悪意の図書館①
全5話。
お楽しみ頂ければ、幸いです
言葉とは、『言』と『端』の複合だと、新しい職場の若い管理人が教えてくれたことがある。それは私の名前が『詞』――ことば――だからだったからだ。
元々、『言』の漢字は『事』と同一の意味を持っていたらしい。言うということは、事が起こることであるという考え方において、『言』の力を弱める為に『端』を付け加えたのだとか。他にもいろいろなパターンで『ことば』を表現したようだけど、誰かの唄で、ことばと葉っぱを上手くかけたことから、言葉が今も強く根付いているとか。
もっとも、これは私が今から話そうとする事とあんまり関係はない。
私がこれから語るのは、初めてあの屋敷を訪れた時の話だ。既に慣れてしまった『異端』や『異常』や『怪異』や『不可思議』と言うしかない現象の初体験であったあの事件において、言葉は殆ど無意味な物だったし、言葉がなければあんなことにはならなかった。しかし言葉なくしては私の生存はなかっただろう。
どうにかしてあの時の感情を伝えたいのだけど、そうするには言葉にするしかないのだけど、きっと言葉では伝えきれない。
思ったことも伝えられない言葉の不便さに、私は溜め息しか出ない。
兎にも角にも、言葉とは現象そのものなのだ。形もなく、後にも残らないそれは、確かに存在し、少しずつ世界を変動させている。
英雄の言葉、大統領の言葉、聖女の言葉、勇者の言葉、神の言葉、父の言葉。
怒りの言葉、悲しみの言葉、笑いの言葉、傷つける言葉、癒す言葉、教える言葉。
様々な言葉を、私達は発し、聞き入れ、生きている。
私の名前は、そんな名前だ。
そして、私とはそういう存在だ。
神が言った。そして世界が作られた。あながち嘘ではないのかもしれない。
なんて言っても、何の意味もない。言葉なんて、空気の振動だ。




