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中二病患者と未来

「何なんだよ、あれ.. ...」

「ゾンビ?」

「空模様も妖しくなってきましたね。」

 空を見て目を細める浩介さん。確かに、さっきまではカーテン越しでも分かるくらいの日差しがあったのに......。

 亡者たちは次々に生えてきている。舗装されたアスファルトから、枝を整えられた樹木から、向かいの病棟の窓から、おぞましい姿を日常のこの世界に......。

「にゃほー。で、中二くん?」

 嫌なニックネームを耳に受けて、少し顔をしかめる。まぁ、こいつらが俺をそう呼ぶことに悪意がないことは分かってるけどさ。

「何か知っているふうだったよね? おねえさんに話してみー」

 可愛い声で訊いてくる蜜柑さん。顔が全然笑っていない......二十歳過ぎてからアイドルを目指し始めた人の凄みか。

「ああ、いや、信じてもらえるかは分からないけど......」

 そう前置きしたけれど。嘘だ。馬鹿げた話だけど、きっとこいつらなら分かってくれる。

 俺はついさっきまで見ていた「夢」について、出来る限り短くまとめて話した。こうしている間にも、亡者たちはこっちの世界に増え続けている。

「......というわけなんだ。バカバカしい夢の話だけどさ」

「信じる!」

「信じるにゃー!」

「信じるぜ!」

「信じます。」

「..............................ん!」

「......はは」

 思わず笑ってしまった。どうしてこいつらはいつも、こんなにも最高なんだろう。

「で、どーするぜ?」

「さて。」

「..............................ん!」

「とりあえず表出るにゃー!」

「うん、行こう! ね、ツカサ!」

「お、おう!」

 勢いよく病室を出て行く連中に混じって、パジャマ姿の俺も外へ向かう。寝起きで足元が覚束無いはずが、まるでさっきまで走り回っていたかのように身体が軽い。



 階段を駆け下りてロビーを抜けて正面玄関にたどり着くまで、看護師や患者の姿は全く見なかった。どこかに避難してくれていることを願って、大きな自動ドアを潜る。

「うわ、」

 ほんの数分前に窓の外に見つけた景色よりも、何段階も荒んだ世界が広がっていた。

 黒雲の空には怪鳥が飛び回り、埃っぽい澱んだ空気の中を亡者達がうろうろと彷徨っている。

「おい!」

 タクヤさんが指を差す。車椅子に乗った老人を守ろうとして両手を広げた看護師の右肩に、亡者のナイフが突き刺さる瞬間だった。

「マジかよ......」

「......ほんとに、ゲームの世界みたい......」

 勢いづいていた連中が一瞬で立ち止まるほどの〈地獄〉がそこにあった。

「ねぇ、ツカサ。どうすればいいの......?」

 パジャマの袖をつまんで訊ねてくるミオ。一瞬、あの日がフラッシュバックする。

 もう、あんな顔は見たくない。どうすれば、俺は.....。

 ん?

 袖をつかまれた先、右手にぬくもりを感じた。視線を遣ると、そこには......。

「〈エタノール・ワード〉!!」

 ボロボロの中二病ノートが、世界を照らすように俺の右手の中で光り輝いていた。

「......んしー、えまーじぇんしー、えまーじぇんしー」

 病院の館内スピーカーから、夢の中で聞き慣れた声が溢れてきた。

「いやぁ、まったく、大変なことになった。えまーじぇんしー、まさに非常事態だ。......だがなぁ、それでも、お前さんには解っているだろう? 地獄だろうが現世だろうが、どんな世界だろうが、ここは、」

 解ってるよ、オッサン。

「ここは!」

 眼前に迫ってくる亡者を見据えて、俺は〈エタノール・ワード〉を開く。

「想った通りになる世界だ!」



「〈永劫の闇を貫く無音なる一閃!〉」

 俺が唱え終わるのと同時に、目の前の亡者が塵になって消え失せた。

「ひゅー」

 蜜柑さんが口笛を吹こうとして、どうやら吹けないらしく普通に「ひゅー」と喋った。黙れ。

「閻魔さんってぇのは良いこと言うなあ!」

 がはは! と大笑するタクヤさん。

「想った通りになるってか! ってこたぁよォ!」

 刹那、眩むほどの閃光が視界を覆った。閉じた瞼を再び開くと、そこには笑顔のタクヤさん、の手にはいつの間にかエレキギターが......光ってる!?

「..............................ん!」

 サクマさんの右手には光り輝く絵筆が。

「合点。」

 浩介さんの右手には光り輝く鉛筆が。

「にゃー!」

 蜜柑さんの右手には光り輝くマイクが。

「わ、わわっ」

 ミオの右手には光り輝くスマホ......いつも通りだな、お前は......。

「中二くんはご存知だと思うけどにゃー!」

「モチのロン! オレ達も現在進行形の中二病患者だぜ!」

「しかしながら。」

「..............................ん!」

「ツカサも想ってるよね!」

 俺を含めた六人は、それぞれの想いを武器に変えて一斉に飛び出した。

 そうだ、本当は、ずっと想ってたんだ......!

「「「「「「未来を信じて何が悪い!!!!!!」」」」」」

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