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第百三十話 隻眼


 山崎は連日、一力で座敷を借りている。

 環とは廊下ですれ違っても、お互い知らぬフリを通す。


 しかし、今夜はどうも落ち着かない。

 座敷から顔を出し、廊下を見渡す。


 向こうから宴会のやかましい声が聞こえる。

 廊下に出ようと思ったが、芸娘を伴ったオトコが出てきたので思わず障子を閉めた。


 その頃・・

 環は酔っぱらったオトコたちに囲まれ、廊下から空き部屋に押されて入っていた。


 (どーしよー・・)

 環は考える。


 相手は3人だが、したたかに酔ってる上に丸腰だ。

 (注:当時、侍がお茶屋で遊ぶ時にはチャンバラを始めないように刀を預ける決まりだった)


 ゴローたちに体術も学んでるので、多少の組み合いは出来る。

 急所(金的)をケリまくれば、活路が見いだせるような気がするが・・。


 しかし・・

 今は使用人という立場で潜入中であり、相手は客人だ。

 どうしたものか迷ってると、オトコのひとりが環をいきなり抱きすくめた。


 「イヤァッ」

 これはさすがにキモチ悪い。

 酒臭い息にオゾケを感じて、環はらしくない女っぽい声を上げてしまった。


 それが余計にオトコたちを刺激したのか、もうひとりが環の帯に手をかけた。


 (やだっ、ジョーダンじゃないっ!ムカれてたまるかー!)

 環は必至に抵抗した。


 すると、廊下から声がした。

 「いいかげんにしたら?アンタら」





 背の高い若いオトコが廊下に立っている。


 行燈の灯りに照らされたカオは端正だが・・右の目に黒の眼帯をしていた。

 着物ではなく、細かい鎖帷子で編んだような服を着ている。


 障子に手をかけ、薄笑いを浮かべている。


 「なんじゃ、おんしゃー?いね!」

 環を抱きしめていたオトコが腹立たしげに振り向く。


 すると突然、手の力が抜けた。

 「あ・・」


 「おんし・・」


 オトコ3人はあきらかに狼狽している。

 環は状況が掴めない。


 「その辺にしとかないと・・谷さんに怒られるよ」

 片目のオトコの言葉に訛りは無い。


 3人は、慌てふためいた様子で出て行った。

 部屋には、環と片目のオトコの2人だけになった。


 「あ、あの・・ありがとうございます」

 環が頭を下げると、上からクスクス笑い声が聞こえる。


 片目のオトコがいきなり環の顎に手をかけて、上を向かせる。

 「ふぅ~ん・・なるほどねぇ」


 敵なのか味方なのか分からないオトコの挙動に、環は戸惑っている。


 すると突然、オトコが環を担ぎ上げた。


 「な、なにするんですか?」

 環が驚いて声を上げると、オトコは笑いながら言った。


 「オンナは助けられたオトコのモノになるって決まってんだぜ」

 米俵を担ぐように、軽々と環を肩に乗せる。


 「やめてっ、降ろして!」


 オトコは紐を出して、真ん中に結び目を作る。

 結び目のコブを環の口に突っ込んで、器用に頭の後ろで縛り上げた。


 「うーっ・・うう~っ・・」

 暴れる環を意に介さず、部屋から出る。


 すると、また違う声が聞こえた。

 「拾門(ひろと)、ナニやってんの?」





 廊下に別の若いオトコが立っている。


 見た目は環とさほど変わらない年のように見える。

 青年というより少年だった。


 女の子のような可愛らしい顔立ちをしている。

 しかし・・片目のオトコと同じ小さい鎖帷子を編んだような服装だ。


 「一二三(ひふみ)」

 片目のオトコが振り返って、少年を見る。


 「ナニそれ、獲物?」

 一二三と呼ばれた少年が、カオに似合わない言葉を吐く。


 「ああ、上玉だろ?」


 「どうすんの?食っちゃうの?それとも、お持ち帰り?」

 少年はアッケラカンと、怖ろしげな言葉を吐く。


 「そーだな、旅籠にゃ持ってけねぇから・・どっかの空き家で姦っちまうか」

 片目のオトコはスラスラと犯罪用語を並べたてる。


 環は今度こそ本気で焦っていた。

 このオトコたちは、さっきの酔っ払いなどとは全く違う。


 おそらくヤバイ人種だ。

 そして・・とうてい敵わない。


 山崎になんとか気付いてほしいが、大声を出したくても唸り声を上げることしか出来ない。


 「連中、まだ呑んでるけど・・どーする?」

 「あんなヤツらと呑んでられるか・・行くぜ」


 廊下を歩き出すと、後ろから声をかけられる。


 「その娘、置いてってもらおうか」

 後ろに・・山崎が立っていた。



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