12話 子供は良い子
「わぁー、地竜がいっぱいだぁー!」
地竜車に乗って移動すること二日。
俺たちは「竜宿」とよばれる、地竜を乗り換えることのできる場所へと到着した。
街と街の間には、このような竜宿があることも多い。
地竜を使い潰さぬように、金を払えば、疲弊した地竜と同程度の価値の地竜を交換してもらえるのだ。
しかし俺は新しい地竜と交換するつもりは微塵もなかった。
おそらくここを利用する客の多くは西に向かうのだろうが、俺たちが向かうのは東の街、テタンド。
ここからテタンドへと向かう道のりは段々と狭く、そして険しくなる。
おそらくいくら地竜であっても街まではたどり着けまい。
強力な力を持つ地竜を野に放つのは禁止されているため、そうなると地竜では進めなくなった時点で地竜を殺さねばならなくなる。
無益な殺生を避けるため、俺はここで地竜を手放すことにしたのだ。
店の男性に声をかけ、地竜を引き渡す。
ここは基本的に地竜と地竜を交換する場所のため、かなり安値で売ることにはなってしまったが、仕方ない。殺すよりはましだろう。二十年前の魔王討伐の報奨金で金には困っていないからな。
ただ、これで一番不利益を被るのはリーベだ。
地竜との別れに手を振るリーベに、俺は告げる。
「リーベ、ここからは歩くことになる。俺のせいで大変な目に合わせちまって悪いな」
「いいよ、全然平気! わたしおじさんといるだけでとっても楽しいもん!」
そう無垢な笑顔を浮かべるリーベ。
この年で不平不満を垂れないどころか、俺への気遣いまでできるなんて……。
「……街についたら美味いもん食わせてやる」
このくらいは許されるはずだ。
それというのも、リーベが愛おしすぎるのが悪いのだ。俺は悪くない。
「……おじさんちょろすぎでは? さすがにちょっと心配になってくるよ……。もう少し子供相手でも疑うことを覚えた方がいいんじゃない?」
「なっ!?」
まさかの相手からまさかのことを言われたぞ!?
リーベはまるで諭すように、俺に言葉を投げかけてくる。
「子供だっていい子ばっかりじゃなくて、小悪魔みたいな子もいるんだからね。その辺忘れないよーに。わかった、おじさん?」
「わ、わかりました」
なんで俺は子供に子供の扱い方について教えられてるんだ……?
たしかに言っていることはわかる。
子供だからといって信用し過ぎちゃ駄目、それは確かにその通りだ。
「……でもまあ、誰が何と言おうとリーベのことは信用するけどな」
なぜなら俺はリーベのことを「子供だから」信用しているのではなく、「リーベだから」信用しているからだ。
「ふふ、わたしおじさんのそういうとこ好きだよ」
そんな風に嬉しそうな笑みを浮かべて、リーベはスキップしながら街への道を歩き出す。
「おいおい、あんまりはしゃぐと体力が持たないぞー」
俺はその後ろを歩いて追いかけた。
そして一時間後。
「おじさんおじさん」
「どうしたリーベ」
「つ、疲れた……」
リーベはたった一時間でグロッキーになっていた。
まだ本格的に厳しい地形になってきていないとはいえ、さすがに幼児のリーベには厳しい道のりであったようだ。
「おう、そうか。……乗るか?」
「おんぶしてくれるの!?」
リーベはパァッと目を輝かせる。
そんな顔されるとなんでも即座にやってあげたくなってしまうが……俺はそんな衝動をグッと抑え込んだ。
そしてとぼけるような素振りをする。
「ああでも、さっき子供の言うこと信じすぎるのはよくないってリーベに言われたからなぁ」
「あっ、そういうこと言うの? それならおじさんだって、わたしのことは信じるって言ったじゃん!」
なんという正論。
しっかり根拠を携えて反論してくるとは、やはりこの子は天才なんじゃなかろうか。
「わかってるよ。ほら、乗れ」
言い負かされてしまったので、俺は大人しくリーベを背中に乗せることにした。
リーベは軽やかな動作で、むんずと俺の背中にしがみつく。
「まったくもー。子供を疑うなんて良くないよ? 子供なんて皆いい子なんだからさ~」
「さっきといってること全然違うぞお前」
「わたし子供だからわかんなーい」
都合が悪い時だけ子供を使いやがって……。
リーベが言う小悪魔みたいな子供って、もしかしてリーベ自身のことなんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら、俺はリーベを背負って歩き出す。
しばらく行くと、大きな岩が道を塞いでいた。
どうやら最近嵐か地震か何かで隣接する山から落ちてきたものらしく、その大きさはかなりのものだ。
縦横の長さは俺三人分ほど、この分だと奥行きも同程度あると見積もった方がよさそうだ。
「おっきいねぇ」
「そうだな……リーベ、少し降りてろ」
俺は感嘆の声を上げるリーベを降ろし、剣を鞘から抜き出す。
そして上段に構えた。
「おじさん?」
不思議そうな顔をするリーベの前で、俺は剣を真っ直ぐに振り下ろす。
まるで豆腐を切る包丁のように、剣はするりと岩を切り裂き、パカリと道を開ける。
それを確認した俺は黙って剣を鞘にしまった。
腐っても勇者、これくらいは朝飯前だ。
「おおー? ……おおー!」
道の両端に分断された岩に、リーベは興味深々だ。
その断面に小さ手で触れ、キャッキャとはしゃぐ。
「すごーい、岩がつるつる! ねえおじさん触ってみて、つるつるだから!」
俺はリーベに促され、岩の断面に触れた。
一点の引っかかりもなく、滑らかな断面だ。我ながら上手く斬れたな。
「たしかにつるつるだな」
「これはすごいねぇ。芸術だねぇ」
そして腕を組み「この切り口、これは名匠のものに違いない……。高値がつきますよこれは~」とかなんとか評論家のようなことを口走る。
どこで覚えたそんなセリフ。
「さて……地図が正しければ、ここからテタンドの街まではあと少しのはずだ。もう歩けるか?」
俺がそう尋ねると、リーベは元気よく答える。
「歩けるよぅ! 本当はもうちょっと前から歩けたけど、言わなかっただけなんだから!」
「それは言えよ」
「えへへー」
笑って誤魔化しやがって、ったく……。
俺の前を歩き出したリーベは、パンパンと手を叩きながら俺を鼓舞する。
「ほらほらおじさん、あとちょっとだよ。もし辛かったら、わたしがおんぶしてあげるからね」
「絶対引きずられるだろそれ……」
背丈を考えろ背丈を。
「ついたー!」
「やっとだな……」
それからさらに十数分後。
色々とあったが、俺たちはなんとか街に辿り着く事が出来たのだった。




