表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/127

第百八十八話 祈り


 (ああ・・)

 シンは思い出した。


 山南も・・同じことを言っていた。

 『分かったところで変わらない』


 ・・そうかもしれない。


 死ぬ覚悟が出来てる人間は、生きる覚悟も出来てる。

 生き方にブレが無い。

 逃げることはしないのだろう。


 (サムライって・・やっぱ人種違うのかな)

 未来を自分の有利にしたいと考えるのは、誰しもが持つ願望だと思うのだが・・。


 「先の世のことなんざ、そこで生きてる連中に任せるさ。オレは今、出来ることするだけだ」


 だが・・未来は過去によって作られるのだ。


 「それに・・先の世が、鬼ばっかだったら怖ぇーしな」

 大助はクスクス笑い出す。


 「あの人・・鬼じゃありません。普通の人間です。見た目が厳ついだけで」

 シンは、赤城の穏やかさや優しさを思い出していた。


 「へぇー。ああ、まぁ・・そうかもな」

 大助がなにか思い出すような表情を浮かべる。


 「・・おめぇら、どんな関係なんだ?」

 さりげに訊かれて、シンはつい素直に答えてしまった。

 「オレは・・あの人に拾われた赤ん坊だった。食わせてもらって、デカくしてもらって、勉強教えてもらって。いつか役に立ちたいと思ってたけど・・」


 「けど?」

 「もう出来ないんだと思う。はぐれただけだと思ってたけど、違ってた。どうやら・・オレはまた捨てられたらしいから」


 シンは不思議だった。

 何故だか大助にはいつも、余計なことばかり話してしまう。


 「なるほど・・ま、あんま気に病むなよ。捨てられたガキなんざ、腐るほどいる。みんな、どーにかこーにか生きてるもんだぜ」

 メチャメチャ簡単に片付けられ、シンは黙り込んでしまった。

 (慰めてるつもりかよ、これでも)


 ~ ゴォォーーーン ~


 しばらく止んでいた鐘の音が鳴った。

 年が明けたのだ。





 「明けましておめっとはん、旦那ぁ~」

 ハイタッチしようとした弥彦を、沖田は完全スルーする。

 「めでたくねーし」


 弥彦の世間話を聞いてるうちに、年が明けてしまった。


 「辛気臭いことゆわんとぉ~、今年はきっと当たり年やでぇ、旦那ぁ~」

 「なんの当たりだよ。テキトーなこと言うんじゃねーよ」

 沖田は不機嫌な声を出す。

 「第一なんでまた、おめぇと年越してんだ。去年もだったじゃねぇか」


 「そやった?」

 弥彦はウンウン頷いている。

 「ええやん。ひとりで年越したら、そら淋しいもんでっせ」


 「ふん」

 沖田はキョーミ無さげに流す。

 「見廻りの途中だ。んなとこで油売ってらんねぇや」


 「仕事初めやね~」

 「もう行くぜ。じゃあな」

 言いながら、戸を開けた。

 外の冷気がドッと入って来る。


 「さっびぃ~っ」

 弥彦が震えた声を出すと、沖田が提灯を手にすぐ戸を閉めた。


 外に出ると、雪が降っている。

 道も雪に覆われていた。

 通りを歩く人影は少ない。


 背中を丸めて歩き出す。

 冬の冷気を深く吸い込むと・・胸の奥がふいに痛くなる。


 むせるように咳がこみ上げる。

 左手で口を塞ぎ、右手で通りの建物に手をついた。


 しばらく咳き込んだ後、喉の奥にたまった痰を道に吐き出す。

 すると・・白い雪の上に赤い飛沫が滲んでるのが、道に置いた提灯に照らされる。


 紅白のコントラストを見ると、沖田はなんだか可笑しくなった。


 「こいつぁ新春(ハル)から縁起が良いや」

 小声でつぶやく。





 最後の鐘の音を聴いた後、薫と環はお祈りをした。

 神社じゃなくお寺に詣でるのは初めてだが、やはり敬虔な気持ちになる。


 薫は、沖田の病気が良くなるように祈った。

 それと、新選組の誰もケガをしたりしないように。


 環は、雨宮の両親のことを祈っていた。

 (お父さんとお母さんがずっと元気で健康でありますように。わたしのことは心配しないでください。泣いたりしないで、お母さん)


 伊東は・・なにやらブツブツつぶやいてる。

 「尊王攘夷・・尊王攘夷・・とにかく尊王攘夷。尊王攘夷っていったら尊王攘夷・・」


 薫と環は、ずっと祈り続ける伊東の背中を見つめる。

 しばらく待っても、伊東はずっと同じ姿勢だ。


 「あの、伊東さん・・」

 環が仕方なく声をかける。


 「尊王尊王尊王・・攘夷攘夷攘夷攘夷・・」

 伊東は一心不乱につぶやき続ける。


 (聞いてねーし・・)

 薫と環は顔を見合わせる。


 待ってても寒いだけなので、伊東のことは放っておいて、先に帰ることにした。

 「お先です」

 「すいません、先にハケます。おやすみなさい」


 2人一緒に歩き出す。


 「お賽銭も上げず、どんだけ祈ってんだろ」

 「お賽銭は神社だから。お寺はお布施じゃない?」

 自分たちもタダでお祈りしたくせに、チャッカリ棚に上げている。


 屯所の部屋に戻って布団に潜り込むと、布団が温まるのを待った。

 ジンワリ温かくなると、ユルい眠気に誘われる。


 眠りに落ちる前、薫はすぐ隣りにいる環の布団に手を伸ばした。

 「手、つないでもいい?」


 「うん」

 即レスだ。

 環もまだ眠ってなかった。


 互いの布団の隙間の上で、手をつなぐ。


 「今年も2人で頑張ろーね」

 「うん」


 「・・・」

 「・・いちおうシンも入れて、3人で」

 「・・3人で」


 しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