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第百五十八話 ストーカー


 「なんだよ、すとーかーって?」

 永倉が訊いてくる。


 「ストーカーっていうのは、勝手に両想いだと思い込んで、相手がいやがってるのに全く気付かず、追いかけ回す痛い人のことです」

 環が答えると、斎藤が口をはさむ。

 「それ、新八っつぁんじゃねーか?」


 「なんだとぉ?」

 「こないだ、酔って芸娘にカラんで突き飛ばされてたじゃねーかよ」


 「そーゆーのはストーカーじゃありません。ただの安い酔っ払いです」

 環がアッサリ否定すると、永倉が文句を言う。

 「・・安いってなんだよ、安いって」


 「ストーカーって、もっとヤバイ人のことだもん」

 薫も口をはさむ。

 「付け回したり、待ち伏せしたり、監視したり」


 「山崎そのものじゃねーか」

 原田が言い切った。


 「うーん・・まぁ確かに。山崎さんって、そーゆー匂いあるかも」

 薫が言うと、環が目をつむる。

 「かばい切れないカンジ」


 女子の無神経さ丸出しで、薫と環は勝手に2人で話している。


 すると、沖田がため息をついて立ち上がった。

 「濡れ衣だと思うよ」


 「なんで、そー思うんだ?総司」

 原田が訊くと、沖田が首をすくめる。

 「だって・・山崎さんって、生身の女にキョーミねぇもん。人形とか錦絵とか、そんなんばっかでしょ。真正の変態じゃん」


 「はぁ・・」

 藤堂が、空気が抜けたような相槌を打つ。


 「総司、おめぇ・・全然かばう気ねーだろ」

 斎藤が言った。


 沖田は首をすくめると、やれやれと言った口調で言った。

 「オレぁ、もう行きますよ。どーせこの話、すぐ一件落着しますって」





 永倉たちとの与太話が終わり、薫と環もそれぞれ仕事場に向かう。


 病室に行く途中で、門に向かって歩いている大助の姿が目に入った。

 環の足が思わず止まる。


 (出たっ、アレルゲン)

 環が首に手を当てて立ち止まると、オーラを感じたのか大助がこっちを向いた。


 環に気づいて目を開く。


 「あ、環ちゃん・・オッス」

 何事も無かったかのように声をかける。

 (※一応オトナだから)


 「・・どーも」

 ものすごく低いテンションで、環が応える。


 (コレってどーなの?)

 大助の足が思わず止まる。


 (ニガテだナンダ言われて・・なんでこっちが気ぃ遣ってなきゃなんねんだ?)

 心の中では不満タラタラだが、顔には出さずに平静を装う。


 咳払いをしながら近付くと、環の後ろから沖田がやって来た。


 環の肩ごしに大助を見つけて、声をかける。

 「よー、大助。ちょーど良かった。山崎さん、どーなったんだ?」


 そのまま追い越す沖田の背に、環がコソッと隠れる。

 肩ごしに頭を出して大助を見た。


 「・・・」

 「・・・」

 沖田と大助が顔を見合わせる。


 「環・・おめぇ、ナニやってんだ?」

 沖田がボソリとつぶやくと、環が後ろで声を出す。

 「え?」


 「なんで、そーやって隠れてんだって訊いてんだよ」

 沖田に言われて、環が口ごもる。

 「別に・・隠れてなんて・・」


 チラッと横目で見ると、大助と目が合う。


 すぐにパッと目を反らした。

 「わたし、もう行かなきゃ」

 背筋を伸ばして逆方向に歩き出す。


 沖田と大助が環の背中を見送る。


 「大助、オメェ・・環にちょっかい出したんか?」

 沖田の言葉に、大助がカブせる。

 「出してねーよ、んなワケねーだろが」


 「だったら、なんで逃げられてんだ」

 沖田がツッコむと、大助が眉をひそめる。

 「こっちが訊きてーよ」

 

 沖田が息をつくと、大助がムッツリ首を傾げる。





 沖田の言った通り、ストーカー事件はすぐに収束した。

 土方が出向いて、紙屋の店主に誤解であることを説明し、今後は店に近付かないことを約束したのだ。


 山崎は隊務に復帰している。

 あれ以降、虚無僧に変装して出掛けることが多くなったが、逆に目立つという意見が多い。


 「山崎、おめぇ吉村と一緒に、広島に行って来い」

 土方が部屋に山崎を呼んでいる。


 長州征伐の視察と警護で、前年から、近藤、伊東、篠原などが広島に出張した。

 帰京はしたが、戦況が思わしくないため、また視察と応援を出すことになっている。

 山崎なら適任だ。


 「わかりました」

 山崎は頭を下げると、すぐに部屋から消えた。

 土方の命令には、ますます完全服従なのだ。


 ここのところ、土方には頭が痛い問題がある。

 広島から戻った伊東一派が、なにやら頻繁に集まりを設けて、密談めいたことをしているらしい。


 (・・何企んでんだ、あの神経質ヤロー)


 ゴロリと畳の上にあおむけに転がり足を組む。


 新選組を一枚岩にしなければ、外との戦いに集中できない。

 土方にとって、新選組の派閥問題は最も頭の痛い問題なのだ。


 局中法度に触れ切腹寸前まで追い詰められた隊士が、伊東の口添えで命拾いをしたことが何度かあった。

 そのおかげもあって、伊東の隊内での人気は上々である。


 (あー・・ったく、うぜー)

 土方は心の中で毒づく。


 近藤を中心に作り上げてきたはずの鉄の組織が、まるで耐震基準を満たさない高層建築のようなモロイ物になっている。


 (・・長州と全面戦争になる前に大掃除しちまいてぇが・・)

 ムクリと起き上がって息をつく。


 「どうしたもんかな」

 ひとり言葉が漏れる。




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