心配になってしまう。
「大体、おじさんは心配性すぎだよ。子供なんて放っておけば勝手に育つんだから」
「お前はどこでそういう言葉を覚えてくるんだ?」
教えた覚えはないんだが。
……それを俺が知らない時点で、子供は勝手に育ってるってことなんだろうな。
たしかに俺も親の見ていないところで勝手に育っていた気がする。
ガキ大将と喧嘩したり、崖から飛び降りる度胸試しをしたり……子供は親が見ていないところで成長していくものなのだ。
「号外です! 号外でーす!」
「お?」
道の真ん中で、新聞の号外が配られていた。
俺はそれに興味を惹かれる。
普段そんなものが配られることなど滅多にない。
号外は基本的に無料で配られるので、新聞社の採算が合わないからだ。
ただでさえ新聞はいまだに高級品の範疇で、庶民までまだギリギリ行き渡っていないレベルだからな。
それを無料で配ってまで世の中に知らしめたい情報とは一体何なんだろうか。
「リーベ、ちょっと待っててな。絶対知らない人に付いていくなよ?」
俺はリーベを待たせておき、号外を配っているところに近づいていく。
号外の内容に興味がある者、新聞という物自体に興味がある者、後で誰かに売りさばこうと思っている者……様々な人々が集まり、周囲はおしくらまんじゅう状態になっていた。
だが、俺は勇者である。この程度の人ごみならば、特に支障もない。
重心を崩すこともなく号外を受け取り、リーベの元へと戻った。
「新聞? 何が書いてあるの?」
リーベが背伸びして覗き込んでくる。
「何々……『新たな勇者、協会により任命』……なるほど、ついに俺は先代勇者になったってわけだな」
「新しいゆうしゃが決まったの?」
「ああ、そうらしい」
「なんで?」
リーベは首を捻る。
こういうところは子供だな。
「いいかリーベ、なんでってそりゃあ……」
……いや、たしかにそうだ。
勇者が任命されるってことはつまり……!
俺は新聞の続きに目を走らせる。
「……魔王の魔力を確認。場所は――テタンド。つまりこの街だ」
この街で、魔王特有の魔力反応が確認されたらしい。
普通、魔王というのは街中で見つかることはほとんどない。
この異常事態に、早速この町に新たな勇者が駆けつけているようだ。
幸いにして新勇者は元々剣に覚えがあるらしく、『歴代最短記録での魔王討伐も充分あり得るだろう』と新聞は語っている。
「まおーがいるなんて、物騒だねぇ」
「そうだな」
リーベはまるで自分には関係ないとでもいうような暢気な声をだす。
まだ危機感を抱けていないのだろう。
前の魔王の所業を知らないのだから、無理もないかもしれない。
「とりあえずお家帰ってご飯食べよ、おじさん!」
リーベが俺の手をとる。
その時ふと、最近リーベが高熱を出したことがよぎった。
あの時の魔力……それを間近で浴びて、俺はどう思った?
『魔王と同等の魔力』……そう思ったんじゃなかったか?
「おじさん? おじさーん?」
「……あ、ああ。悪いなリーベ」
「もう、どうしたの? 早く帰ろうよぅ」
「……そうだな、帰ろう。……帰ろう」
……まさか、な? それはない、それはないだろう。
今回ばかりは、俺の悪い予感が外れて欲しい。いや、外れてもらわないと困る。
降ってわいた疑惑を必死で振り払い、俺は宿へと戻るのだった。
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