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マスカレイド/初期構成




   0


 例えば此処に『笹榊壬蒔』という男とも女ともつかない名前を持った少女がいる。

 彼女は誰に聞いても到底完成した人間とは言えず、それに到達するには決定的な欠陥を持った失敗作だった。

 決して、精神破綻しているわけではなく。

 全ての他人に嫌われているわけでもなく。

 外見的に問題があるわけでもなく。

 彼女の欠陥を完全な形で理解するためには、彼女自身とかかわりを持つことが妥当であろう。ただし、何も知らない者がそれに辿りつくには、少しばかり根性が必要ではあるが。

 彼女の第一印象は、何故か統一して『物静かで大人しい』である。言い方を変えれば地味で目立たないということでもあるが、そこに悪印象は生まれない。

 悪印象が生まれるのはその後だろうか、彼女は何を問いかけてもそれに答えない。理解できないわけでもなく、頷きや首を左右に振って意思表示はする。しかし、そこには彼女の返事…声が、挟まれることが無い。

 人見知りではない。むしろ彼女は人が大好きで、よく目線で人を追っている。けれど、彼女は何も答えない。応えはしても、答えない。

 悪意も無く。

 故意でもなく。

 不満でもなく。

 純粋に、単純に……彼女には声が無いのだ。

 声。言葉が無い。肯定と否定以外のことを伝える方法が、彼女自身に備わっていないということ。それが、彼女の欠陥である。

 まぁ、如何に遠巻きな言葉で表現しようとも結局のところその彼女―――――笹榊壬蒔とは、僕のことなのだけれど。


   1


「本当はさ、こんなことお前に愚痴るものでは無いって判ってんだけどさ、でも苛立って苛立って仕方が無いことって有るだろ?」

 だからといって僕に愚痴るのは貴方だけです。

 と、流石にそんなことはいえないので(というか伝える術も無いので)こくりと一つ頷いて応えた。何故ここで首を振らないのか、と問われれば僕は恥もせずそれに返そう。僕はまだ死にたくない。たった十四年で命を散らすなんて冗談じゃない、少なくともあと四十年は生きたいのだ。

 まぁ、首を振ったところで今話している相手(一方的に話しかけてるとも言う)は話すことに一生懸命で、僕のことなんて見ていないのだが。命知らずな挑戦で危ない橋を渡ることは回避させてもらおう。

「お前との話の大半が愚痴ばっかってのも悪いとは思ってんだけどさ、ここに来ようとすると何時も何故かばったり鉢合うあいつのせいで、ものすっげぇ気分悪いんだ。あぁ、お前のせいじゃないよ。いやいや、だから謝るなって……土下座しようとするなって!!」

 …叩かれた。

 何故だろうか、僕には良く判らない。目の前で怒りから一転、呆れたような表情をする女性―――錦織詩祈の頭上にある顔を見上げ、首を傾げる。土下座の姿勢のまま見上げるのは運動不足の僕には厳しく、途中で断念して上体を起こした。

 周りを見回して、紙を探す。机に散らばっている紙の中から適当に一枚取り出して、今度はペンを探した。そして本の山に埋もれていたものを発掘して、彼女に意思を伝えるため、不恰好な文字を書き連ねる。

『でもここのここにきた。』

 そう書いた紙を渡せば、「回文もどきか?」と聞き返されたので句読点を付け加える。

『でも、ここの、ここにきた。』

 見えにくくはなったが、これで理解し易くなったと思う。つい最近習い始めた平仮名であるが、最初のミミズがのたくった様なものよりはいくらかマシではないだろうか。

「うげぇ……やけに会うと思えば、あいつも此処に通ってんのかよ。新聞配達かと思ってた…」

 僕も自分を馬鹿だと思っているが、君はそれ以上の馬鹿か。新聞を配るのは朝だろうが、今は夕方だし、この辺りは夕刊なんて配らない。

 いけない。この人が実は馬鹿かもしれないと疑惑を持った瞬間、命の危機感が何処かに消えてしまった。咄嗟に言ってしまわないだけ幸いか。




《この話について》


 『ROAD』と呼ばれるシステムが、この世界には存在する。別次元と言うべきだろうか、現実とは異なる空間に創られた世界。その正式名称を『Reality Of Another Dimension』―――――『もう一つの現実』といい、先に言った『ROAD』とは、これの頭文字を取った略称である。このシステムを作り上げたのは、【CALMカーム】と名乗る正体不明の集団。分かっているのは彼等が個人でないことと、その世界の中に彼等の分身体キャラクターが居るということ。


 ↑仮想空間ゲームの話を書くつもりでいた。主人公はその作成者の一人。

 以下登場人物設定。


十六夜智広いざよいちひろ――【C】男


黛明薫まゆずみあきな――【A】女


・春夏秋冬りく(ひととせりく)――【L】男


笹榊壬蒔さささかきみまき――【M】女

 声の無い主人公。産まれたときから声が出なかったため、口ぱくすらやり方が分かっていない。


・常ヶじょうがさき 茲乃ここの

 「わたし、残業しない主義なんで」とばかりに人生なめきっている少女。「親? 何ソレ、面白いの?」を素でやるような子。人間関係が淡白で、いつか背後から刺されるのではないだろうかと壬蒔はおもっている。錦織詩祈とは仲が悪い、というか生理的に合わないらしく、出会えば厭味の応酬。中二病染みてる。遠慮知らず。人間という存在自体が大好き。


錦織にしきおり 詩祈しき

 「お前のものはあたしのもの、あたしのものはあたしのもの」的な天上天下、唯我独尊な女性。人の上に立つべき人物であるが、飽きっぽいその性格から仕事がコロコロ変わる。辞める度に壬蒔に仕事が無いか紹介してもらうのが常。茲乃を生理的に嫌悪している。ある意味同属嫌悪。人脈は広い、というか顔が広い。

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