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URBAN LEGEND  作者: 安藤ナツ
Case5.

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万象の龍⑤

 そんなわけで、俺は全てを失ってしまった。いや、あの女の言葉を借りれば、より強い生の為に全てを捧げたのだ。あれから一季節の時間が経過して、ようやく俺はそのことを実感することが出来た。


「ぱぱ。まま。早く海に行こうよー」

「そんなに慌てても、海は逃げないよ」

「今からはしゃいでると、海に着いた時に疲れちゃうわよ」

「平気だもん。私、昨日たーくさん寝たから」


 他愛のない家族の会話。親父がいてお袋がいて、妹がいる。

 ごくごく普通の家族であり、この妹は二人の愛を受けてすくすくと育っている。お袋も妹も、いつ死ぬか分からない重体だったと言う事実は最初からなかったかのようだ。

 いや、実際の『俺の家族が病気だった』なんて事実はこの世界の何処にもない。妹は産まれてから病を患ったことなどなく、風邪を引いたことも二歳の時に一度だけ。現在は元気に小学校に通っている。お袋も、交通事故に合ったことはなく、専業主婦として親父に尽くしている。

 しかし『俺の家族が病気だった』事実がこの世に存在しないのと、彼女達が平安無事を生きているのも、また別の話だ。大切なことはたった一つの事実だけ。


「じゃあ、今日は家族三人水入らずで楽しもうな」


 俺の存在がこの世から完全に抹消されていると言うことだ。彼女達は俺のお袋でも妹でもないし、俺は彼女達の息子でも兄でもない。

 あの忌々しい竜神天帝は、『君の存在を捧げた』あの時そう言った。俺の全てを捧げ、肉体を奪い、過去に干渉して俺の全てを消し去ったそうだ。

 しかも性質の悪いことに、俺の家族だった何かが幸せなのは、俺が全てを捧げて彼女達を助けたから……等ではないことだ。


『ああ。この結果は、私の能力の結果ではないよ。単純に君がこの世界に存在しなかったと言う結果だよ』


 初めから、俺さえいなければ、あの三人は幸せに過ごせたそうだ。因果がどうのと難しいことを言っていたが、ようするに、俺こそが理不尽な存在だった。それだけのことなのだ。理不尽が俺を不幸にしていたのではなく、理不尽な俺が不幸にしていたのだ。俺のお陰で家族が救われたのではなく、俺のせいで家族が不幸だったなんて。

 笑えない話だ。笑いたくもない話だ。俺の人生が苦痛だったのが、他ならぬ俺のせいでしかなかったのだ。何が理不尽なんだ。この世界に存在しない人間となった俺はこの数カ月、あの家族の幸せそうな姿を見る度に、そんなことを考える。自分のいない世界の方が幸せだと言う事実に、少しだけ泣きたくなる。

 しかし俺の目から涙が零れ落ちることはない。


『まあ、気を落とすなよ。その代わり、君は肉体を持ったままでは得られないステージに立った。流石に地仙とまではいかないが、死解仙の足元くらいには人間を離れることができたんじゃあないか? 多分、何か適当な能力も手に入っている思うよ?』


 涙を流すのは人間の持ち物だ。俺は既に人間ではない。だからこれ以上、俺は人に話すべき言葉を持たない。


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