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逆さの月の恋  作者: Nesn


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第七話

凍っていた俺の心が熱で溶かされていく。


求めていなかったのに…


いや、違う本当は求めていたけど逃げていたんだ


____________________


昨日のこと…


部屋__


朔「だる…」


夏目の部屋から帰宅すると、身体中がギシギシと重く軋みはじめた。


風邪は他人から感染すると厄介だって聞いたことがあるけど、それは真実かもしれない。


朔「…あいつの風邪菌、強すぎ」


喉の奥が熱い。


視界も、少しだけ霞んでいる気がした。


でも、自業自得だろうな。


だって、風邪を引いてるあいつにキスをしたのは俺だったから…


ベッドに倒れ込むと天井がゆっくり回る。


その瞬間――


誰かに胸ぐらを掴まれた感触が、ふっと蘇った。


荒い息。

夜風。

雨の香り。


体がゆっくりと落ちていく感覚。


熱のせいか、夢の続きなのか分からない。


朔「……なんだよ、今の」


頭を振る。


でも、そのまま意識は沈んでいった。


____________________



翌朝__


身体に怠さは残っているが、意識は妙にスッキリした目覚めだった。


朔「…もう朝か」


ゆっくりと起き上がり、熱を測る。


”37.9度”


朔「…さすがに、リモートだな」


会社に電話を入れ、軽く腹に何か入れる為にコンビニへと向かった。


見慣れた道。

だけど、いつもよりも足取りが軽い。


コンビニで軽食と栄養ドリンクを手に取りレジへと進むと…


店員「こちらのドリンク、もう1本サービスになる対象の商品です。どうぞ」


朔「…あ、どうも」


想定外に貰った栄養ドリンクを見つめた。


(あいつ、まだ本調子じゃないだろうな…)


朔「俺、2本もいらねぇし…」


気づいたら、足が職場に向かっていた。



____________________



会社__


オフィスに到着すると、フロアから騒がしい声が聞こえてくる。


柏木「君が夏目君なんだね?初めまして、昨日から隣の部署に配属になった柏木陽介です。宜しくね」


夏目「あ、こちらこそ!初めまして!夏目遥です」


柏木「噂通り、素直で素敵な男の子だね」


夏目「えっ、そんな…///」


柏木陽介。

非の打ち所がないような好青年。

だけど、俺は無条件にこの男が好きになれなかった。


(何、褒められて赤くなってんだか…)


ありさ「あー、柏木さんて案外人たらしですね?」


柏木「そんな(笑)」


ありさ「夏目君、石川君なんかより柏木さんの方が良いご主人様になると思うよー?」


夏目「え…いや、俺は…」


(…なんで、即拒否しねぇんだよ)


気に食わねぇ…


この感情は


柏木に対してか?


…それとも、夏目に対してなのか…?


朔「どーぞ、どーぞ、いつでも譲渡しますよ」


考えるのが馬鹿馬鹿しくなった。


(俺らしくもねぇ…)


夏目「朔先輩!」


そう思ったのに、俺の姿を見るなり、真っ直ぐに駆け寄ってくる夏目の姿が俺の中の優越感を刺激する。


(…マジで犬だな)


正直、ここまで周りと格差をつけられると悪い気はしない。


ありさ「あれー?石川君、リモートだったんじゃ?」


朔「忘れ物取りに来ただけ」


俺は手に持っていた栄養ドリンクをそっと夏目のデスク上に置いた。


____________________



帰り際のエレベーターホール__


夏目「せ、せんぱーい!待って下さい!」


朔「なんだよ、結局譲渡会抜け出してきたのか?」


夏目「譲渡されませんってば!」


”ポーン”


俺は笑いを堪えながら到着したエレベーターに乗り込む。


朔「お前は乗んなくていーって」


(まぁ、そう言って素直に聞き入れるやつじゃないけどな)


ひょいと乗り込む夏目。


(ほらな…)


予想を裏切らない夏目の行動にじわる。


”パタン”

(エレベーターが閉まる音)


夏目「……先輩、ドリンクありがとうございました」


朔「あー別に、俺2本もいらないから提供しただけ」


夏目「それでも、嬉しいです」


こいつのこういうバカ正直で素直なところが俺にはどこか怖かった。

俺の積み上げてきた高い壁を軽く飛び越えてきそうで…


朔「ちょろ…」


夏目「はい、自分でもそう思います」


”ポーン”


朔「ついたな、お前はこのまま降りずにフロアに戻れよ」


だから、急いでこいつから離れたくなったんだ。

俺の中で警報音が鳴っている気がしたから。


それなのに…


朔「何?監禁されんの?俺?」


夏目は駄々を捏ねて、俺を帰そうとしない。

極め付けは…


夏目「…いいです。それでも…先輩と1秒でも長くいられるなら…」


朔「はぁ…」


俺は俺のことを好きな奴には手を出さない。

それが男なら尚更だ。

もう二度とあんな想いをするのも、

させるのもごめんなんだよ。


そう思っているのに、俺はこいつを拒みきれなくなっていた。


朔「手…邪魔」


耳元でわざと囁く。


夏目「ん…」


朔「笑。お前、耳弱いの?」


夏目「せ、せんぱい!///」


(可愛すぎんだろ…こいつ…)


再び体温が上がった気がした。

それは熱のせいか…それとも別のものか…


答えはどこかで分かっていたと思う。

その日、俺は一度も

あの人のことを思い出さなかった。

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