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逆さの月の恋  作者: Nesn


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第十七話

なんで今更現れるんだよ。


俺が一番求めた時に

あんたは一度も現れなかったくせに…


どうして今更…


____________________



数時間前…


屋上__



夏目「あ、先輩ここでしたか?」


朔「一服してた」


夏目「そうかな?って思って」


先輩の横にそっと座り込む。


朔「どうした?」


夏目「いや…少し離れただけで恋しくて…」


朔「甘ったれだな」


俺にそっと唇を寄せる夏目。



“ふわっ…”



その時、あの香りがした。



***



(過去を回想中)


澪「朔…キスしてよ…」



***




“グイッ”

(夏目の身体を押し退ける音)



夏目「…先輩?」


気がつくと俺は夏目の身体を引き離していた。


朔「お前、柏木に近づいたか?」


夏目「えっ?柏木さん?いいえ、今日はまだ会ってませんけど…どうしてですか?」


朔「…いや、匂いが…

…悪いけど、俺、そろそろ仕事戻るわ」


夏目「あ、はい。頑張って下さい!」


夏目の顔を見る事が出来なかった。


あの香りをまとった夏目とキスをする事も…


もし、今…夏目とキスをすれば


あの人と唇を交えていると勘違いしそうで怖かった。



____________________



仕事終了後の廊下__



さっきの出来事のせいで仕事が捗らなかった。


(…らしくねぇ)














夏目「あ、朔先輩!」


向こうの方で夏目が俺を呼び止める。


(あいつは全然大丈夫そうだな)


元気な夏目の声に安堵した。


朔「おう、打ち合わせ終わったのか?」


夏目「はい」


朔「さっきは…悪かったな」


夏目「いえ、全然。今、柏木さんを待ってるんですけど、それが終われば上がれるので一緒に帰れますか?」


まただ…


どこからともなく甘いラムネのような香り。


嫌でも、あの人を思い出させるこの香りが俺は大嫌いだった。


朔「柏木…だからか」


夏目「何がですか?」


朔「ここ、あいつの匂いがする」


夏目「あ、それなら柏木さんの香りじゃないですよ」


そんなわけない。

この香りを俺が間違えるわけない。


朔「いや、あいつの匂いだよ」


夏目「違うんですよ。この香水の香りは深瀬さんの…」








その時だった__









「ハル君、カフェオレで良かったー?何飲むか分からなくて……」


一瞬耳がイカれたかと思った。


背後から聞こえてくる

この声を俺は知っている。


何度も…何度も…

この声を頭の中で再生し続けていたから。


(そんな筈ない…まさか…そんなはず…)


ゆっくりと顔を振り返ると、見覚えのある栗色の瞳が俺を見つめ返す。




“ガシャン”

“コロコロコロ…”

(缶コーヒーが転がる音)



缶があの人の手から落ちた音が俺には聞こえていなかった。


息を呑んだんだ。


憎いのに、あの頃まま

あまりに綺麗だったから…




____________________




そこからはよく、覚えていない。


ただ、夏目が俺を紹介した時に…


”深瀬「はじめまして」”


あの人が、そう笑いかけて言った事と。


柏木「この人が僕の婚約者の深瀬澪です」


俺に見せつけるように柏木があの人を紹介してきた事だけは鮮明に脳裏に焼き付いていた。



____________________



外__



夏目「先輩!待って!待って下さい!」


俺を必死に追いかけようとする夏目の声が聞こえていたが、俺は足を止める事ができない。


(頼むから一人にしてくれ…)


頭が混乱していて整理する時間が欲しかったんだ。



柏木の婚約者があの人?


いつから…?どこで…?


俺と柏木の出会いは偶然か?


”柏木「この人が僕の婚約者の()()澪です」”


”深瀬”確かにそう言った。


でも、あの人の苗字は()()だった。なんで苗字が変わってるんだ?


それに、あの時の柏木の顔。


俺とあの人の過去を知っているようだった。


朔「っ、くそ!」


苛立ちが止まらない。


その時だった。



“ギュッ”

(朔の手を握る音)



俺の手を引き止める夏目の手。


夏目「ハァハァ…朔…先輩…待って」


朔「夏目、悪い。一人にしてくれ」


夏目「…嫌って言ったら…駄目ですか?」


朔「…駄目だ」


夏目「深瀬さんが先輩の初恋の人なんですか?」


朔「……」


夏目「…そうなんですね?」


返事をする事が出来なかった。

認めたくなかったから。


朔「夏目、手…離してくれ」


夏目「先輩…俺、先輩の側に居たいです…

今、凄く離れたくないんです」


朔「…っ」


夏目を泣かせたくない。

俺があの人から受けたような痛みをこいつには味合わせたくない。



だけど…



朔「悪い。今のお前、あの人の匂いがする…」


そう言い残して、俺は夏目をその場に置き去りにした。



____________________



自宅__



何度も夢に見た人がまた現れた。


他人の婚約者として…


朔「…二度と会いたくなかった」


“ピンポーン”


こんな夜更けにチャイムを鳴らす人物に心当たりは一人しかいない。


“ガチャ”

(玄関を開ける音)


朔「…夏目」


夏目「…匂い…落としてきました」


そこには濡れたままの髪の夏目がいた。


朔「…帰れ」


夏目「嫌です」


朔「いいから…明日話そう」


夏目「今日話したいです」


朔「…夏目…頼むから」


夏目「俺、深瀬さんの事で傷ついてません。でも、先輩はきっと傷ついてるから…だから、俺今日は先輩の側にいます」


なんで、こいつは

こんなに俺の事が好きなんだろう?

なんで、こんなに俺を優先するんだ。

なんで、こいつはこんなに…

俺を大切にしてくれるんだよ。


朔「…はぁ…わかった。上がれよ」


夏目「はい」


“バタン”

(ドアが閉まる音)


玄関のドアが閉まると同時に夏目の身体を抱き寄せる。


朔「…夏目、ごめんな」


夏目「…先輩、大好きです」


朔「俺もだよ」


こんなに俺を好きでいてくれる夏目を大切にしたいと心から思った。


(あの人の存在なんて、今の俺達には関係ない)


夏目から、あの人の香りはもうしなかった。

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