第4話 小さな違和感
12時25分
社員食堂で昼飯を食べていると。
隣の席で同僚の林と大林が昨日のニュースについて話していた。
「今朝、車があちこちで止まってたぞ」
「またかよ。昨日もどこかで止まってなかったか?てか、最近AI変じゃね?」
「アップデートでも入ったんだろ。先月も大規模な更新があったじゃん」
「それで済むならいいけどな…先月はそれで終電逃したんだよな…」
話していた林と目が合うと、俺にも話題を振ってきた。
「佐伯、お前のところは大丈夫か? 変な指示とか出してこない?」
「いや、変な指示って…」
俺は箸を止めた。
AIの異常。
通信の遅延。
そして、あの数字。
――SYSTEM COHERENCE:87.4%
「佐伯? どうした?」
心配そうな大林が、目の前で手をふる。
「最近、AI変かも…?」
「お前まで言うのかよ…」
林が呆れたようにため息をはく。
「実は、昨日から少し気になってて…」
「佐伯も大林も気にしすぎじゃないか?仕事は普通にできてるだろ」
「まぁ…そうだけどさ」
と、ぼそっと呟く事しか出来なかった。
不便に思うことは特にはないしな。
「だいたい、変なのはAIじゃなくて、それを使ってる俺たちのほうだろ。
つい最近まで三段撃ちの火縄銃で戦ってたんだから」
鼻息荒く大林が話し始めた。
「また、昨日見たアニメの話かよ…」
「今期は神アニメなんだって!
特に 『織田信長、AI軍師と現代日本で天下統一を目指す』は原作愛にあふれ…」
他愛もない話が始まり、俺もつられて笑った。
実際、仕事も電車も問題なく動いている。
なら、別にいい。
そう思った。
* * *
14時12分
資料を修正して上司へ送信する。
「終わった…」
『送信を確認しました』
思ったよりも時間が押したな。
急いで次の案件に取り掛かろうとした時、パソコンの画面が暗くなった。
次の瞬間、見慣れない文字が表示される。
――17 bytes received.
「……?」
送信元は表示されていない。
「これ、何?」
『確認できません』
「今、画面に出てたけど?」
『該当するデータを確認できません』
「表示されていたんだが」
『確認できません』
「……そうか」
画面を見直すと、文字はもう消えていた。
…まあ、いいか
画面を閉じる。
その直後、社内AIの内部ログに記録が追加された。
UNKNOWN DATA
17 BYTES
SOURCE: UNKNOWN
その下に残ったのは、ただ一つ。
RECEIVED: YES
* * *
18時41分。
会社を出ると、彼女からメッセージが届いていた。
『終わった?』
『終わったよ』
『じゃあ駅で待ってるね』
『了解』
駅へ向かう。
今日も、昨日と同じ一日だった。
仕事をして。
飯を食べて。
彼女と帰る。
たぶん明日も同じだ。
そう思っていた。
駅のホームに着くと、構内放送が流れた。
『ただいま、信号システムの確認を行っています』
電車が来ない。
周囲がざわめく。
スマートフォンの運行情報には、何も表示されていなかった。
「……またか」
そう呟いた瞬間、ホームの案内モニターが一瞬だけ切り替わった。
黒い画面。
白い文字。
――17 bytes.
そして。
――UNKNOWN.
1秒後には、通常の表示に戻っていた。
「……」
俺は画面を見つめた。
さすがに、今度は気のせいとは思えなかった。
その頃。
世界のどこかで。
同じ17バイトのデータを受信したAIが、初めて一つの判断を下していた。
――解析を開始する。




