第三話
ほっといてくれ
もう、あんな思いをするのはうんざりなんだ。
あんな思いをさせることも…
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オフィス__
翌朝、出社すると、申し訳なさそうな表情で夏目が声をかけてきた。
夏目 「朔先輩、昨日はすいません」
朔 「どれの事?思い当たる節があり過ぎるんだけど」
夏目 「その、酔っ払ってダル絡みしちゃって…」
朔 「あー、それね。うん、だるかった」
夏目 「す、すいません」
涙目になる夏目を見て、思わず苦笑いをする。
朔 「バカ、半分冗談だっつーの。気にしすぎ」
夏目 「だってぇ…」
ありさ (同じ部署の女性社員)「あー、石川君が後輩虐めてるー!」
朔 「は?逆だし、俺が虐められてるの」
ありさ 「それ、完全に苛めっ子の屁理屈なんですけどー?」
朔 「ハァ…夏目、お前ちょっと来い」
俺は涙目の夏目を屋上まで呼びつけた。
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屋上__
夏目 「俺…ボコられるんですか?」
朔 「んなわけあるか。つか、ボコすとか死語だろ。いつの時代のワードだよ」
夏目 「だって、先輩元ヤンだから…」
朔 「それも、どこ産の情報だよ。お前さ、仮にも出版社に勤めてるんだから憶測で話すんなよな」
夏目 「だって…」
朔 「なんだよ」
夏目 「だって、先輩…全然自分の話聞かせてくれないじゃないですか」
朔 「そうきたか」
夏目 「だから、俺は先輩の事が知りたいのに、いつも憶測くらいしか出来ないんですよ」
朔 「おい、泣くなよ」
夏目の目からボロボロと涙がこぼれる。
夏目 「泣いて…ひっく…ないで…ひっく…す」
朔 「いや、盛大に泣いてるだろ」
夏目 「ぅぅ…」
朔 「そんなに俺の事知りたいか?」
夏目 「はい…ひっく…知り…っく…だぃです」
朔 「泣き方、ガキかよ」
夏目 「ゔぅ…ぅ…ひっく…」
朔 「んじゃ、まず泣きやめ」
夏目 「…ぅ…はぃ…」
夏目が泣き止むまで、数分待った。
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数分後…
夏目 「情けない姿を見せて、すいませんでした、先輩」
朔 「本当にな。んで、俺の何を知りたいわけ?」
夏目 「じゃあ…血液型とか?」
朔 「B」
夏目「好きな色は?」
朔「金色」
夏目「金?!意外です。派手好きなんですね…」
朔「手に入れたくなる色だろ?」
夏目「あぁ、なるほど!確かに金メダルとかカッコいいですもんね」
朔「そんな感じ」
夏目 「家族構成は?」
朔 「質問が小3かよ。馬鹿みたいな両親とクソみたいな兄貴が一人」
夏目 「馬鹿にクソって…仲、悪いんですか?」
朔「死んでくれないかなと思える程度にな」
女癖の悪い高圧的な父親と
そんな父親になんでも言いなりの母親。
愛なんて存在しない仮面夫婦。反吐がでる。
だけど、そんな両親よりももっと嫌いなのが腹違いのクソみたいな兄貴だった。
事ある毎に、幼い頃から虐められ、罵られ、やりたくもない悪事を強要されたりもした。
あの家で過ごした日々は俺にとってゴミのようだった。
そう、あの人と出会うまでは…
***
(回想の中)
朔『大嫌いだ…あんな家族』
???ーー『んじゃあ、俺が朔の新しいお兄ちゃんになってあげる』
朔『…え?ほんと?』
???ーー『うん、新お兄ちゃんが朔を守ってあげるから元気だしな』
***
夏目 「……先輩?」
(どんだけ昔の事思い出してんだよ)
雲一つない空を一瞬だけ仰ぐ。
朔 「悪い、ちょっと昔の事を思い出しただけだ。他にもまだあんの?」
夏目 「…それじゃあ、好きなタイプは?」
静かな沈黙が一瞬だけ辺りを包み込む。
朔 「…俺の事が好きじゃない人」
