第十九話
あなたは俺の過去であって未来じゃない
それは逆も同じだ…
俺はあなたの未来じゃない…そうだろ?
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歩道__
頭を働かせたくて、休日の早朝からオフィスに向かっていた。
このところ、夏目の家に入り浸りだったから。
このままじゃ、ダラダラとあいつに甘え過ぎてしま
う。
そんな事したくない。
でも、家に1人でいるのも嫌だった。
余計な事を思い出してしまうから…
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会社__
会社につくと、先客がいた。
見覚えのある後ろ姿。
この距離でも相手が誰か分かってしまう。
そんな自分が心底嫌でたまらない。
(なんでいるんだよ)
気づかれないうちに引き合えそうとした。
でも…
深瀬「あ…」
あの人の持っていたペンが転がり…
”コロコロ”
(ペンが転がる音)
俺はそれを静かに拾った。
深瀬「…あ、ありがとう」
「……」
流れる沈黙。
深瀬「どうしたー?今日、休日だよ?」
朔「…あんたこそ」
深瀬「俺は社員さんが少ない時に作業進めたくて。ほら、一応新人だし?あんまり気を使わせたくないだろ?」
朔「……」
俺はペンを黙って差し出す。
深瀬「あぁ、ありがとう。ごめんね、あんまり話したくないよな。気にしないで仕事して。俺、これ終わったら帰るから」
朔「……帰るって…柏木のところに?」
深瀬「……」
一瞬、彼の手が止まる。
深瀬「やだなー。それはセクハラになるぞー?気をつけなきゃ」
朔「…答えろよ」
深瀬「答えませーん」
朔「ちっ、誤魔化すなよっ!」
”ガシャン”
(椅子が倒れる音)
俺は苛立ちを抑えきれず、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
深瀬「……相変わらず、短気だな。朔は…」
俺の名前を再会して以来、初めてこの人が呼んだ。
少し困ったように微笑みながら。
朔「…あんたは、相変わらず全然何も答えないんだな…」
俺はそう言い捨てて、その場を立ち去った。
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道中__
俺は夏目の家に向かっていた。
”深瀬「…相変わらず、短気だな。朔は…」”
その口で俺の名前を呼ぶな。
”レンズ越しに合う目”
その目で、俺を見るな。
”俺の背中に触れそうになる手”
その手で俺に触れるな。
”ほのかに香る甘い匂い”
その香りで俺を惑わすな。
全て俺のものにならないのなら、俺の前から消えてくれ。
そんな事ばかりを考えながら…
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夏目の家__
夏目「先輩、どうしたんですか?連絡も無しに」
朔「来ちゃだめだったか?」
夏目「いえ、嬉しいです…あ…」
力任せに夏目を引き寄せ、その唇を塞ぐ。
朔「…夏目……好きだ…」
夏目「ん…っ…せん…ぱぃ…んぁ…」
***
(過去を回想中)
朔「…好きだ…」
夏目を腕に抱きながら、俺は記憶の中のあの人を抱いていた。
白い肌…
綺麗な輪郭…
鋭い目…
全てが俺を魅了する。
朔「…ハァハァ…好きだ…」
澪「…朔…っあ…」
***
(消えろ…消えろ…消えろ…消えろ…)
夏目「先輩…っ…すき…すきです…」
朔「…俺も…遥が好きだ…」
頼むから、俺の中から消えてくれよ…
伊藤澪。
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翌朝__
夏目「先輩、起きて下さい」
朔「ん…」
夏目「もうお昼ですよ、何か食べないと」
朔「…コンビニいくか?」
夏目「はい!」
朔「…アキは?」
夏目「拗ねて寝てます」
朔「笑。んじゃあ、ゴマすり用にチューるも買うか」
夏目「そうですね(笑)」
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コンビニに向かう道中__
夏目「今日暑いですね」
朔「だな」
夏目「あれ?…あれって、柏木さんと深瀬さんじゃないですか?」
朔「……」
道路向かい側で2人が何か会話をしているのが見えた。
夏目「あれ、柏木さん帰っちゃうみたいですね。2人も朝帰りかな?」
朔「さぁな。他人の恋愛に興味ねぇ…行くぞ」
そう、どうでもいい。
あの人が今誰に抱かれてようと俺には関係ない…
そう思っているのに、2人が一緒にいるところを見たくなかった。
夏目「なんか様子が…」
朔「いーから、ほっとけって」
夏目「でも、深瀬さんフラフラしてません?」
夏目のその言葉で振り返る。
すると、あの人がゆっくりと地面に崩れ落ちるのが見えた。
音が遠のく…
朔「っ、澪さん!!!」
気付いた時には無我夢中であの人のところへと走っていた。
”バッ”
(倒れた澪を抱き抱える音)
朔「澪さん!!」
深瀬「…さ…く?」
腕の中で静かに意識を失う澪さん。
朔「大丈夫ですか!夏目、救急車!」
夏目「は、はい!」
朔「しっかりしろよ、澪さんっ!澪さん!」
俺は、この時、
夏目がどんな顔をしているのか
気にかけてやる事もできなかった。
澪さんの事しか、見えていなかったから…




