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英雄は行方不明のようです。

『』の中は話の題名。



『存在の名前』



 ―――――あぁ、御免なさい。



 許して、なんて言わないわ。これは全てわたくしが悪いのだと解っているから。

 けれど認めて。わたくしがわたくしを止めることを、止めないで。

 あなたに引き止められると、わたくしはこのまま前へなど進めなくなる。甘やかされるとソレに甘えて、どこまでも落魄れてしまうから。

 わたくしはそんな自分が嫌なのです。

 あなたは言った。誰も信じれず、自分を守るために自分さえ傷つけていた、刃物のような昔のわたくしに言った。

 『それもきっと君らしさなんだね』って。

 わたくしらしさって、何? 出会って間もなくそう言われても不快である筈なのに、理解できないその言葉があたたかく感じられた。

 わたくしがあなたに絆された言葉だったのでしょう。きっとそれが切っ掛けだったのでしょう。

 それから考えた。あなたと旅をしながら、二人旅から三人旅へと変わって言っても。そして“英雄”と、いつしか呼ばれるようになった後も。

 好きな人だって出来たわ。大切だと思える子も出来た。でもわたくしらしさなんて、わたくしには解らなかった。結局、無駄だった。

 そのせいかしら?

 わたくしの、この大きいとは決して言えない両手から、数少ない大切なものが零れ落ちてしまったのは。わたくしが己自身を解っていなかったせいかしら?

 それとも、信頼はしていても、あなた以外を信用していなかったせいかしら。

 …だって、人間は裏切るものなのでしょう? わたくしだって、何時人を裏切ってしまうか怖くて堪らなかったもの。意識しなくても、何時かは裏切るものよ。期待は、裏切られるものなのよ。

 どれだけ相手のことを知ろうとも、理解できるとは思わなかった。ほんの少しのことで人は変わってしまうから。かと思えば元に戻り、安心して安定した人間関係を、円滑に繋ぎ続けることが出来ない。

 怖かったわ、とてもとても怖かった。

 ふざけ合って、笑って、話して、また笑って。そんなことをしながら、心はずっと怯えていた。この関係はいつ壊れるのだろうと、ふとした一言で相手を傷つけてしまうやも知れないと。

 心臓に毛が生えているようだと、よく言われていたわね。でもそうではない事を、あなたは知っているでしょう?

 わたくしは本当は怖がりで、淋しがりやで、どうしようもなく馬鹿で愚かなのだと。

 あなただけは知っているでしょう?

 そうでありながら人を信用できないわたくしに、神様は罰をお与えになったのかしら。甘い現実に囲まれていたわたくしは、一気に絶望へと追いやられた。

 …いいえ。絶望など、していないわね。絶望しているふりをしているだけなのだわ、わたくしは。

 もしかしたら人間として、わたくしは決定的な欠陥を持っているのかもしれない。家族でも、友人でも、恋人でも、大切でありながら他人だとしか思えないのだもの。

 口に出すのは簡単よ、だから皆わたくしが普通の感性を持っていると思っている。

 途中までは自分でさえ気づきもしなかったわ。

 自分でも気づかないように人間を演じていたわたくしは、それでも自分らしさを持っているかしら? いつかあなたが言ったわたくしらしさを、取り戻すことができるかしら?


 ―――――こんな自分が、わたくしは嫌いです。


 いつまでも甘ったれて、ぐだぐだと言い訳のように喋ってしまう。だからもう、変な言い訳は止すべきね。

 わたくしがあなたに言わなければいけないのは、ごめんなさい。そしてありがとうとさようなら。もっと考えて、気持ちのこもったものを言えたならば良かったけれど、そこはわたくし、そういうのが苦手だったから。

 …いえ、言い訳はしないと言ったわね。

 取りあえず、さようなら。こんなわたくしと朋であってくれてありがとう。わたくしと出会ってくれてありがとう。

 わたくしの、全てを此処に置いていくわ。全てをあなたに残して行きます。あの子も帰ってくることは無いでしょう、好きにして。


 ……あぁ、だから引き止めないで。

 全てを捨てると誓ったの。わたくしの我侭につき合わせて、ごめんなさい。





 それじゃあ、もうお別れよ―――――エシスランザ。








『風の名前』


 絶え間なく行き来していた人足が、徐々に減って来る頃。ざわめきの収まらぬ大通りの露店は店じまいの用意を始めて、昼の間を仕事とする人々は自宅へと向かって帰宅の足を速める。騒がしい音が消え、密かな話し声や笑い声が道行く者の耳へと届く。そのあたたかさは逆に、これからの静寂を浮き立たせる為のもののようだった。

 ―――――人はこの時を黄昏と呼ぶ。

 そんな街全体が閉じる様子を思わせる中を、一つの人影が渡った。

 ただの旅人にしてはいやに小柄なその影は、歩いてきた道の先に目的の建物を見つけ、漸く足を止める。そして安心したようにそうっと息を吐いた。


「……よかった、着いた」


 呟かれるのは、聞く者を落ち着かせる低めの少女の声。

 こげ茶色の使い古されたような外套を身に纏ってはいるが、中に来ている汚れた白いワンピースを見るに、旅慣れているわけではないようだ。

 腰には剣――――ではなく、小物を入れる為のポーチが下げられており、何処からどう見ても旅をしているようには見えないいでたちである。


「意外とそういう素質はあるのかもしれないなぁ、わたし」


 くすくす、と控えめに少女は笑う。そして止めていた歩みを進めて、『籠目の青い鳥』と看板が掛かっている宿屋へと足を踏み入れた。

「いらっしゃい」と、扉を開いた瞬間に掛けられる声。




《この小説の設定。》


 主人公は貴族の血が流れた平民だったが、聖剣エシスランザに選ばれ勇者となった。そして魔王を倒し、一緒に旅をした男と結婚する。

 しかし数年後、旦那が不幸な事故で死去。主人公は錯乱して暴れ、記憶を失う。(主人公は30を超えているが勇者になった祝福により外見年齢は15歳で止まっている)

 そしてそのさらに数年後が本編。

 魔王退治の旅の際、養子にした子供へーリオス(男)は成人したが、記憶を失った母との接し方が分からず、逃げるように王都にて城に仕える。

 その間に主人公は全てを捨てて家出、旅立った。

 ――――――というのが表の設定。

 主人公は一時的に記憶の欠落はあったが直ぐに戻り、それ以降は記憶喪失のフリをしていた。

 その目的としては、夫も居なくなり、負担をかけてしまっているヘーリオスを自分から開放しようとしていた。

 しかし自分自身の感情やらに欠陥があるせいで理解しきれず失敗し、こんな強硬手段にでた。


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