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冬の悪魔と春の天使2





―――――私のクラスには、人類を護っている正義のヒーローとヒロインがいる。


 と、いきなり言っても信じてはもらえないだろう。『何こいつ、頭の螺子飛んでんの?』とか思われても仕方がないと思う。

 しかし、私も信じたくはないのだが、これは間違いなく真実らしい。…残念なことに。

 この国では、正義のヒーローというものが認可されている。国直属の組織だとか、国公認の、宇宙人が作った民間組織だとか何とか言われているが、とりあえずの所流石アニメの国日本である。順応力が半端ない。

 しかし小学校、中学校、高校と全て公立の普通な学校に通い、決して善人とは言い難い極普通な生活をしていた私のすぐ傍で、そんなファンタジーが起こっているとは今まで気づきもしなかった。

 非日常って、意外と近くにあるんだね。うん、テレビだけじゃないんだね。……つーかあれって、ヤラセじゃなかったんだね。

 そう思ったのは一ヶ月前。平々凡々な私が、家へ向かっていた帰り道での事である。


 その日、私は疲れ果てていた。睡眠時間は少なく、夢見は悪く、一日中不機嫌に過ごしながらも体裁だけは整えて。たった一日だけなのにストレスで胃が解けてしまいそうなほど、外と内の温度差が激しかった。

 にこやかに、怒らずに、慎ましやかに寡黙に。そんな穏やかな外面と、相手の行動一つにも文句を付ける不機嫌さが同席していたのだ。…そりゃ精神的に疲れ果てるというものである。

 そんな私が細い路地を抜けた瞬間、太い腕に捕まって、首にナイフが当てられた。そして訳も解らないままに、耳元で叫ばれる言葉。

「おい! こいつを殺されたくなければ近づくんじゃねぇ!!」

 ……え、何これ……え…もしかして、いやもしかしなくても私……人質…?

 なんて、パニックでそんなことしか考えられなかった私の目の前には、大勢の人。悲鳴上げて騒ぐ人を眺めていて、あれ、そういえば自分ここは悲鳴上げるところじゃないか、と思ったりしながら周りを見て。誰か助けてくれないかなー、無理か、自分で逃げなければいけないだろうか、面倒くさいなー。しかもこの台詞有りがちでくだらないし、首が攣って痛いし、首絞められて苦しいし。早く放してくれないかなー、と考えたところで衝撃が私を(正しくは私を人質にしている男を)襲った。

 押されるようにして、私の体は地面に倒れこむ。何か全体的に黄色と水色の二人の女の子が、私を人質にしていた男以外の男共を蹴り飛ばしていた。

 そして手に力を込めて起き上がろうとした瞬間響いた声。

「あぁっ! ごめんなさい、そこの人逃げてぇ!!」

 ……無理に決まっているだろう。

 意外と冷静な、上半身が起き上がった私の目の前にある少女の細い足。本来狙っていたであろう男は私の後ろで、つまり巻き込まれた私が前に居るわけで。

 『死亡フラグ』その言葉が、脳裏に浮かび上がった。

 動くことも出来ない私に、順調に接近してくる桃色のパンプス。

 この人その靴で動き辛くないのかな。どう見ても正義の味方っぽい格好だけど、ミニスカートで動くのはどうかと……。

 ――――なんて、危機感さえ感じられていなかった私の前に何者かの影が立ちふさがった。赤い背中が目に痛い。

「君っ、大丈夫か!?」

「はぁ…大丈夫ですけど」

 あなたはどこの誰ですか。

 黒いフィルターで顔を隠したヘルメットのその人が振り返って言った。問いには一応答えるが、私には怪しい人にしか見えない。声から男であると判るが……その声が聞き覚えのあるもののような気がしてならない。

「駄目じゃないか君、一般人を巻き込んだら! 俺達は一般人を護るために戦っているんだ、もっと回りに気を配らないと!!」

 ……でしたら私を早く解放してください。集まった野次馬の視線が痛いです。

 そんな私の希望は叶えられることはなく、その後駆けつけてきた警察に保護されるのだが、その時私は見てしまったのだ。

 よくわからない悪役もどきの為に集まった正義のヒーロー。数えて1,2,3…8人。さっきの赤い人を合わせて五人は、それぞれの色の服に身を包んでいて声しか分からなかったが、残りの三人。髪の色とか、髪の長さとか、そういうものは全然変わっていたけれど気づいた。

