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第百二十四話 考察


 環の考察。


 西本願寺の屯所に移って1年。

 新しい生活にも馴染んできている。


 八木邸にいた頃は、壬生村のあちこちに分営していたので接する隊士は限られていたが、西本願寺に来てからは、みな同じ敷地で生活をしている。


 新選組の隊士を見ていると「オトコはオトナにならない生き物だ」と思ってしまう。


 先ず・・彼らが良くやる隊旗を使った遊び。

 いったいなにがオモシロイのか分からない。


 旗をクルクル回して他の隊士に投げ、受けた隊士がまた回して他に投げるという、ゴールの無い遊びを、ひたすら汗だくでやっている。


 (・・バカなのか?)


 いや・・それは、いくらなんでも失礼だ。

 単純明快な脳ミソなのだろう。


 この前・・大砲の地響きで西本願寺の瓦屋根が落ちてしまった。

 寺から苦情が来たが、隊士たちはオモシロがってますます大砲を境内でブっ放すようになってしまった。

 こういうイヤガラセも小学生レベルである。


 環が知ってる限り、新選組の中でオトナと呼べるのは山南くらいのもので・・あとは全部悪ガキばかりだ。

 伊東ですらも、妙な子供っぽさを持っている。


 山南がいなくなって、新選組は保育士のいない保育園のようになっている。


 (あ・・そーだ)

 ふと思いつく。


 隊士ではないが、ひとり(一応)本物のオトナが近藤や土方に助言をしている。


 医師の松本良順。

 良順の言うことは、近藤も土方も素直に頭を垂れて聞いている。


 (そっかぁ・・今は、良順先生が保育士かな。一応)

 




 薫の考察。


 最近、土方のことが目につく。

 以前は前川邸にばかり詰めていて接する機会はさほど無かったが、西本願寺に来てから前よりカラミが増えた。


 いつも不機嫌そうにしてるが・・なんか、ときどき笑える。


 (いちいち本気だし・・)


 この前、付け合わせに出したマヨネーズを原田が全部食ってしまった。

 その後、土方は部屋に薫を呼びつけた。


 なにかと思えば「オカズはそれぞれ個別に出すように」と言うものだった。

 顔はいつも通り、真剣そのものである。


 「副長命令だ」

 そう言っていた。


 (権力の使い方、オカシイだろ)


 沖田が土方をイジる気持ちが良く分かる。

 (どー考えてもイジられキャラだけど・・自覚無いんだろうな)


 ドヘタな俳句作りにしても、笑いが欲しくてやってるとしか思えない。

 たまに「できた」とかつぶやく時があるが、そのタイミングもよく分からない。


 沖田が言うには、砲術訓練の最中に突如、句を書き留めたことがあるらしい。

 大砲の音を聞いて、いったいなんの侘寂(わびさび)を感じるというのか。


 (そういえば・・)


 先日、炊事場から表に出たゴローがバッタリ土方と出くわした。

 なぜか土方は全力で走り出していたが・・落ち着きの無いオトナだと思った。


 (足・・メチャメチャ速かったなー)


 薫は土方のことを、"なんだか憎めないオジサン"だと思っている。

 見た目メチャ若くて超イケメンなので、オジサンという言葉に程遠いが・・。


 (そーだ・・ひさしぶりにエビマヨでも作ろうかなー、みんな好きだし。オモシロイから大皿1枚で出そー)





 シンの考察。


 ・・もう戻れないような気がしてる。


 (この時代に取り残されて1年半・・なんの手がかりも無し。なんか・・もうムリじゃね?)

 シンはそんなことを考えている。


 事実、この1年間はなんの情報も収穫もなく、ただ日を過ごしていただけだ。


 シンは市中見廻りにも出ている。

 「オレ隊士じゃねんだけど」が口グセになっているが、斎藤に「うるせぇよ」と言われて白刃を盾に脅されて終わる。


 そう言えば・・かなり前に、環がイミの分からないことを訊いてきたことがあった。


 『赤城教授は、親のいない子どもを使って人体テストを行ってるんじゃないか』

 『プロフェッサー・アカギではなく、マッドサイエンティスト・アカギじゃないのか』

 『様々な時代に子どもを送り込んで、なにか野望を企ててるんじゃないか』


 冷静な環の口から荒唐無稽なストーリーが飛び出すのを、シンは呆気に取られて聞いていた。


 (つーか・・"親のいない子ども"ってオレのことか?)


 この前・・井上に頼んで、赤鬼が現れた長屋に連れて行ってもらった。

 行ってみると・・何故だか奇妙な感覚に襲われた。


 赤鬼を助けたという医者の家らしいが、中に入ると誰もいなくて・・以前、暮らしていた跡が残っているのがなんだか不気味だった。

 あの部屋には近づかない方がいい・・そんな気がした。


 井上に「頭が痛いから、もう帰る」と訴えたら、オモシロがって「そうか?じゃあ、もう少しいよーぜ」と言い出した。

 (江戸時代って・・人格崩壊者しかいないのか?)


 剣の腕がこの1年で格段に上がった。

 (ソコは自分でも驚いてる)


 剣客集団で実戦レベルの稽古をしてると、踏んだ場数で上手くなるらしい。

 稽古があまりに凄まじく・・元の時代に戻る前に死ぬんじゃないかと何度も思った。 


 手の平を見ると、竹刀や木刀を毎日握り込んでいるため、マメだらけで硬くデコボコしている。


 (・・なんかホント・・隊士になったみてぇー)

 手を握り締めて膝をかかえた。

 自分の置かれた状況を考えると、どーにもゼツボー的な気分になる。




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