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松井沢加奈子

作者: 抹茶

 松井沢加奈子、それが彼女の本名だ。今、彼女はある種の苦悩に満ちている。彼女の目の前には一台のパソコンがある。そして、一枚の画面が開かれている。松井沢加奈子はその画面に開かれた、一つのロックキーの解除に苦悩を抱いている。松井沢加奈子は考える。このロックを開かれない限り、私はこれ以上進む事が出来ないのだ、と言う事を。

 彼女は携帯を開き、救いの手を差し伸べてくれるよう頼もうとしたが、その頼みの綱は不在と来たもんだ。おまけに、まだ通話も返事も返ってこないと来たもんだ。松井沢加奈子は憤る。人がこんなにも一生懸命頼んでいると言うのに。

 事の始めはこうだ、松井沢加奈子は空腹で死にそうだった。いいや、彼女の家には山ほどの食糧があって、彼女は生で食べる事を嫌がっているのだ。松井沢加奈子は、今は料理を作りたい気分じゃない、と言わんばかりに己の空腹を無視して、目の前にある画面のロックキーと向かい合った。松井沢加奈子、材料を加工して調理して、口に含む間も惜しむと言わんばかりに、彼女はパソコンのロックキーと向き合っていた。これが終わらなければ。彼女は空腹の音と共に、額から冷や汗を一滴垂らした。

 彼女がロックキーと向き合って暫く、ようやく返信の音が聞こえた。彼女は大学から家へと帰ったばかりだったのだ。松井沢加奈子は開く。先程、大学で尋ねたURLについての返事だった。松井沢加奈子は憤った。しかし、大学を出たのは自分だ。大学から出て家へ帰った自分が何も言う資格は無い。松井沢加奈子は、一刻も無駄にしたくない。寧ろ待つのは無駄だ。家に帰ろう、と気持ちを押し殺して大学で暇を潰さなかった自分に叱咤の言葉を投げつつ、返事の言葉を打った。松井沢加奈子は、空腹を今しがた忘れた。

 松井沢加奈子が返事の言葉を打つ間、空腹の音が鳴る。松井沢加奈子は、この空腹を癒す事と友に返事を返す事のどちらかを優先するか、と考えた。松井沢加奈子の本能は空腹を優先した。しかし、彼女の社会的に立場を守りたいとする意志が、彼女に返事を打つ事を強制させた。松井沢加奈子は返事を打つ。あぁ、無駄なことだ。松井沢加奈子はそうぼやく。

 松井沢加奈子にとって、返事を打つと言う事は、一行たりとも従わずに済む事だ。松井沢加奈子にとって、携帯と言う便利な器具は、通達を行うツール以外の何物でも無かった。松井沢加奈子は撃ち続ける。おっと、しまった。ついゲームの方に夢中になってしまった。

 松井沢加奈子は、ロックキーの事を忘れて、暫しゲームに夢中になっていた。松井沢加奈子はヘッドフォンを耳から外し、点滅を繰り返す携帯を開く。携帯は着信があった事を明確に示し、松井沢加奈子はそれを無視していた。松井沢加奈子は画面を開いた。

 その返信には、まず一投を生じた際に必ず投げ返される言葉が記されていた。松井沢加奈子は、「まさかそんな馬鹿な事があるわけがあるまい。ハハハ」と軽い笑いを零しながら書いたその言葉に、松井沢加奈子にとっては必ずと言って良い程、時間の無駄を節約する為に一投が生じた際に口に出して応じた言葉が書かれてあった。

 返信は語尾に記号が付けられているお陰で、感じが軽い物のように見られる。しかし、松井沢加奈子にとって、その語尾よりも重要な物があった。情報の咀嚼度だ。そして、内容だ。松井沢加奈子は憤る。友の遅い知らせに。


お腹が空いたカール食べたい。けれども別にカールは買ってと言う程じゃない。買うならそうだ、おやつはカールだから一箱分買いたい。ダースが良い、ダース。

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