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逆さの月の恋  作者: Nesn


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20/20

第二十話〜夏目side〜

好きな人の好きな人になりたい。


そう願っていた。


____________________



先輩とコンビニに向かう道中__



夏目「え?…あれって、柏木さんと深瀬さんじゃないですか?」


朔「……」


夏目「柏木さん、帰るみたいですね。2人も朝帰りなのかな?」


この時、少しだけ意地の悪い気持ちが出た。


先輩に自覚して欲しかったんだと思う。


”あの人はもう、あなたのものじゃない”と…


そして、


”朔先輩も、もう俺のもの”だと…


そんな欲をかいたから、きっと天罰が下ったのかもしれない。


朔「さぁな。他人の恋愛に興味ねぇ…行くぞ」


夏目「…なんか深瀬さんフラフラしてません?」










朔「っ、澪さん!!!」


あんなに誰かを必死で呼ぶ先輩の声を俺は初めて聞いた。


そして、あんなに必死に走る姿も。


俺がどんなに手を伸ばしても、

これっぽっちも追いつけないほどに…


____________________



病院__



夏目「先輩、柏木さんが来ました」


柏木「澪!」


まだベッドの上でまだ眠っている深瀬さんに駆け寄る柏木さん。


その表情には心底心配したのが滲み出ていた。


夏目「熱中症だそうです。まだ寝てるんで安静にさせてあげて下さい」


柏木「ありがとう」


柏木さんは愛おしそうに眠っている深瀬さんの手を握りしめた。


朔「………帰るぞ」


夏目「え、目を覚ますまでいないんですか?」


朔「柏木さんが来たし、もういいだろ?じゃ…」


夏目「先輩、待って!そ、それじゃ、俺も…お大事にして下さい」


柏木「2人とも、ありがとね」


軽くお辞儀をして病室を後にする。


その日、先輩が俺の家に戻る事は無かった。


____________________



数日後__


あれから先輩は俺の家に来なくなった。


会社で会えば話すけど、プライベートで会うのは避けられてる気がする。


凄く辛かったけど、感情のまま押しかけるのは怖かった。


別れ話を切り出されそうで…


____________________



休憩所__



深瀬「あ、きたきた。ハルくーん」


休憩室に入ると、深瀬さんが手を振りながら出迎えてくれた。


夏目「深瀬さん?!もう出勤して平気なんですか?体調のほうは?」


深瀬「おかげさまで。あの日は本当にありがとうね。今度はハル君が俺のヒーローだね?」


夏目「いえいえ、ヒーローは俺じゃなくて朔先輩です。あの日、深瀬さんを助けたのは朔先輩ですから…」


深瀬「あー、そうか…。もしかして、そのせいでハル君、暗い顔してるの?」


夏目「…それは…その…」


深瀬「知ってるんでしょ?俺と朔の事…?」


深瀬さんの口から初めて”朔”という名前を聞いて、改めて二人の関係が現実だったのだと痛感する。


深瀬「張本人の俺が言うのもなんだけどさ、嫌だよね?昔の恋人を目の前で助けられたりするの。わざとじゃないんだけど、嫌な思いさせてごめん。なんか文句とか不満があれば聞くから遠慮なく言って?」


夏目「文句なんて…そんな…」


深瀬「気にしないで、ぶちまけていーよ!」


(この人のこういうところが俺は怖い。天真爛漫で自由奔放で…そして、何よりも人を魅力する。だから…)


