第十五話〜夏目side〜
その人が連れてきた香りは
あの人を連れ去る香りなのかもしれない…
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会社のエレベーターフロア__
夏目「うわぁ〜!もう本当最悪。電車止まるとか聞いてないよ」
柏木さんから頼まれていた打ち合わせの資料を持って俺は全速力で会社のフロアを駆け巡っていた。
”ポーン”
(エレベーターがフロアに到着する音)
扉が開くと直ぐに飛び乗る。
夏目「絶対遅刻した…絶対遅刻した(ブツブツ…)」
???「ねぇ、君って、幽霊とか取り憑いてたりする?」
夏目「うわぁ?!ふぇ?!え…な、なんで?!あなたがここに?!」
???「やぁ、また会ったね?俺達、縁が合ったみたいだ」
エレベーターの中にいたのは、いつぞやの俺のヒーローだった。
夏目「ヒーローさん、なんでいるんですか?!」
???「んー…バイ○ンマンが悪さをするのを止めに…とか?どう?」
夏目「まだ、ア○パンマンネタ引っ張る気ですか?」
???「くくく。ごめん、ごめん。君の反応が面白くてさ。ほら、これ」
そう言って、首にぶら下がってる入館許可証を見せてくれた。
夏目「…深瀬…れい?」
深瀬「みーお。【澪】って書いて”みお”って読むんだよ。女みたいな名前でしょ?」
夏目「澪さん。ん?深瀬澪…どこかで聞き覚えが…」
ふと、自分の手元にある資料に目を向けると
夏目「あー!まさか、このアートアーティストの深瀬澪さんですか?!」
深瀬「そうなるのかな?」
いつも通りにこっと微笑む深瀬さん。
夏目「す、すいません。俺、電車が止まって遅れちゃって;打ち合わせ…遅刻ですよね;」
深瀬「あーw大丈夫、大丈夫。俺なんて初出勤の大事な日に寝坊して今来たところだから」
アート界に颯爽と現れた超新星のアート作家と聞いていたので、気難しい人が来たらどうしようかと緊張していたけど、深瀬さんのような気さくな人で凄く安心した。
(それにしても、深瀬さんってシンプルな服装なのになんか…おしゃれだな…羨ましい)
夏目「深瀬さんって、服のセンスいいんですね」
深瀬「そう?そこら辺の服、拾って着ただけだよ」
夏目「えー、そうは見えないですよ?!アクセも素敵だし…時計とか、ピアスとか、その、リストバンドもオシャレで真似したいです」
深瀬「あー、このバンドは特注だから無理だけど、他のだったら販売店教えてあげるよ」
夏目「本当ですか!?嬉しいです」
”ポーン”
(エレベーターが到着する音)
夏目「あ、着きましたね。先どうぞ」
深瀬「ありがとう」
深瀬さんが横を通り過ぎる。
”ふわっ…”
(あれ…?この香り…)
柏木陽介「澪!」
深瀬「おー、陽介。何?お出迎え?」
柏木さんがエレベーターの前で深瀬さんを出迎えた。
(澪?陽介?互いに名前呼びなんて友達なのかな?)
夏目「すいません、柏木さん。俺、電車が止まって遅れてしまって;」
深瀬「気にしなくて大丈夫だってー。陽介はそんな事で怒ったりしないよなー?」
そう言って、深瀬さんは柏木さんの頭を右手でクシャクシャにする。
(わぁ…仲良しだ)
柏木「ちょっ、澪、やめてよ。髪がグシャグシャになるから;あ、夏目君、おはよう」
(柏木さん、完全に俺がここに居たことに気付いてなかったな)
柏木「それで、澪は何で遅刻したんだ?」
深瀬「んー、俺は寝坊」
柏木「はぁ…全く、そんな事だろうと思ったよ」
こんな砕けた柏木さんを見た事が無い。
夏目「あの、お二人って…お友達か何かですか?」
柏木「あぁ、ごめんね。紹介遅れたね。澪は僕の婚約者だよ」
夏目「えっ?!あ、じゃあ、この人が噂の柏木さんが溺愛する…」
深瀬「へぇ、溺愛してるんだ?」
柏木「勿論。してるよ」
深瀬さんを見つめる柏木さんの瞳がとても甘かった。
(こっちまで赤面しちゃうよ)
深瀬「ほいで、俺には君の紹介はしてくれないの?」
夏目「あ、そ、そうだった!すいません、名乗り遅れました。夏目遥です。宜しくお願いします。そして、先日は本当にありがとうございました!」
深瀬「夏目遥君。んじゃー、君は今日からハル君だね」
柏木「先日って?二人知り合いだったの?」
夏目「知り合いというか、チンピラに絡まれて困っていたところを深瀬さんに助けてもらったんです」
柏木「え?そん事あったなんて聞いてないよ。どうして僕に言わなかったの?」
深瀬「別に話すまでのことでも無いし?あ、ちなみに問題は起こしてないよ?」
