表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/127

第百三十五話 団子


 「労咳?」

 環の言葉に、良順は少し驚いた声を出す。


 「・・はい」


 「・・ひょっとして、沖田くんのこと言ってるのかい?」


 今度は環が目を開く。

 山崎は2人の話が聞こえてないかのように、黙って針を動かしている。


 「あの・・」

 環は雨宮の父から聞いたことを、出来るだけ正確に思い返しながら説明した。


 「・・"ケッカクの親戚"ねぇ」

 環の話を一通り聞き終えてから、良順が興味深げに考え込む。

 「環ちゃんのお父さん・・ひょっとして外国の人かな?・・それとも外国で医学を修めたとか」


 「え?」

 環は言葉が出ない。


 ・・外国人ではない。

 バリバリの日本人である。

 ただし・・江戸時代でなく平成時代の医者だが。


 「え~と・・」

 うまい答えを探すが・・出てこない。


 「この国には、そんな知識を持った医者はいないよ」

 良順が探るよう顔つきをするので、環は黙って目を逸らした。


 (やっぱり・・唐突にこんな話ししたって驚かせるだけだよね)


 結核菌の存在も解明されていない江戸時代に「菌の種類が違う」と言っても、とうてい理解はされない。


 「父は・・変わり者で」

 誤魔化すことにした。


 「会ってみたいね。環ちゃんのお父上に」


 「・・遠いところにいるから、会えないんです」


 「・・そうか」

 良順は、少し考えてから口を開いた。


 「・・環ちゃん。本腰入れて医術を学んでみる気はないか?」

 ふと思いついた顔をしている。

 「その気があるなら、南部の診療所にわたしから紹介しよう」


 「え?」

 環が目を丸くした。





 「おい、団子くれ」


 「はーい、いらっしゃいま・・・せ」

 振り返った薫は、そのまま固まった。


 永倉と原田と・・それに沖田が、普段着で店の前に立っている。


 (・・なんで?・・いんの?)


 「取りあえず10本もらうぜ」

 言いながら、永倉が長椅子に腰かける。


 「ええっと・・はい」

 薫は慌てて店の奥に入ると、言われた通り、皿に団子10本を載せる。

 (何しに来たんだろ)


 『新選組の隊士を見ても知らぬふりをしろ』


 土方にそう指示されているのだ。


 「おまたせしました」

 薫が、お茶と団子を載せた皿を盆に載せて運ぶと、永倉と原田がすぐに手を出す。

 「いただきっ」


 団子にカブリつきながら、2人で盛り上がる。


 「おおーっ、うめぇなぁー」

 「評判通りじゃねーかー」

 「看板娘も可愛いしよー」


 ビミョーに声が大きくてワザとらしい。 


 (なんだろ、このノリ・・)


 沖田は、黙ったままだ。

 シラけた顔で「ムリヤリ連れて来られました」のオーラを出している。

 (※事実、ムリヤリ連れて来られた) 


 「総司、おめぇも食えよ。ホラ」

 原田に言われて、沖田も1本手にとる。


 1つ目を飲み込むと、ポロッとつぶやいた。

 「ホントだ・・うまいや、コレ」

 

 沖田もめずらしく食べ進めて、団子10本は3人ですぐ無くなった。


 「おい、ネーチャン!」

 永倉が手招きする。


 (ネーチャンって・・アタシ?)

 薫が自分を指さす。


 「団子もう10本追加だ。それから、お茶を薬缶(やかん)ごとくれ」

 原田が爪楊枝をくわえながら注文する。


 仕方なく、言われた通り薬缶にお茶を淹れながら、薫は思った。

 (仕事のジャマだから・・帰ってくれないかなぁ)





 3人で団子30本食べ切って、永倉たちは引き揚げた。


 (結局、何しに来たんだろ・・あの人たち)

 皿を片付けながら、3人の背中を見送る。


 その後、一時半(いっときはん/3時間)の勤務を終えて屯所に戻ると、薫は土方の部屋に向かった。


 その日あったことを、報告することになっている。

 いっぱしの隊士のようだ。


 「・・新八と左之と総司が?」

 土方が目を開く。


 「アイツら・・団子のことは忘れろっつったろーが・・」

 いまいましそうにつぶやく。


 薫はこうゆう土方を見るのがキライではない。


 土方は「鬼の副長」の異名を取っているが、沖田や永倉たち(特に沖田)からは意外にナメられてるように見える。


 「ふ」

 薫の口から息がもれる。

 笑うのをこらえているせいだ。


 「・・なんだ?」


 「いえ・・」

 

 すると、障子の影から声が聞こえた。

 「副長、よろしいですか?」

 

 山崎の声だ。

 いつの間にか廊下に来ていたらしい。


 「入れ」

 土方の声で、スラリと障子が開く。


 「副長・・忍びを使って隊士を襲わせた黒幕が分かりました」

 山崎が頭を下げたままで報告を上げる。


 「誰だ?」


 「おそらく・・土佐藩の谷干城(たにたてき)かと」

 山崎が顔を上げる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