第二話
悪夢を見る。
あの日から毎日のように…
(夢の中)
???――『朔…好きだよ』
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朔「…嘘つくなよ」
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
女性 「あ♡起きた?寝言、言ってたよ」
朔 「……誰?あんた」
女性 「はぁ?!」
“バチン”
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会社__
夏目 「で、その頬なわけですか?」
真っ赤な手形がくっきり滲む俺の頬を指差す夏目。
朔 「…うっせぇ」
早朝から知らない女に頬を叩かれたことよりも、隣のデスクの所有者が夏目に変更されていたことに絶望していた。
夏目 「朔先輩も懲りませんね。そのハイスペックな見た目じゃ誘惑も多いんでしょうけど…」
朔 「有効活用させてもらってます」
夏目 「用法用量を守って活用しましょうよ」
朔 「俺は医薬品か」
子供のように笑う夏目の表情が不意に真剣になる。
夏目 「……朔先輩は、特定の人とか作らないんですか?」
朔 「特定?」
夏目 「恋人とか」
朔 「無い」
夏目 「じゃあ、セ、セフレとか?」
朔 「それも無い」
夏目 「即答すぎません?少し考えたり…」
朔 「だるい話させんな」
叱られた犬のように俯く夏目。
朔 「おい、機材持ってこい。外回り行くぞ」
夏目 「は、はい!」
こいつは表情がコロコロと変わって動きも一々騒がしい。
朔 「…まるで犬だな」
夏目 「え?犬?俺のことですか?」
朔 「ほら、散歩の時間だ。ついて来い」
夏目 「せ、先輩!待って下さいよぉ〜!」
思わず力が抜ける声だった。
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5時間後__
朔 「…よし、今日はこれで終わりだな」
夏目 「はい」
朔 「俺は直帰するけど、お前も会社戻るか?」
夏目 「いや、俺も直帰許可もらってます」
朔 「そうか。機材は俺が持って帰るわ。おつかれ」
夏目 「あ、あの!」
立ち去ろうとする俺の腕を、両手で掴んで引き留める夏目。
その手は微かに熱を帯びている。
朔 「…なに?」
夏目 「そ、その…もしよかったら、この後ご飯でも一緒にどうですか?」
朔 「飯?」
夏目 「はい!勿論奢ります!俺が誘ったんで!」
朔 「悪い。今度な」
手を振り解こうとする俺に、夏目はさらに強く手を引いた。
朔 「…おい。離せよ」
夏目 「嫌です」
朔 「はぁ?」
夏目 「だって!朔先輩の『今度な』は、絶対受け入れたら永遠に訪れない『今度な』じゃないですか!」
朔 「お前って変なところだけ鋭いよな」
夏目 「ほら、そのつもりだったんじゃないですか〜!」
朔 「疲れてんだよ。早く家に帰って寛いで飯食いたいだけ」
夏目 「じゃ、じゃあ!先輩の家に…」
朔「駄目だ」
夏目「えっ?」
朔「俺の家にお前を呼ぶ事は絶対に無い」
我ながら冷たい声が出た。
夏目「そんなに…嫌ですか?俺の事?」
俯く夏目。
(少しキツく言い過ぎたか)
朔「勘違いすんな、お前だからってわけじゃない。誰の事も家に呼ぶつもりないだけ」
夏目「え?でも…昨日の女の人とかは?」
朔「誰1人、家に連れ込んだことねぇよ」
夏目「そ、そうなんだ…」
どこか嬉しそうに微笑む夏目に気づかないふりをした。
夏目「だったら、先輩の家の近くでご飯にしましょう!そしたら帰宅もすぐできるし」
朔 「食い下がるな」
夏目 「俺、朔先輩にもっと俺の事知ってもらいたいんです!」
腕を掴む夏目の手が震えている。
(俺にもあったな。こんな風に必死だった時が…)
思い出すのはキンキンに冷えたラムネと
サラサラの金色の髪…
そして、誰よりも甘い香り…
朔 「…ビールも付けろよ」
その言葉で夏目の瞳がキラキラ輝いた。
夏目 「は、はいっ!!何杯でも!」
朔 「バカ、そんなに飲まねぇよ」
夏目 「そ、そうですよね」
朔 「…とりあえず、手、離してくんない?」
夏目 「あ、ごめんなさい!」
こうして、俺達は近場の居酒屋へ向かった。
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居酒屋__
席につくや否や、夏目の身の上話が炸裂。
気づけばビールは3杯目になっていた。
夏目 「さっきから俺ばっか話してるじゃないですか〜!朔先輩も話してくださいよぉ〜!」
朔 「絡むなよ、だるい奴だな」
夏目 「直ぐ口悪い!この元ヤン!」
朔 「誰が元ヤンだし」
夏目 「だって〜朔先輩、絶対武勇伝ありそうですもん〜!」
朔 「んなもんねぇよ」
夏目「嘘だ!絶対喧嘩とかしてたでしょ?」
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――『朔、本当に強いのは誰かを傷つける人よりも誰かを守れる人だよ』
***
残像が疼く。
朔 「お前、酔い過ぎ…帰るぞ」
夏目 「嫌です!」
朔 「お前な…」
夏目 「だって、こうして過ごせるのが嬉しいから…」
朔 「本当酔いすぎ」
夏目 「先輩…俺…」
朔 「すいません、お勘定お願いします」
俺はわざと言葉を遮った。
夏目 「…先輩」
朔 「悪い。もう帰るわ、これ俺の分」
夏目 「え、いらないですよ。俺が誘ったんだから」
朔 「借りは作りたくない」
夏目 「借りって、そんなつもりじゃ…」
朔 「会計頼むな。んじゃ、お先」
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帰宅時の電車の中で、さっきの出来事を振り返る。
――夏目『だって、こうして過ごせるのが嬉しいから…
先輩…俺…』
あの熱い視線の意味を俺は知っている。
そしておそらく、あの後に続く言葉も…。
朔 「……怖いもの知らずが一番怖いな」
静かに溜息をこぼした。




