表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/127

第百九十六話 連チャン


 「すっかり線香臭くなっちまった。もう帰ぇるぜ」

 大助が立ち上がる。


 部屋の角で炊いた線香の煙で、辺りの空気が白っぽくなってる。


 正確な時計の無い江戸時代、従量課金制の風俗では、客にサービスする時間を線香で計っていた。

 (※燃え尽きた本数が多いとロングサービス)


 「今日の分の稼ぎなら、もう充分だろ」

 言いながら、大助が袖から財布を出す。


 すると・・月乃が、真新しい線香箱を開けて一本取り出した。

 「お線香一本分でええよ」


 「あ?」

 「ウチ、お客に抱かれんでお花やってたん初めてや。楽しかった」

 月乃は嬉しそうに笑ってる。


 だが・・遊女を長時間拘束して玉代が僅かでは、月乃が折檻されてしまう。


 「そりゃダメだ」

 大助が、線香を持った月乃の手首を掴む。


 「ええねん。今日はウチ、自分で線香代出すし」

 「ダメだ」

 言いながら、月乃の手に銭を握らせる。


 「ダイスケはん」

 「ん?」

 「また、来てくれる?」


 月乃の不安気な声を聞いて、大助が息をつく。

 「ああ、負けちまったからな。借りはキッチリ返すぜ」


 すると・・月乃が大助に抱き付いた。

 「ホンマに?約束やで」


 「ああ・・」

 頷きながら、心の中で深く息をつく。

 (なんでこーなるんだろ?)





 1月3日の朝。

 早朝から、近藤と土方が部屋で話し合ってる。


 「結局、帰ってこねぇじゃねぇか」

 「ああ」

 「まさかこのまま逃亡する気じゃねぇだろな」

 「・・・」


 放っておくことは出来ないが、さりとて迎えに行くのも『思うツボ』という気がしないでもない。


 ・・伊東の目的が分からない。


 生え抜きの幹部を靡かせたいだけなのか?

 それとも・・隊に亀裂を入れようとでもしているのか?


 「ったく・・尊王攘夷が聞いて呆れるぜ。天皇の喪中だってのに、連チャンで呑み会かよ」

 土方が忌々しくつぶやくと、近藤が困り顔で首をヒネる。

 「あの人は学があるからな・・まぁ、何か考えあってのことだろう」


 「・・どーせ、良からぬ考えだろーさ」

 土方が忌々ししく横を向く。


 すると、障子がスラリと開いた。

 「おはようございます」

 ファァとアクビをしながら沖田が入って来る。


 「総司、何度言や分かんだ。入る前に声かけろと言ってんじゃねぇか」

 イライラと土方が叱りつけると、全く堪えた様子もなく沖田がしゃがみこむ。

 「朝っぱらからキンキン言わないでくださいよ。土方さん、ひょっとしてお馬(生理)じゃないですか?」


 「っ・・誰がお馬だっ」

 眉を吊り上げる土方を、近藤が制止する。

 「よさんか、トシ。朝っぱらから」


 そこに、廊下から声が聞こえた。

 「おはようございます」


 スラリと障子が開かれると、薫と環が座っている。

 2人とも目が赤い。


 シンのことが心配で、あまり眠れなかったのだ。

 (※永倉と斎藤のことは念頭に無い)





 「朝ゴハンの用意できました」

 薫がいつもより低めのトーンで言った。


 しゃがんだままの格好で、沖田が振り返る。

 「今日はなに?」


 「お茶漬けです」

 薫が素っ気ない口調で返す。

 沖田の役立たずな偵察ぶりに腹を立ててるのだ。


 「やった」

 何故か喜ばれるが、ぜんぜん嬉しくない。


 「土方さん」

 薫が声をかけると、土方が顔を上げた。

 「なんだ?」


 「あたしと環と2人で、角屋に様子見に行ってもいいですか?」

 薫の申し出を聞いて、近藤と土方と沖田が顔を見合わせる。


 「オメェたちが?」

 「はい」


 「・・・」

 沈黙の後、土方がアッサリ却下した。

 「ダメだ」


 「なんでですか?」

 今度は環が声を出す。


 「なんでって」

 土方が言いよどむ。

 (オオカミの群れにウサギ放り込むようなもんだぜ)


 沖田はニヤニヤ笑って見物している。


 「あ~・・薫クン、環クン」

 近藤が咳払いをする。

 「君らは女だ。年頃の娘だけで出入りするような場所じゃない」


 「でも・・」

 なおも薫が言い募ると、土方が立ち上がった。

 「今日1日待っても戻らねぇようなら・・オレが直接、迎えに行く」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