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ALIVE






「後悔、してるのかい?」

 目の前にしゃがみ込む背の高い男、飄々として掴み所の無いそいつの言葉は“彼”をイラつかせるだけだった。答えるつもりが無いのか彼は男を、強い眼光で睨む。もし彼の知り合いであるヤツが見れば『人を殺せそうだ』と告げるであろうそれにも動じない男は、相も変わらずニコニコ……いや、寧ろニヤニヤとした笑みを顔に貼り付けていた。

「そりゃしてるよねぇ。でも君の主は後悔なんてしてないと思うよ?あいつは酷い人間だからね…」

「だまれっ!!!」

吐かれた言葉に怒りを隠せず、彼は男に掴みかかろうとする。しかし彼を拘束する縄は、そう簡単に解ける事は無かった。

「お前が氷菓様を語るな!!氷菓様の決めた事ならば、私は後悔などしていない!!」

「ふぅん」

彼から距離をとり、立ち上がった男は彼をちらりと見て、小さく笑う。挑発するようでありながら、それは何処か悲しそうな響きを持っていた。

「じゃ、そういう事にして置こう……また何時か会えると良いね」

「二度と顔を見せるな錬!!」

 叫ぶ彼を置いて、重い扉は閉められる。何重にも作られた厳重な鍵がされる音がして、暗い部屋の中に残された小さな陰は俯いた。隙間から差し込む薄い明かりが反射して、彼の頬を伝う雫を白く浮かび上がらせる。

「……裏切り…者、が…」



 [chapter:第一話:主殺し]




「―――父上の意向は、分かりかねる。何時も何れの時も、そして今宵も―――…」


 月の輝きが満ち、薄暗い部屋をぼんやりと照らした。窓辺の襟に座る少年は一息ついて、目を細めて月を見る。それが何処か忌々しそうに見えるのは、気のせいなのだろうか。少年は幾度となくついたため息をもう一度繰り返して、何も履いていない裸足のままの足を、外に投げ出した。

「……いっその事また遠くへ行ってしまおうか」

いや、結局連れ戻されて同じことになるのが関の山である。どころか益々状態が酷くなって、監視が着くということも否めない。自分自身の身を守り、一族を守るためのものだとしても、そういう枷は気の持ちが悪くなってくるものだ。

「私が殺されても何も思わない…訳では無いのだろうが、要領をえない」

 正直、父の考えというものは、一族の知恵者と呼ばれ続ける暦にも理解の及ぶところではない。というか、彼自身も分かっていないのかもしれないほどの考えの深さが逆に恐ろしくて仕方が無い。気が付けば父の手の上だった事柄も一つ二つではないのだ。

『譲葉世紀に逆らってはいけない、逆らえば繋ぐ枷が増え、自滅へと追いやられる』

等と一部の者達から父は呼ばれているようだが、それは的確な表現だと暦は思っていた。父の建てる計画は機密で、隙間が無くて、間違いなど見つからなくて、保険まで準備良くされている。しかしそれに無駄などと言うものは存在せず、一本の繋がりを幾重にも重ねて、獲物を的確に捕らえる網―――蜘蛛の巣のようだ、と暦は密かに思っていた。

 網は目に見えることは無いが確かに存在し、一本一本はとても脆い。しかしそれが束になれば何十にも絡まって、決して獲物を逃がさない。……敵には成りたくないものだ、と息子ながら彼は思う。


「父上は、“主殺し”を自由にして何をするつもりなんだ…?」




『“主殺し”を開放する』


 一族の会合で、父はたった一言そう告げた。確かにこの家が追い詰められていると言う事は知っている。けれどもそれは余りにも爆弾発言と言ってもよくて、しかしその言葉を真っ向から否定するものは居なかった。皆分かっていたのだ、もう血で争う方法しか残されていない事を。

……それでも、暦はそれが不思議でならない。何故よりにもよって“主殺し”なのかと。一生の人生を幽閉されて生きる筈の、罪深き罪人。どうして一族の穢れを使おうという考えが生まれてくるのか、暦には到底理解できない事柄である。

「……理解したくも無いがな」

 大人の事情など、知るものか。開き直っていると言っても良い思考のまま、暦は身体を縮めた。漸く高等部に上がったばかりの幼い彼には、父の目指す先が見えない。

「父上はどうして…何故、私にヤツを……」

父の考える事は、本当に分からない。この世界での大罪“主殺し”を犯して幽閉されたヤツを外に出し、更にその手綱…監視を暦に任せるなんて訳が分からなかった。

 すうっと冷たい空気を吸って、暦はその場を立ち上がる。出てきた窓を中に入って閉めると、外の冷気が遮断された。夜風で冷えた体は冷たく、彼は小さく身体を震わせる。身体を休めようと布団に身体を沈めた暦の、着物の間から覗く腕にはきつく、白い包帯が巻かれていた。



《この話について》


一族の中でも落ちこぼれと言われる知恵者、暦は不思議でならなかった。追い詰められたからといって“主殺し”と呼ばれる幽閉された大罪者を解放するなんて、父の考える事ではない。罪人の手綱として指名された暦、閉じられた開かずの扉の奥に居たのは、年端の行かない幼い少年だった。“主殺し”の真実とは―――…?


 ↑というのがピクシブにて投稿していた時のあらすじ。

 暫く放置していたからか詳細の設定をまるごと忘れたため停滞。

 何に影響を受けて書かれたのかも不明。

 包帯も何かのフラグだった筈だが、やはり覚えていない。

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