夏目「…朔先輩を俺から奪わないで下さい」


深瀬「…え?」


夏目「朔先輩を…ひっく…俺から…っく…取らないでぇ…ぅぅう…」


深瀬「わ?!ちょ、ハル君、泣かないで」


夏目「うわ〜ん!」


俺は場所もわきまえず、子供のように泣き喚いた。



____________________



数分後…



深瀬「落ち着いた?」


夏目「…はぃ」


深瀬「ごめんね、なんか本当に色々と不安にさせてたみたいで;」


夏目「いえ、俺が勝手に不安になっただけなので…」


子供じみた自分が情けない。


深瀬「ハル君、約束するよ。俺は絶対君から彼氏を奪ったりしない」


深瀬さんは真っ直ぐ曇りのない瞳で俺を見つめながら、そう言った。


夏目「深瀬さん…」


深瀬「そもそも、俺に対する愛情なんてあの子には残ってないよ。あの子に残ってる感情があるとすれば、それはきっと…憎しみだ」


夏目「……」


前に先輩から聞かされていた。


深瀬さんに置き去りにされた事へのトラウマや葛藤。

そして、この人に先輩がどれほど深く心に傷を負わせられたのかを…


夏目「どうして…先輩の前から消えたんですか?」


深瀬「それについては、ハル君に話すつもりないかな?」


深瀬さんは、いつもの笑顔を崩さずに答える。


だからこそ、深瀬さんの感情がいつも読み取れなかった。

それがもどかしくて堪らない。


夏目「先輩は凄く傷ついたんです!それが今もトラウマになってます!それは、全部深瀬さんのせいなんですよ!?」


深瀬「ハル君は俺にどうしてほしいの?君の彼氏と仲良くして欲しい?」


夏目「え…それは…」


深瀬「だったら、もういいじゃん?俺は陽介ともう少しで戸籍上の家族になる。そうなったら拠点を海外に移すつもり」


夏目「そうなんですか?」


深瀬「うん。だから、安心して。俺はもう少しで君達の前から消えるから」


笑顔でそう告げる深瀬さん。


夏目「……」


正直ホッとした。でも、何故か喜べはしなかった。


だけど、俺は朔先輩をこの人からどうしても奪われたくない。


どうしても…


深瀬「安心した?」


夏目「…はい」


深瀬「ハル君、素直で可愛いね。それじゃあ、話題変えようか?ピリピリしたまま別れるのは嫌だしね」


深瀬さんはそう言ってニコリと笑うと、俺の頭をポンポンと撫でた。



”ポンポン”

(夏目の頭を撫でる音)



先輩と同じように…


(先輩にも、よくしてたんだろうな…)


頭を撫でるのは朔先輩の癖だと思っていた。

だけど、本当は深瀬さんの癖だったんだ…


深瀬「どした?」


夏目「いえ…海外でも、絵を描くんですか?」


深瀬「そうだね」


夏目「深瀬さんの絵、好きです。躍動感とか、なんていうか…心が動かされます」


深瀬「嬉しいな。ありがとう」


夏目「子供の頃から絵が上手だったんですか?」


深瀬「それが、全然!犬を描いたらネズミって言われるレベル」


夏目「そ、それは結構ですね」


深瀬「でしょ?w」


深瀬さんは窓の外の空を見つめた。


深瀬「俺さ、ある時期になーーーんにも無いところにいてさ。そこには本当に何にも無いから時間が凄く長く感じて…ちょっと逃げ出したくなったりもしてさ。そんな時、紙に今、自分が行きたいところを描いてみたんだよ」


夏目「行きたいところ?」


深瀬「そ。絵の中で沢山旅をしたんだ。絵の中なら、どこにでも行けるだろ?好きな時に好きな人とどこにでも行ける。その時からだよ、俺が絵にのめり込んだのは。だから、俺は絵描きとしては結構遅咲きなの」


夏目「そうだったんですね」


深瀬「海外に行く前に最後に日本で展覧会を開きたかったんだ。言ったでしょ?俺は最初よりも最後を大切にしたいタイプだって」


夏目「はい」


深瀬「でも、まさか、そのせいで君達を掻き回す悪〜い元カレポジになるとは思わなかった。本当ごめんね;」


夏目「いや、それは深瀬さんが仕組んだわけじゃないので」


(俺はやっぱりこの人が好きだ。こんなに素敵な人を嫌いになんてなれない。だからこそ、この人の存在に怯えてしまう)


深瀬「2人には、なるべく関わらないように俺も努力するから。だから、あんまり心配しないで」


夏目「…はい。ありがとうございます」


深瀬「あーあ、泣き過ぎて可愛い顔が出目金みたいだ;顔ちゃんと洗うんだよ?それじゃ、俺は行くね」


彼の背中を見送りながら、自分が凄く悪い人間になった気分になった。


”深瀬「まさか、そのせいで君達を掻き回す悪〜い元カレポジになるとは思わなかった。本当ごめんね;」”


掻き回しているのは自分の方じゃないのか…?


あの人と話してるとそんな気にさせられる。


夏目「朔先輩…俺…どうしたらいいかわからないです」


誰もいないところで、俺はポツリと正解を求めて呟いた。



____________________



翌日の打ち合わせ__



深瀬さんと先輩が同じ空間いる。


それを側で見ているだけで不安になった。


でも、深瀬さんは一切僕達の方を見ない。



”深瀬「2人には、なるべく関わらないように俺も努力するから。だから、あんまり心配しないで」”


あの時の言葉を守ろうとしているように。


そして、先輩もまた深瀬さんの事を一切見なかった。


(…よかった)


でも…


女性社員「深瀬さん、珈琲どう……キャッ!」




(足を躓く女性)


”パシャン”


(熱い珈琲が深瀬に掛かる)




深瀬「ぁっつ…」


女性社員「す、すいません!」


柏木「澪っ!!!大丈夫?!」


深瀬「大丈夫、大丈夫、ごめんね」


柏木「だけど…火傷とかしてない?」


女性社員「私、冷やすもの持ってきます!」


深瀬「へーき、へーき。自分で冷やしてくるよ」


女性社員「でも…せめてクリーニング代はこちらで支払わせて下さい」


深瀬「あー、いいって。ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね」


柏木「じゃあ、僕も」


深瀬「いーから。陽介は過保護過ぎ。ちゃんと仕事しててくださーい」


そう言って、深瀬さんは席を立った。


夏目「……」


朔「……」


俺達は、その間一度も会話をしなかった。


だって、気付いたから。


女性が躓いて、深瀬さんに熱い珈琲が掛かる直前…



朔は誰よりも早く、深瀬さんの元に駆けつけようと身体が反応していた。


本当は誰よりも…


先輩は深瀬さんの事を見ていたんだ。



その事に気付いたのに、俺は見て見ぬふりしか出来なかった。


受け入れてしまったら、先輩を失う気がしたから…

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