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地獄と現世

「四百四十三階! で、次が......」

 桜が指し示す。あれが最後の〈 蜘蛛の糸〉か。

「急ごう!」

 ノートを開く俺と、近付いてくる亡者に刀を構える桜。

「〈 尽きぬ文言、果てぬ箴言、万物を否定する零を刻め!〉」

 俺が唱え終わるのと、桜が振り終えた刀を納めるのが同時だった。

「よし、このまま行けば......」

 身体中を「零」の文字で撃ち抜かれていく亡者たちには見向きもせず、俺達は進む。

 薄暗いフロアよりも更に暗い〈 蜘蛛の糸〉。しかし、最下層からこっちに向かってくる亡者の姿は無いようだ。

(マスターキーを持ったまま、〈 カンダタ〉のスイッチを探してるんだろうな......)

 一歩前を行く桜に「気を付けろよ」と声を掛けながら、俺も足を早める。 

 遂にたどり着いた。最下層、四百四十四階!

 しかし、そこには......。



「何もいない......?」

 亡者の気配が全く無かった。今までのフロアと同じ様に、文字通りの地獄絵図は広がっているのに......暴れ回る亡者も歩き回る亡者も、影一つ無い。

 辺りをぐるっと見回しても、やっぱり何もいない。マスターキーを盗んだ犯人は、いったい......。

 ん?

 桜の姿が見えなくなっていることに気が付いた。〈 カンダタ〉のスイッチを確認しに行ったのか?

「さくらー? って! わ!」

 桜の名を呼んだ一瞬後、ごつごつとしたフロア全体が地鳴りを上げた。

「え、なに、地震か!?」

 立っていることも出来ずに、這いつくばるような体勢になる俺。その耳元で。

「ご苦ろうじゃったな。ほめてつかわす」

 嗄れた何者かの声が響いた。

 誰だ、と顔を上げたその時、

「おっはよー! ツカサっ!」

「ミオ!? え、」

 何だ、と呟く俺の声はパーンと響く発砲音にかき消された。数秒経ってようやく、それがクラッカーの音であると気付く。

 クラッカーの音、で、ミオと......。

「お目覚めですのね! にゃはっ!」

「グッモー! ロックの夜明けも近いぜよってかぁ!」

「お早う御座います。御気分は如何ですか。」

「..............................おは、よ」

「......蜜柑さん、タクヤさん、浩介さん、サクマさん」

 おはよう、と続けながら、状況を理解しようと努める。なんで自称アイドルと自称ロッカーと自称小説家と自称イラストレーターに囲まれてるんだ俺は......。

 えーと、階段から落ちて、頭を打って、病院に運ばれて......。

「ああ......、病院か」

「当たりっ!」

「にゃはっ!」

「ロックオン!」

「御名答。」

「..............................ん」

 目が覚めていきなりこの濃い面々と顔を合わせるのはキツイな......。まぁ、状況は呑み込めた。なんだ、じゃあ、やっぱり。

「夢だったのか......」

 息を吐いて安堵する俺を見て、変人五名が訝しむような表情を浮かべる。

 そうだよな......。夢、だったんだよな......。地獄で、呪文詠唱なんて......馬鹿馬鹿しい夢だな、我ながら......。

 ぽつり、と冷たい雫が真っ白な布団の上に落ちた。はっとして、慌てて目をこする。

「ツカサ......?」

「はは、ちょっと寝過ぎたみたいだ」

 ミオに心配させないように、無理やり笑ってみせた。俺を元気づけるために仲間を集めてくれたんだろうに、夢の世界が恋しいだなんて言ったら余計に心配させてしまう。

 そうだ、こいつらにさっきまで見てた夢の話をしたら、面白がってくれるかも知れないな。

「あれ?」

 ミオが指を差した。ベッドから上体を起こした俺の、さっきまで寝ていた枕元を。

「そんなにぼろぼろだったっけ? そのノート」

 ノートという言葉に反応して顔を向けると、そこには確かに夢の中で大活躍していた〈 エタノール・ワード〉が、夢の続きのようにボロボロの姿で......。

「!!!!!!」

 ぐらっ、と病室が揺れて、俺はベッドから転げ落ちた。繋がれていた管や検査機器が無理やり外されて、あちこちに痛みが走る。

「えっ!? 何あれ!?」

 病室の窓の外に何かを見つけたのか、ミオが素っ頓狂な声を上げた。残りの変人四名も窓の外に目を遣る。

「にゃほーっ!」

「ロックだ......!」

「絶句。」

「...........................わ」

 倒れた病人を放っておくなよ、と呟きながら俺は自力でなんとか身体を起こした。一足遅れて、窓の外を覗く群れに加わる。

「......ああ。なるほど」

 外を見て頷いた俺に、変人どもが変人を見るような顔をする。

 さて、どこから説明すればいいんだか......。

 窓の外に広がる街並みのあちこちから、夢で見た亡者たちが〈 生えて〉来ていた。

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