〈 カンダタ〉と覚醒
「四百四十四階に向かってもらっておるのには、もう一つ理由がある」
亡者を倒しながら猛進する俺達に、オッサンは語り続ける。
「桜は知っていると思うが。〈カンダタ 〉についてだ」
〈 カンダタ〉......?
「地獄と現世との間にある唯一の道をそう呼ぶ。お前さんも通ってきた、あの暗い空間のことだ。現世からは生命を失うことで、地獄からは生命を得ることでのみ通ることが可能な道なのだが......そこを自由に通行可能にするスイッチが最下層にあるのだ」
「はぁ!? だったら最下層の奴らがそのスイッチを押しちまうだろ!?」
「そこなんだよ、問題は。そのスイッチを押すのにもマスターキーが必要なんだが......盗んだ奴はどうしてそれを押さぬのか」
半ば自問するようにオッサンは呟いた。
「まぁ、多少見つかりにくい場所に設置されておるのでな。奴らも見つけられていないのかも知れん。こちらとしては有難いことだ。そんな訳で、お前さんには奴らがスイッチを見つける前にマスターキーを取り返してもらいたい」
「要するに、急げってことだろ! 〈 冥王の調べに耳を塞げ!〉」
亡者達が耳を塞ぎながら爆散していく。確かこの呪文は......ああ、俺が音痴なのを笑われた時に考えた奴だった......。
「そういう事だ。もう四百階を越えておるな、その調子だ」
「唱える間に桜が守ってくれてるお陰だよ」
うむ。オッサンが大きく頷く姿が見えるような声音だった。
「桜は心の中も静かでなぁ、わしの地獄耳でも聞こえんのだが......上手くやっておるようで何よりだ。怪我させるなよ、羽刈」
「わかってるよ。桜、次はどっちだ?」
〈 蜘蛛の糸〉を下りると、またすぐに桜が次の道を指差してくれる。最初は小学生に道案内されているようで情けなくなったけれど、今となっては頼もしい限りだ。
「直にわしの声も届かなくなると思うが、何かあったら桜を頼れ」
任せたぞ。ノイズにかき消されるようにして通信は途絶えた。
「ここは何階だ?」
桜に訊ねると、指で四、二、四、と教えてくれた。
「あと少しだな。行こう。〈 数奇なる戒律よ、正しき解を導け!〉」
みんな、忙しいのに来てくれてありがとう!みんな愛してるよー!
うん、ツカサももう目を覚ますみたい。さっきから寝言で何かぶつぶつ呟いてるし。
起きたらびっくりさせようと思ってね。起床、即オフ会! なーんて、めちゃくちゃ面白いでしょ!
え、どうやって快復させたかって......それはまぁ、ググってもらえればいいかと......ごにょごにょ。
あ、目が開きそう! みんな、クラッカーの準備はオーケー?