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地味に密かに健やかに。



 『主人公』というものがこの世界に存在するというのならば、わたしは『モブ』だ。『脇役』のように役割があるわけでもなく、ただ物語を盛り上げるためにそこにいるだけの存在。いわば野次馬とも言えるそれらのうちの一人が、わたしなのである。

 …それが何故、こんなことになってしまったのだろうか。

 確かにわたしは、自分の立場的には脇役に成り得ることは理解している。脇役とは、ただ主人公の友人だけではなく、悪役や身の回りの人々のことまでも指す。

 まぁ、わたしには関係のないことだ。なんて思っていたわたしは悪くない。

 だってわたしは物語が進んでいくのを遠めに眺めていただけで、関わっていないし、自分の性格は良いとは言わないが、けれど悪役と呼ばれるほど悪くないつもりなのだから。

 だから、わたしには理解できていない。何故、最近わたしが物語が始まったのだと認識した乙女ゲーム系ストーリーの攻略対象が、今目の前に立っているのか。


「おい」


 真っ赤な、色鮮やかな深紅の髪をした一人の男子生徒。

 黒が通常の制服とは違い、純白に金色のラインが入ったブレザーの制服。結婚式で男性が着るそれに少し似通ったその制服は、学園の運営に携わる者――――生徒会と風紀委員が着るもので、それを着るこの男子生徒はその一人なのだと判る。

 …そうでなくとも、眺めていたわたしは顔くらい憶えてるし、直ぐにわかるのだけれど。


「おいって」


 さて、前置きはこれくらいにしておいて、彼は一体此処に何をしにきたのだろうか。

 顰められた眉。不機嫌そうで、“何で俺がこんな奴に態々会いに来ないといけないんだ”と今すぐにでも言いそうな表情をした顔から推測すれば、恐らく彼は怒っている。

 いや、常日頃から機嫌は悪そうでは有るが、そうではなく。怒っている、というよりも相手に自分が怒ることをさせないために牽制している、というべきか。………えーっと、でも…あの、誰に?

 あれ? なんで此処に来たんだ、この人は。

 そう、生徒会長・・・・だってそんなに暇ではない筈なのに。


「おいっ、聞いているのか! 穂積ほずみ夜宵やよい!!」


 急に名前を呼ばれて、わたしは驚いた。なんだ、わたしを呼んでいたのか。そうならそうと早く言えばいいのに、非常識な。

 なんてことは一言も言わず、表情にも出さず、わたしは目を細めて柔らかい微笑みを浮かべた。

 この笑顔であるが、友人からは少し腹黒く見えて良く似合うと大絶賛されたものである。もちろんその後友人には物理的に沈黙してもらったが。

 ……たしかに、純粋な笑顔なんて浮かべられないし少し腹黒く見えてしまうのは事実だが、だがしかし。


「チッ……相変わらず不気味な笑顔浮かべやがって」


こんな反応はないとおもうんだあぁぁっ!!

 なんだよそれ、事実無根だよ。腹黒くないよ、純真だよ。しかも何で会長サマは良くわたしを知っているような話し方をするかなぁ!!

 わたし達、今始めて会ったよね。今さっきだよね、顔合わせたの。見たことくらいはあるけど相手を認識して話すために顔合わすのは初めてだと思うんだ。なのになんで嫌われてんの、わたし。

 不気味って…何がどうなってそうなったの、腹黒いとも違うの!?


「すみません、少し考え事を……それで会長様はわたしに何の御用でしょうか?」


 それでも顔に出さないわたし。偉い。少し誇っていい気がしてくるよ、今日は夜電話してお姉ちゃんに褒めてもらおう。よし、そうしよう。

 この苛々の収め方を決めたところで、わたしは自分達が教室や廊下にいた生徒から注目されていることに気づき、微かに眉を顰めた。いつもなら静かに過ごすことが出来るというのにこの注目は、間違いなく目の前のこの人のせいだ。

 早く会話を終わらせて読書に戻ろう、と密かに決心する。そして何か良く判らない変な顔をしている、廊下と教室の境に突っ立った会長サマへ視線を戻し、内心ため息を吐いた。

 なんでわたしがこんな苦労をせねばならないのだろうか。わたしはただ、地味に密かに健やかに普通の学校生活を送りたいだけなのだ。そこに『主人公』と関わる要素は一切皆無。除外しなければならないとうのに。

 少し恨みがましく思いながら見上げれば、会長サマが大げさに顔を逸らす。何故に。


「ケッ…お前如きに用なんてねぇよ…」


「あ、そうですか。それではわたしはこれで失礼しますね、そろそろ鐘も鳴りますので会長様も授業に遅れてしまわぬようお気をつけ下さい」


 わざわざ罵倒されながら話を聞きだすようなマゾヒスト属性はわたしには無い。ぺこりと腰を折るようにして会釈し、席へ戻ろうと足を踏み出す。そんなわたしに慌てたように会長サマは言い放った。


「ちょっと待て!!」


 強く掴まれた腕。非力なわたしの腕は怪力な男性の力に耐えられるはずも無く、骨が軋むように感じる。顔をしかめたくなるのを堪えながら、わたしはそれでも無表情を装った。

 わたしは暴力相手に屈したくは無い。そこまで素直な性格ではないのだ。


「―――――――何でしょうか?」


 抑えすぎたせいか、思ったよりも冷たくて平坦な声が口から吐き出される。わたしだけではなく会長サマもそれに反応して一瞬肩が跳ねたが、何事も無かったように言葉を続けるところを見ると気のせいだったのだろうか。



《この小説について》


 この頃は乙女ゲームの脇役系な話に嵌っていて、短編で軽く書いてみようと思ったけれど、書いているところを一部猫に消され、やる気がなくなってしまったもの。


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