第百九十九話 帰り道
1
角屋から屯所までの道中、足元の覚束ない伊東達に肩を貸して、土方達が引きずるように歩を進めた。
「ホラ、立ち止まるな。しゃんとしろ」
土方が声をかける。
土方が永倉、原田が斎藤、沖田がシン、藤堂が伊東に肩を貸して歩いていた。
「お天道さんが黄色い・・」
斎藤がうつろな目でつぶやく。
「あと・・どのくらいで屯所に着くんだ?」
伊東が低い声で訊くと、藤堂がなだめる口調で答えた。
「あともう少しだ。頑張ってくれ、伊東さん」
「・・誰かがオレの頭をガンガン殴ってる」
永倉がうめく。
「殴ってねーよ、殴りてぇけどな」
土方が舌打ちした。
シンは黙ったままだ。
出来るだけ沖田に寄りかからないようにしているが、時々足がもつれて転びそうになるのを支えてもらっている。
こみ上げる吐き気と頭痛で思考が定まらない。
(道端で吐くのだけは避けたい・・)
「大丈夫か?」
沖田に声をかけられて、シンはなんとか声を絞り出す。
「スミマセン、沖田さん」
「ったく・・バカか、オメェは」
沖田は冷めた顔つきだ。
「いくら下っ端っつっても、んなしょうもねぇ事にゃ付き合う必要はねーんだよ」
「・・・」
すると・・一番前を歩いてた土方が突然立ち止まった。
「ん?どしたんだ?土方さん」
追い越す形で、原田が振り返って見ると・・
土方の肩に寄りかかった永倉がゲロを吐いて、2人の着物がデロンデロンになっていた。
2
「4人とも謹慎処分だ」
土方の声が響く。
1月4日の朝餉の後、新年の挨拶も兼ねて、部屋には幹部が集まっていた。
「謹慎つーか・・病欠じゃないの?」
沖田があぐらをかいて頬杖をついている。
「完全に使いモンになんねーもんなー」
原田が腕を組んで首を傾げた。
屯所に戻ってから、伊東と永倉と斎藤とシンは部屋で寝込んでいる。
厠に行くのもシンドイ様子だ。
「謹慎と病欠の間」
藤堂がつぶやく。
昔の映画のタイトルに似ている。
「つべこべ抜かすな。見廻りの割り当てを見直した。後で目ぇ通しとけ」
土方がバッサリ切った。
「あいつら、医者に見せんで大丈夫なのか?トシ」
近藤が横から口を挟む。
「診療所には使いを出した。後で来てくれるとさ」
土方の答えに、近藤が安堵した顔をする。
「そうか」
「休みは終わりだ。正月ボケした頭を切り替えとけ。やるこた山ほどあんだ」
土方が部屋中を見渡す。
「天皇がお亡くなりになられて、これから会葬だの埋葬だの様々な仏事が行われる。新選組も当然警備に当たることになるだろう。心しておけ」
「うぃーっす」
部屋中から低音の返事が返って来た。
3
謹慎処分を受けた4人は丸1日寝込んだが、翌日の5日にはもう起き上がっていた。
そうして、6日には謹慎も解けて隊務に復帰した。
(※やはり単なる病欠かもしれない)
1月7日、昼の見廻りを終えた永倉が、同じく見廻りから戻ってきた沖田と斎藤に近寄って来た。
「よぉ、呑み行こうぜ」
どちらも呆れて声が出ない。
「~~~」
「なんだよ、もう上がりだろ?」
「・・マジすか?新八っつぁん」
「謹慎処分解けたばっかなんすけどー」
2人ともありえないモノを見る目つきだ。
「だから出かけんだろー」
永倉が2人の間に立って肩を抱く。
完全に体調復帰してるようだ。
斎藤が諦めたように息をついた。
「また角屋ですかぁ?」
「いっつも同じじゃ芸が無ぇからな。祇園だ」
永倉の言葉に、沖田と斎藤が顔を上げる。
「・・祇園は長州贔屓が多いからな」
斎藤が冷めた声音でつぶやいた。
「いい芸娘(オンナ)がいるらしーんだよ、これが」
永倉はニヤニヤしている。
(なるほど・・)
腑に落ちた。
「左之と平助は夜の見廻りがあるからなー、今日んとこは3人で行こーぜ」
永倉が2人の首を羽交い絞めにすると、両隣りで吐息が漏れる。
「・・あ~あ」




