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逆さの月の恋  作者: Nesn


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第二話

悪夢を見る。

あの日から毎日のように…


(夢の中)


???――『朔…好きだよ』


___________


_________


_______



朔「…嘘つくなよ」


目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。


女性 「あ♡起きた?寝言、言ってたよ」


朔 「……誰?あんた」


女性 「はぁ?!」


“バチン”


____________________


会社__


夏目 「で、その頬なわけですか?」


真っ赤な手形がくっきり滲む俺の頬を指差す夏目。


朔 「…うっせぇ」


早朝から知らない女に頬を叩かれたことよりも、隣のデスクの所有者が夏目に変更されていたことに絶望していた。


夏目 「朔先輩も懲りませんね。そのハイスペックな見た目じゃ誘惑も多いんでしょうけど…」


朔 「有効活用させてもらってます」


夏目 「用法用量を守って活用しましょうよ」


朔 「俺は医薬品か」


子供のように笑う夏目の表情が不意に真剣になる。


夏目 「……朔先輩は、特定の人とか作らないんですか?」


朔 「特定?」


夏目 「恋人とか」


朔 「無い」


夏目 「じゃあ、セ、セフレとか?」


朔 「それも無い」


夏目 「即答すぎません?少し考えたり…」


朔 「だるい話させんな」


叱られた犬のように俯く夏目。


朔 「おい、機材持ってこい。外回り行くぞ」


夏目 「は、はい!」


こいつは表情がコロコロと変わって動きも一々騒がしい。


朔 「…まるで犬だな」


夏目 「え?犬?俺のことですか?」


朔 「ほら、散歩の時間だ。ついて来い」


夏目 「せ、先輩!待って下さいよぉ〜!」


思わず力が抜ける声だった。


____________________


5時間後__


朔 「…よし、今日はこれで終わりだな」


夏目 「はい」


朔 「俺は直帰するけど、お前も会社戻るか?」


夏目 「いや、俺も直帰許可もらってます」


朔 「そうか。機材は俺が持って帰るわ。おつかれ」


夏目 「あ、あの!」


立ち去ろうとする俺の腕を、両手で掴んで引き留める夏目。


その手は微かに熱を帯びている。


朔 「…なに?」


夏目 「そ、その…もしよかったら、この後ご飯でも一緒にどうですか?」


朔 「飯?」


夏目 「はい!勿論奢ります!俺が誘ったんで!」


朔 「悪い。今度な」


手を振り解こうとする俺に、夏目はさらに強く手を引いた。


朔 「…おい。離せよ」


夏目 「嫌です」


朔 「はぁ?」


夏目 「だって!朔先輩の『今度な』は、絶対受け入れたら永遠に訪れない『今度な』じゃないですか!」


朔 「お前って変なところだけ鋭いよな」


夏目 「ほら、そのつもりだったんじゃないですか〜!」


朔 「疲れてんだよ。早く家に帰って寛いで飯食いたいだけ」


夏目 「じゃ、じゃあ!先輩の家に…」


朔「駄目だ」


夏目「えっ?」


朔「俺の家にお前を呼ぶ事は絶対に無い」


我ながら冷たい声が出た。


夏目「そんなに…嫌ですか?俺の事?」


俯く夏目。


(少しキツく言い過ぎたか)


朔「勘違いすんな、お前だからってわけじゃない。誰の事も家に呼ぶつもりないだけ」


夏目「え?でも…昨日の女の人とかは?」


朔「誰1人、家に連れ込んだことねぇよ」


夏目「そ、そうなんだ…」


どこか嬉しそうに微笑む夏目に気づかないふりをした。


夏目「だったら、先輩の家の近くでご飯にしましょう!そしたら帰宅もすぐできるし」


朔 「食い下がるな」


夏目 「俺、朔先輩にもっと俺の事知ってもらいたいんです!」


腕を掴む夏目の手が震えている。


(俺にもあったな。こんな風に必死だった時が…)




思い出すのはキンキンに冷えたラムネと


サラサラの金色の髪…


そして、誰よりも甘い香り…




朔 「…ビールも付けろよ」


その言葉で夏目の瞳がキラキラ輝いた。


夏目 「は、はいっ!!何杯でも!」


朔 「バカ、そんなに飲まねぇよ」


夏目 「そ、そうですよね」


朔 「…とりあえず、手、離してくんない?」


夏目 「あ、ごめんなさい!」


こうして、俺達は近場の居酒屋へ向かった。


____________________



居酒屋__



席につくや否や、夏目の身の上話が炸裂。


気づけばビールは3杯目になっていた。


夏目 「さっきから俺ばっか話してるじゃないですか〜!朔先輩も話してくださいよぉ〜!」


朔 「絡むなよ、だるい奴だな」


夏目 「直ぐ口悪い!この元ヤン!」


朔 「誰が元ヤンだし」


夏目 「だって〜朔先輩、絶対武勇伝ありそうですもん〜!」


朔 「んなもんねぇよ」


夏目「嘘だ!絶対喧嘩とかしてたでしょ?」



***



――『朔、本当に強いのは誰かを傷つける人よりも誰かを守れる人だよ』



***



残像が疼く。



朔 「お前、酔い過ぎ…帰るぞ」


夏目 「嫌です!」


朔 「お前な…」


夏目 「だって、こうして過ごせるのが嬉しいから…」


朔 「本当酔いすぎ」


夏目 「先輩…俺…」


朔 「すいません、お勘定お願いします」


俺はわざと言葉を遮った。


夏目 「…先輩」


朔 「悪い。もう帰るわ、これ俺の分」


夏目 「え、いらないですよ。俺が誘ったんだから」


朔 「借りは作りたくない」


夏目 「借りって、そんなつもりじゃ…」


朔 「会計頼むな。んじゃ、お先」



____________________



帰宅時の電車の中で、さっきの出来事を振り返る。


――夏目『だって、こうして過ごせるのが嬉しいから…

先輩…俺…』


あの熱い視線の意味を俺は知っている。

そしておそらく、あの後に続く言葉も…。


朔 「……怖いもの知らずが一番怖いな」


静かに溜息をこぼした。

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