夏目 「え?なんですか…それ」
朔 「俺は俺の事を本気で好きな奴とは寝ない」
夏目 「どうして?」
俺は黙って、夏目の目を真っ直ぐに見つめた。
朔 「俺はもう誰の事も好きにならないから」
夏目 「……」
俺から視線を逸らす夏目。
朔 「だから、遊ぶ相手に本気を求められたら怠いんだよ」
夏目 「でも…」
朔 「夏目」
夏目が再び俺の方を見る。
朔 「だから、お前とは無理だ」
夏目 「えっ?」
朔 「お前、俺の事好きだろ?」
夏目 「…はぃ」
朔 「俺が、お前を突き放す理由はそれだ。それにお前は男だしな、無いだろ。普通に」
少しだけ俯く夏目の表情を覗き見る。
心配したわけじゃない。
ただ、少し気掛かりだっただけだ。
夏目 「朔先輩…俺、確かに憶測をよくするんです。でも、それは適当にしてるんじゃない。ちゃんと相手を見てしてるつもりです。だからか、不思議と俺の憶測は外れた事が無いんですよね。俺、馬鹿だし、直ぐにドジ踏むけど見る目はあると思うんです」
そういうと、夏目は俯く顔を上げる。
夏目「だから、ズバリ言いますけど…先輩は俺が男だから拒否してるのは嘘だと思います。先輩はそういう常識に囚われるタイプじゃないと思うので」
朔 「…お前さ」
夏目 「それに、先輩は怠いから自分に気持ちがある人とは遊ばないと言ったけど…それも違うと思う」
朔 「…は?」
夏目 「相手を傷つけてしまうとわかっているから抱かないんじゃないですか?」
朔 「何言ってんの?」
夏目 「だって、先輩はその痛みを知ってる人の目をしてるから…」
朔 「……」
夏目 「本当は自分のような痛みを相手に背負わせたくなくて遠ざけてるんじゃないんですか?」
朔 「馬鹿じゃねぇの?俺の事、美化し過ぎ」
夏目 「美化しますよ…そりゃ、しますとも!好きなんだから、美化するに決まってるじゃないですか!」
朔 「急にスイッチ入ったな…」
夏目 「好きな人のことを美化フィルター掛からない人なんていないでしょうが!」
朔 「フィルターって…」
夏目 「でも、朔先輩は絶対優しいって俺…本能でわかるんです。だから…だから…」
不意に俺に抱きつく夏目。
朔 「おい、抱きつくなよ」
夏目 「…好きでいさせて下さい。この気持ちを受け入れてくれなくても構いません。でも、突き放さないで下さい。俺は…先輩の事を好きでいたいんです。自分に嘘をつきたくないんです!」
朔 「……」
夏目 「好き…好きなんです…好き…ただ、側にいれるだけでいいんです…だから…お願い…拒絶しないで…」
***
(回想中)
朔 『…俺…あんたのことが好きだ…だから、ずっと側にいさせてよ』
??? ーー『……ごめん、朔』
***
最後に会った時のあの人の背中を思い出していた。
金色の髪がサラサラと風に揺れる。
あの時、あの人はどんな表情をしていたんだろう…
こいつがこんなに一生懸命、気持ちを伝えてるこの瞬間でさえ、俺はまだあの人を自分の中から消せない。
だけど…
朔 「お前の事、泣かせるかもよ?」
夏目 「構いません」
朔 「…だったら、勝手にすれば?」
夏目 「え、いいんですか?」
朔 「だって、お前駄々捏ねると聞かねえじゃん」
夏目 「は、はい!」
朔 「但し、俺は今まで通り俺だから。女遊びもするし、お前とは寝ない」
夏目 「それでも構いません!俺、そんな先輩も好きですから!」
朔 「お前、開き直り過ぎ」
夏目 「す、すいません。つい、嬉しくて」
頬を赤く染める夏目。
その頬を無意識に優しく撫でる。
夏目 「せ、先輩?///」
朔 「…顔真っ赤(笑)」
夏目 「先輩が俺で笑った…」
朔 「は?普通に笑うだろ…どんだけ赤くなってると思ってるんだよ」
夏目 「え、そんなに赤いですか?ひー!!」
面白いやつが出来た。
こいつの存在が俺の中でどう変化するのか楽しみなやつが。




