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中年勇者とロリの旅  作者: どらねこ
3章 テタンドの街編
15/28

15話 泣き虫

 本屋に寄った数時間後。

 風呂に入った俺とリーベはパジャマに着替え、ベッドに潜り込む。

 いつもなら背中を優しく叩きながらリーベを寝かしつけるところだが、今日は違う。


「ご本っ、ご本っ」


 買ってきた本を読むからだ。

 リーベはわくわくしながら俺が本を読み聞かせるのを待っている。

 興奮しすぎて眠れないんじゃないかと思うほどだ。

 ……こんなに喜んでくれるなら、もっと早く本を買ってやればよかったな。

 リーベも言いださなかったということは、やはり俺に対してどこかで遠慮している部分があったのだろうか。

 でも、リーベは今日こうして言ってきてくれた。本が欲しいと。

 それはきっと、距離が縮まったことに変わりないのだろう。


「おじさん早くー! 早く読んでー?」


 身体を布団に収めたリーベは、小さな頭を持ち上げて俺に言う。

 その蒼の瞳に映る俺は、リーベにはどんな風に見えているのだろうか。

 優しく見えているといいんだが。


「……おう、任せろ」


 俺はリーベにそう答え、買ったばかりの本を開く。

 紙の本特有の匂いがふわりと広がった。

 俺はリーベに絵が見えるよう本の角度を調整し、初めの文を読み始める。


「むかしむかし、あるところに――」







「――勇者の青年は、お姫様と結婚して末永く幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし。……どうだった、リーベ?」


 リーベが寝たら終わりにしようと思っていたのだが、結局最後まで読み終えてしまった。

 内容的にはまあ、オーソドックスな勇者の話だ。

 教会に勇者として任命された平凡な少年が、魔王を倒すために十年間にも及ぶ努力をし、その甲斐あって魔王を倒す。

 青年となった少年は世界中に持て囃され、お姫様と結婚してハッピーエンド……とまあ、こんなところだろうか。


 都合が良すぎるところはいくつかあるが、おとぎばなしに難癖をつけるのはナンセンスだろう。

 お話はお話、現実とは違うのだ。この本も、子供たちが読むべき本としては良い内容だったと思う。


「とっても面白かった! ゆうしゃはすごいんだねぇ!」


 その証拠に、リーベもキャッキャと喜んでいる。

 この本では市民たちは勇者に悪感情を持ったりしないし、仲間が魔物を殺すことに耐えかねて自死を選ぶなんてこともない。

 しかし、それでいい。そんな現実は子供たちに見せられるようなものではないしな。

 それに、俺はこの話のような素晴らしい勇者にはなれなかったが、それでも勇者という存在がすごいと言われるのは嬉しかった。

 そんなことで嬉しくなってしまうあたり、俺も中々単純である。


「でもこのゆうしゃも凄いけど、やっぱりわたしの一番のゆうしゃはおじさんだね」


 リーベはうつ伏せだった身体をくるりと翻し、俺に身体を向けて言う。


「なんでだ?」


 さすがにそんなことを言われるのは予想外だった。

 この話の勇者は若いし、顔も断然俺よりカッコいい。

 それを抜きにしても、どんな困難にもへこたれずに立ち向かい、魔王討伐という目標の為には一切の妥協をしない、心身ともに強い人間だ。

 同じ勇者でも俺とは格が違うというか……いや、自分を卑下するつもりはないのだが。

 ただ現実的に、この勇者に勝っているところが見当たらないだけの話だ。

 だから、どういう意味でリーベがそう言ったのか、それが気になった。


「なんでって、そんなの決まってるじゃん。たしかにこの人はいっぱいな人間を助けたけど、わたしが助けられたのはおじさんにだもん。だから他の人がどれだけ凄いゆうしゃだろうと、わたしの中の一番はずーっとおじさんなのっ!」


 俺の前で、リーベは恥ずかしげもなく言う。

 そして言い終わると、えへへー、と朗らかに笑う。


「……リーベ。お前、俺を泣かせようとしてるな?」


 正直、今にも泣きだしてしまいそうだった。

 大人としての最後のプライドでなんとか耐えているだけで、多分目は潤んでしまっているだろう。鼻水もでてきたし。

 そんな俺を見て、リーベは俺の頭に手を伸ばしてくる。


「えー、おじさんってば泣き虫だなぁもう、よしよししてあげよっか?」

「いらん。俺はもうすぐ四十だ」

「泣き虫に年は関係ないよぅ」

「俺は泣き虫じゃないし、今も泣いてないぞ。ぎりぎりで耐えきった」


 そう言うと、リーベは笑う。

 正直、今の俺は傍から見たら大分情けないに違いない。

 四十手前の男が、四、五歳の子供に泣かされかかっているのだ。

 でも、リーベはそんな俺が一番の勇者だと言ってくれた。

 滅茶苦茶にカッコいい、人間の良いところを詰め込んだような勇者と比べても俺が一番だと、そう言ってくれた。

 ……こんなん言われたら、泣かない方が無理ってもんだろうが。


 俺は熱くなる目頭を押さえる。

 決壊した涙腺を、リーベには見えないように手で隠す。

 しかし、リーベには全てお見通しのようだった。


「よしよしー」

「泣いてない、俺は泣いてないからな」

「はいはい、おじさんは泣いてないよねー」


 あやされてしまった。

 普段なら情けなくてたまらないことだが、今ばかりはそんな感情も湧かない。


「まったく、子供みたいだなぁおじさんは。……でも、そんなおじさんも大好きだけど!」

「……ありがとな、リーベ」


 俺が礼を言うと、リーベは「うんっ」と元気よく頷く。


 こんな良い子は滅多にいない。きっと親御さんも心配でたまらないだろう。

 ……この子はなんとしても親元に帰してあげなければ。

 そんな気持ちが強くなった、ある日の夜だった。

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