柏木「そういうことじゃ無いだろ?もし、怪我したりしたら…」
深瀬「してないってー。陽介は過保護過ぎ」
柏木「澪はなんでも伝えなさ過ぎるよ!僕は澪をちゃんと知っていたいんだ。後で他人から聞かされるんじゃなく、澪の口から聞きたいんだよ。だから、些細な事でも全部僕に話してくれよ」
少しだけ張り詰めた空気が漂う。
深瀬「あー、ハル君。ちょっとごめんね?陽介と二人で話させてくれる?」
夏目「あ、はい。勿論です」
俺はその場から足早に立ち去った。
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屋上__
(柏木さんでも、あんな駄々捏ねたりするんだな…)
今まで大人の対応をしている柏木さんしか見た事が無かったから驚きを隠せない。
朔「なにアホ面してんの?」
先輩が咥え煙草で隣に腰掛けた。
夏目「あ、先輩!お疲れ様です。一服ですか?」
最近、俺がこっちのプロジェクトに加わってしまったせいで別行動が増えてしまい、こうやって少しでも会社内で会えると嬉しくてたまらない。
朔「あぁ。んで、ボーっとしてどうした?」
夏目「いや、その柏木さんの婚約者が来てるんです」
朔「うわー、まじ?!」
夏目「あ、プライベートじゃなくて仕事でですよ!今回俺の担当するアート作家さんだったらしくて…」
朔「へぇ…んで?」
夏目「それが、俺その人と偶然にも知り合いだったんですよ。前、話ましたよね?チンピラから助けてもらったヒーローみたいな人のこと」
朔「あー、その話な。まさか…その人が柏木の婚約者?」
夏目「そうみたいで;俺も今日初めて知ったんですけど…」
朔「世の中狭いな」
夏目「はい。それで、その時のお礼を柏木さんの前で伝えたら喧嘩みたいになっちゃって…;;」
朔「喧嘩?なんで?」
夏目「正確には喧嘩と言うより、柏木さんが一方的に『何で話てくれなかったんだ』って怒っちゃって…」
朔「へぇ…あいつ結構束縛するタイプなんだ?おもろ。笑」
夏目「あ、笑っちゃ駄目ですよ!…でも、あんな子供っぽい柏木さん見た事無いから驚いちゃって…よっぽど惚れ込んでるんだろうなって伝わってきちゃうというか、ちょっと自分と重なるというか…」
朔「お前も俺の事、束縛したいの?」
夏目「ち、違いますよ!」
朔「違うんだ?」
夏目「そ、そりゃ、ちょっとはしたいですけど…」
朔「笑。素直じゃん」
そう言って、先輩は俺の頭をポンポンと撫でた。
(先輩って、よく頭ポンポンするな。癖なのかな?)
夏目「そうそう、柏木さんのお相手が凄く魅力的な人なんですよ。朔先輩とは違うタイプのイケメンだし。美人系といいますか…」
朔「ほぉ…それは一度見に行く価値あるか?」
夏目「ダメダメ!まだ話中かもしれないじゃないですかー!」
朔「それは残念…笑」
夏目「それに、契約期間中はうちの会社に在籍するので、その内会えると思います」
朔「ばーか。マジレスすんなよ。俺、そんなにあいつの恋人に興味ねぇし。あ、悪い。もう行くわ。呼び出しきた」
夏目「あ、はい」
朔「夜、お前の家いく」
夏目「…は、はい///」
そう言って、朔先輩は立ち去っていった。
(はぁ…先輩…すき♡)
深瀬「なるほどー。今のが例の恋人なわけだ?…よっこいしょっと」
夏目「うわっ?!深瀬さん?!」
すぐ横に腰掛ける深瀬さん。
深瀬「社内恋愛って気を引き締めないと直ぐにバレちゃうぞー?」
夏目「い、いつからここに?!」
深瀬「君の恋人が立ち去る辺り?あ、大丈夫。言いふらさないし、ハル君が同性愛者なのは
なんとなーく気づいてたよ」
夏目「す、鋭い…」
深瀬「さっきはごめんね。陽介たまに過保護スイッチ入っちゃう時があるんだ」
夏目「いえ、それに少し気持ちは分かりますから」
そう言った俺に深瀬さんは、ニコっと微笑みかけた。
(本当、魅力的な人だな…同性の俺でも見惚れちゃう)
深瀬「それにしても、後ろ姿しか見えなかったのが残念だったなー。ハル君の彼氏♡
イケメ〜ンな香りぷんぷんしたよー?」
夏目「香りって…あ、そう言えば柏木さんから香ってくる匂いって深瀬さんの香水だったんですね」
深瀬「あー、移っちゃうんだよね。一緒にいると。でも、よく気づいたね?ハル君、匂いに敏感な人?」
夏目「いえ、俺じゃなくて、さ…」
柏木「澪!夏目君!こんな所にいた。打合せ始まるよ」
深瀬「はーい。んじゃ、いこっか?ハル君」
夏目「あ、はい」
この時は、分からなかった。
この人が俺にとって、どれほど自分の運命を左右する人だったかなんて…




