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虚空の声①

全6話。


お楽しみ頂ければ、幸いです。


 人畜無害極まりない、十把一絡の存在であった当時の僕の話をしようと思う。


 高校三年生の春休み、僕が僕でなくなり、僕が僕を確立したと言えるあの春休みの話だ。


 思い出すだけでも背筋が凍る。自らの眼球を抉りたくなるような衝動に駆られてしまう。


 ただ、あの体験をしなければ、僕は一体何度死ぬことになっただろうか? それを考えれば、感謝をするべき話なのかもしれない。しかしよくよく考えてみれば、このことがなければ、僕がそんな目に合う必要もなかったようにも思う。


 今から語るのは、そんな間抜けな話だ。鼻で笑われてしまうような、退屈な話で恐縮だが、聴いてくれると嬉しい。


 鳥の声で始まり、鳥の声で終わる。


 あの怪異の日を説明する前に、鳥について少しだけ下らないことを話そう。


 鳥は様々な伝承にもその姿を現す有り触れた神の姿の一つと言える。日本で言えば、サッカーのシンボルとして有名になった三本足の八咫鴉が有名だろうか。世界に目を向ければ、再生を司るフェニックスに、魂をむさぼるフレスベルク、南方を守る四聖獣が一柱の朱雀。もっと広義に鳥を解釈すれば、世界中の神話には翼を持った生物がうじゃうじゃと存在する。人を浚う山伏の格好をした天狗や、神の使いである天使に翼があるくらいだ。


 洋の東西を問わないこれらを、偶然の一致と考えるには話が出来過ぎている。


 人類は太古から彼ら――敬意を払って彼らと言わせて貰おう――に憧れているのだ。


 人間がどんなに願っても舞うことのできない空を自在に動くその姿に。卵を自らの身をもって暖めるその母性に。幼い雛の為に餌を取り食事を与えるその慈愛に。


 神話の中で、彼らの扱いが多岐に渡るのもそのせいだろう。決して進めぬ場所を突き進む彼らを自由の象徴とし、人間の足では行けぬ遠く離れた大地を見下ろすことに異界への導きとして。尊敬と恐怖を混ぜた存在として、彼らに人類は憧れていた。


 それでは、彼らは人間のことをどう考えているのだろう? 繁栄を極め、地上を制した人類を見て、彼等は何を思ってくれるのだろうか?


 僕が聴いたのは、そんな鳥の声だった。

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