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第百九十話 メンツ


 沖田はぐぅぐぅ寝ている。

 なんだかんだで、屯所に戻ったのが明け方だった。


 その後、ほとんど寝ずに日中の元旦詣での見廻りをしたので、申の刻になってまた屯所に戻った後は、倒れるように布団に潜り込んだ。


 目を覚ますと、部屋の行燈に灯りが灯ってる。

 見ると・・枕元のすぐそばにお盆が置かれていた。


 皿に手巻き寿司が並んでいる。


 起き上がって皿を手にすると、寿司をくわえながら部屋を出る。

 沖田は行儀が悪いので、歩きながら食べるのに抵抗が無い。


 すると、大部屋に煌々とついた灯りが障子を通して廊下に漏れている。


 開けると・・そこは賭場だった。

 隊士がみんな座布団を挟んで、花札をめくっている。

 何やら互いの巻き寿司を交換しているように見えた。


 「なにやってんの?」

 寝ボケ顔のまま部屋に入る。


 「沖田さん」

 薫が立ち上がった。

 「ちょうど良かった。一緒にお花やりましょう」


 「あ?」

 ボリボリと頭を掻く。

 「なんなんだよ、ここ」


 「原田さん、もう借金で首回んないんです」

 シレッと話す薫の前に、顔が土気色に変色した原田が座っている。


 連敗続きで、巻き寿司どころか昼飯をオゴル約束がすでに10日分にまでなっていた。





 隣りでは、環が藤堂に札の見方やルールを教わっていた。


 「正月から犯罪行為ってどーかと思うけど・・」

 沖田がアクビしながら、伸びをする。


 「人聞き悪ぃこと言うな」

 原田が顔も上げずに答える。

 「健全な寿司ネタ交換会だよ」


 「左之さん・・なんか、死相出てますぜ」

 沖田が寿司をモグモグ食べながら、ダークなことを言い出した。

 「元旦早々、ヤバくねぇですか」

 

 「死相が怖くて新選組やってられっか」

 言いながら札を取る。

 「うげっ」


 沖田は部屋を見渡すと、不思議そうな顔をした。

 「新八っつぁんと斎藤は?」


 原田と藤堂が同時に顔を上げる。


 「ああ、あいつら角屋に招ばれてんだ」

 原田がなんでもないように答える。


 「・・元旦から?」

 沖田は首を傾げた。


 「伊東さんに誘われたんだよ」

 言いながら、原田が札を出す。


 「え?」

 沖田は驚いた顔で、藤堂の方を見た。


 藤堂は、黙ったままで手元の札を切っている。





 「永倉さんと斎藤さん・・伊東さんと一緒なんですか?」

 声を出したのは薫だ。

 違和感の強過ぎるメンツに驚いてしまった。


 「ああ」

 原田が白けた口調で答える。

 「タダ酒呑めんならいーやって、けっこうホクホクしてたぜ」


 「・・・」

 藤堂は黙ったままだ。


 「ふーん・・」

 沖田は冷めた声音である。


 「ま、いんじゃね。たまには気分変えるってのも・・ヨッ」

 言いながら、原田が山から札を取る。


 薫と環は黙り込んでしまった。


 (永倉さんと斎藤さんと伊東さん・・って、会話成立しないんじゃ)

 環はどうもイメージが沸かない。


 「すーぐ帰って来るって」

 原田が言うと、藤堂がボソリとつぶやいた。

 「どうかな・・」


 「あ?」

 「朝まで戻んねぇかも」


 「盛り上がっちゃってってコトですか?」

 薫がビミョーな口調で訊いた。

 (ないないー、絶対ないー)


 「盛り上がるとか・・そんなんじゃねぇよ」

 藤堂は札を切り続けている。

 「伊東さん、あー見えて強ぇんだ」


 「何がですか?」

 向かいの環に訊かれて、藤堂は手を止めた。

 「酒。ベラボーに強ぇーんだよ、あの人」


 一瞬、空気が止まった。


 「へぇ・・」

 沖田が意外そうな声を出す。


 「なるほど。だったら・・戻んねぇかもな」

 原田がつぶやいた。

 「ま、いんじゃね。酒呑み同士で意気投合するかも」


 薫と環は顔を見合わせる。





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