窮地と旧知
「にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」「えりたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」「どーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいいどーでもいい」「ろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」
小さく開いた口から、呪詛のような言葉が溢れている。スーツを着た会社員やエプロン姿の主婦、俺と同じ年頃の女子高生、杖を持った老人、タクヤさんのような金髪の青年......看護師や車椅子に乗った少年。亡者ではない、現世に生きているごく普通の人々が、亡者に取り憑かれたかのような暗い顔をして否定的な言葉を繰り返し呟いていた。
「お前たちにはわかるまい、あきらめたのに死なぬもののことなど」
耳元で桜の声が響くけれど、姿は見当たらない。
「もうじゃのように屠るのか? お前たちと同じにんげんを......あははっ、無理じゃろうなぁ」
「ツカサ......」
ミオが俺の答えを待っている。いや、待たれたところでこの状況に答えなんて......。
「なーんかよォ」
食いしばった歯を緩めるような間の抜けた声に振り向くと、タクヤさんが大きく背伸びをしていた。今にも欠伸をしそうな感じで......あ、本当にしやがった。
「好き勝手言ってくれるよね、ほーんとに」
蜜柑さんは少しムッとした表情で、俺達を囲みつつある人々をぐるっと見回す。それから空を指差して、吠えた。
「あたしたちが! あきらめてないとか! んなわけあるかにゃー!!」
「おうよ! 諦めて諦めて諦めて諦めて! それでもなんとかここに立ってんだぜ!!」
「んん!! んーんーん!! んんんんんん!!」
「敗走の果てに!!。それでも生きて、生き続けて、見付けた道です!!。」
タクヤさんに続くようにサクマさんも浩介さんも空を......姿を消して、どこかで俺達を嗤っている桜を指差した。
「ねぇ、ツカサ......」
弱々しい声音に顔を向けると、ミオはまだ迷っているような表情を浮かべていた。
「わたしは、良くないよ......生きてても、良くないよ......。だって、わたしは、あの子を......」
「ミオ!」
一瞬、桜の姿が見えたと思った時には手遅れだった。腕をつかまれたミオの身体は空中に浮いて、その横で桜が大笑する。
「はははは! どうやらこの娘はこちら側のにんげんのようじゃな。まぁ、お前は知っているだろうが......幼子の時分のこととて、罪は罪じゃからのう」
「ツカ......サ............ごめ......んね、悪いの、わたしが、悪いの、悪いの悪いの、悪いの、悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い......」
「ミオ......」
諦めた人々と同じ状態になったミオの姿に、俺は言葉を失った。
「にゃ!」
「おおっと!」
「んっ、」
「おや。」
俺と同様に呆気に取られていた仲間達が、背後から忍び寄った亡者と人々に取り押さえられる。
「お前ら!」
「ふん」
嗄れた声が鼻を鳴らすのと同時に、何かが破れる音がした。
「っ!」
今まで俺の右手にあった〈エタノール・ワード〉が、修復出来ないくらい斬り刻まれて、埃混じりの風に四散していく。
「こんなところかのう。......まだやるか?」
刀を見せながら、桜が俺に問う。
「るい、悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い......」
桜に腕をつかまれたミオは、逆らう様子もなく呟き続けている。
(どうすれば、どうすれば......俺は......)
ピーピロピローピピー♪ ピピロピロピロー♪ ピーピロピローピピー♪ ピピロピロピロー♪
「ん?」
聞き慣れたメロディだった。これはミオの......スマホの着信音?
「お、おおっ、と」
さっきまで〈エタノール・ワード〉をつかんでいた俺の右手の中に現れたスマホに驚いて、取り落としそうになる。画面を見ても、番号も名前も表示されていない。
(誰からだ......?)
訝しく思いながらも、一縷の希望を掛けて電話を受ける。
「よっす! つーくん! ねぇねぇつーくん!」
大音量に思わず耳を遠ざける......けど、この懐かしい声は......!
「ひっさしぶりー! ボクだよボク! つーくんとみーちゃんの友達の!」
知っている声だった。ずっと昔から知っていて、二度と聞けないはずの......。
ああ......大丈夫だ、もう、大丈夫だ。
「チアキだよ!」