 ……彼女達は私の、クラスメートだったのだから。


「おはよっ、栢巳かやみさん」

「……お早うございます」

 さて、それから一ヶ月。私は何をしていたかというと…何もしていなかった。しかし、どうやら彼女達は違ったようだ。

「栢巳さんは朝のニュース見た?」

 そう言ったのはあの時私を蹴り飛ばした…もとい、蹴り飛ばそうとした桃色のヒロイン。

 腰まで届く、元々長い髪をしていて、『女の子らしい』『物腰が柔らかい』と男子に人気な女の子だ。名前は確か、旭日沢あさひざわ 深桜みおだった筈。

「…見てません。それが、どうかしましたか?」

「いえ、見てないならそれで良いんだけど…」

 良いんだったらそろそろ話しかけるのをやめて貰えませんかね。

 学校では穏やかであまり喋らない相談役で通している私は、無言で朝日沢さんにそう要求する。が、無視されているのか気づいていないのか、私の希望が叶うことはない。

 あれから毎日のように、飽きることなくこの人は話しかけてくる。

 …最初はあの時巻き込まれたのが私だと気づいて、正体がばれていないか探りを入れようとしているのだと思ったが、そんな質問をされたことは一度もなかった。

「栢巳さん……んー、一ヶ月ずっと喋ってるのに他人行儀ね…文ちゃんって呼んでいい?」

「お好きに」

「文ちゃんってさ、」

 旭日沢さんは私に問いかけた。いや、確認だったのかもしれない。小首を傾げて、可愛らしく。年相応とはいえない幼い行動で。まさか、いきなりそんな質問をされるとは誰も思わない質問を。

「少なくとも、人が死んだ瞬間に立ち会ったことがあるでしょ?」

「………………」

 どうしてそんな質問をここでするのか、分からない。理解できない。彼女の意図が、分からない。

 口を噤んだ私へ向かって、旭日沢さんは言葉を続けた。愛らしい小さな唇から、いつもの彼女からは考えられない物騒な単語がこぼれ出る。

「人を殺したとは言わないけれど、殺人現場に立ち会ったとか…沢山の血を被ったことがある筈」

 …あぁ、確かにあれは彼女に向いているのだな、と私は思った。

 一見派手で華やかで、子供向けの番組で放送される戦隊ものや魔法少女のようだが、実質その内容は血みどろなのだ。

 暴力を振るうし、殺す。濃くて甘ったるい血の匂いくらい、嗅ぎ分けることが出来るだろう。それでも彼女は立ち止まらず、甘ったるい世界に浸っていない。

「……私の両親は、殺されました、私がとても幼い頃に。……それだけのことです」

「………それ、だけ…?」

「はい、それだけ。憶えていませんから、どうでも良いです」

 事実だけを言って、その会話を打ち切った。そもそも何故そんな質問をされないといけないのだ。個人情報だし、赤の他人に問いかけていいものではないと思う。

 あ、違うか。あっちは赤の他人じゃなくて友達だと思ってるのか。

 急に黙り込んだ私の様子に、何を思ったのか旭日沢さんは急に明るい声で、さっきまでとは全く違う言葉を掛けてきた。

「そういえばさ、文ちゃんってわたしの名前呼ばないよね。わたしは文ちゃんって呼ぶから、わたしも名前で呼んでほしいな」

 何が言いたいのだろう、この人は。そんな気持ちで、私は彼女をうろん気な眼差しで見る。しかしニコニコと期待しているような笑顔を向ける彼女は、それに気づかないようだ。その笑顔は裏のあるようなものでは無かったけれど、そこは捻くれ者な私。裏があるんじゃないかと疑って掛かって、でも名前で呼ぶのは別に損はしないよな、と結論をだした。

「はい、解りました。深桜さん、でいいですか?」

 たった、一言。

 一回試しに呼んだだけで、朝日沢さんはとても嬉しそうに笑う。少し照れたような、緊張が解れたような、心底嬉しいといった様子で笑う。

 何故。貴女はいつも友人に名前を呼ばれて、そういうものは慣れているはずなのに。それなのにどうして、初めてそうされた時のような初々しい反応を返すのだろうか。

 それが軽く昔の記憶に触れた気がして、私は振り払った。そんな筈が無い。…そう、そんな訳がない。

「あーやちゃん。文ちゃん。文ちゃん、文ちゃんっ」

 繰り返し、繰り返し。子どものように何度も呼んで無邪気に笑う、周りから見ればとても微笑ましい彼女を見て私は、静かに目を閉じた。

 内に渦巻く、どす黒いなにか。それを奥へと仕舞い込む。こんな感情は必要ないから、私はただ普通に過ごしたいだけなのだから。

 …彼女に絡まれている時点で、もう遅い気もしなくもないが。



《この話の設定》


 1の方はプロローグ部分にあたる。

 悪役が書きたかったのか脇役が書きたかったのか不明。

 ただただグロいモノを書こうとしていた事だけは記憶している。

 『万希』が深桜、『氷架』が文である。

 この後何だかんだで交流を深めるが、深桜が万希だと知った主人公は殺し損ねていた彼女を殺そうとする予定。

 そこからの設定は考えていない。

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