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黒幕と困惑

「エレェェェェェクトリックゥゥゥゥ! ソウゥゥルッッド! アーウッットォォォォォ!」

「ユメ☆みたいーなアイ♪ アイ☆アイ☆ワタシのアイのディザティフィケーション♪」

 相変わらずタクヤさんのギターは滅茶苦茶で、蜜柑さんの音痴っぷりも酷くて。

「ん! んーんー。 ん? んんー、ん!」

「故に私は、その季節を厭う様になつたのです。そんな風な私でありましたから、貴女のお気に召さない今日、この日のことも......」

 絵筆を振り回すサクマさんは馬鹿みたいで、浩介さんが宙に綴る言葉は不明瞭で。

 そんな連中が発する我武者羅な光を浴びて、次々に亡者は崩れていく。

「〈贖罪に憂う弥生の風よ、森羅万象を吹き飛ばせ〉!」

 連中に負けじと俺も中二呪文を唱える。 こいつらの前では恥じることもない、清々しい気分だ。

 しかし......病院の敷地から出ようとしているのだが、どうやら亡者達はここを中心に生えてきているらしい。どうやってそのことを知ったかというと......。

「ふーん。ん、そっかーそっちはそんな感じかー。フリックフリックっ!」

 もの凄い指さばきでスマホを操るミオの成果だった。どうやら光り輝くスマホは電波状況が素晴らしいとのことで......なんで一人だけ攻撃役じゃないんだよ、お前......。

「連絡出来る限りの友達には伝えておいたから大丈夫っ! みんな燃えてるよー!」

 そんなわけで、俺達はこの場に次々と現れる亡者を討ち続けている。しかし、いつになったら終わるんだ、これ......。

「マスターキーを取り戻さんとなぁ。結局、行き着く解決策はそこだよ」

 スピーカーからのオッサンの声に、ノートを捲りながら応える。

「何か心当たりは無いのかよ? 地獄だけじゃなくて現世の誰かとか......〈双頭の狗の哭き声〉!」

「そんなこと言われてもなぁ」

 ポリポリと頬を掻くオッサンの姿が浮かぶような声音だった。地獄の中だけならまだしも、こっちの世界にまで広がってしまうと探すのは難しいだろう。マスターキーはいったいどこに......。



 しゃらん、と鈴の音が、鳴った。俺が屠った亡者がさっきまで存在した場所、つまり俺の正面から聞こえた気がした。しかし、鈴のようなものは見当たらない。

「ここじゃ」

 地獄で最後に聞いた、嗄れた老婆のような声に導かれて視線を落とす。目を疑った。

「桜!」

 地獄でタッグを組んだ、散々世話になった和装の少女が、相変わらずの無表情のまま右手を挙げて......俺の目の前で、マスターキーと思わしき鈴付きの鍵をぶらぶらと揺らしている。

「ますたーきーじゃよ。欲しいか」

 嗄れた声が桜の口から発せられていることよりも、その発言の内容に考えを巡らせる。ってことは、つまり......。

「桜、お前が......!?」

「ふん」

 桜は挙げていた手を下ろし、俺や周りで戦う連中を一瞥してから、何でもないことのように身体を宙に浮かせた。浮いて、俺の背丈をすぐに越えて、病院の屋上を越えるくらいまで......。

「閻魔だいおうも言っておったな。この世かいは想ったとおりになると」

 距離は離れているのに、まるで耳元で囁かれているように桜の声が届く。

「き様らには分からんじゃろうが......こと現世においては、あきらめた者のほうが多いんじゃよ」

 ぞっと鳥肌が立つ感覚を覚えて、一度は出ようとした病院の敷地の外に目を遣る。

「マジか......あれって......」

「にゃー......ダメでしょ、あれは」

「..............................んっ」

「駄目、ですね。だって、あれらは......。」

「ツカサ、どうしよう......」

 連中も俺が見ているものに気付いて、言葉を失う。

「さあて、わっちは世かいをほろぼすのに忙しいからな。せいぜい困れ」

 耳元で鳴る声だけを残して、桜はいつの間にか姿を消していた。

 俺達が戸惑っている間にも、〈あれら〉は続々と迫って来ている。桜が言うところの〈あきらめた者たち〉、つまり、現世に生きていて、いずれ地獄へ行くことになるであろう......ごく普通の人間達が。

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