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逆さの月の恋  作者: Nesn


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13/20

第十三話〜夏目side〜

気づいてないふりをした。


もし、気づいてしまったら


負ける気がして…



____________________



朔先輩の部屋__


先輩と初めて結ばれた日、俺は泣いた。


朔「…好きだ…遥…」


その声があまりに優しくて

あまりに儚くて…

まるで、消えてしまいそうで

幸せ過ぎて、怖くなって涙が出た。


夏目「好きです…朔先輩…」


腕の中にいる、この人がいつか居なくなってしまう気がして強くしがみついたんだ。


____________________



先輩の部屋__



”ピコン”

(スマホがなる音)


朔「夏目、DMきてんぞ」


夏目「え?あ、本当だ。あれ?柏木さんだ」


朔「げっ…」


夏目「げって。前から思ってたんですけど、先輩って柏木さん嫌いなんですか?」


朔「嫌いじゃねぇよ、好きじゃないだけ」


夏目「それって違うんですか?」


朔「違うだろ」


夏目「そうなんだ…どこが駄目なんです?」


朔「あの好青年スマイルと善意を押し付けてくるとこだな…」


夏目「あー…確かに先輩とは相性悪そう」


朔「だろ?まぁ、そもそもそれが無くても初対面から苦手だったけどな」


夏目「え?あんな非の打ち所がない人なのに初対面からですか?」


朔「…匂いがな…」


夏目「…匂い?」


朔「あいつ、ラムネみたいな甘い匂いする時あんだろ?…俺、その匂いが嫌いなんだよ」


夏目「え、そうですか?全然気付かなかったです」


週末は、そのまま先輩の家で過ごした。


幸せな時間。


これが夢なら覚めないでくれと願いながら。


でも…


その間、先輩があのラムネの空き瓶を捨てる事は無かった。



____________________




月曜のオフィスのエレベーターホール_



あの時のやり取りを思い返していた。



***



(振り返り中)


夏目「冷蔵庫の水頂きます。

…あれ、懐かしい〜!瓶ラムネだ!でも、これ…中身入ってないですよ?」


朔「…あぁ、いーんだ」


夏目「捨てておきましょうか?」


朔「やめろっ!」


その声に驚いた。


朔「悪い、そのままにしててくれ。中に入ってるビー玉が欲しくてさ」


夏目「あ、そうなんですね」


きっと、これ以上踏み込んではいけない。


そう、心が警告する。


夏目「わかります。その気持ち。俺も小さい頃よく、このビー玉欲しくておねだりしてました」


朔「取れたか?」


夏目「はい。婆ちゃんが割って取ってくれました」


朔「だよな。割らないと普通は取れないよな」


その横顔はどこか悲観的に見えた。


夏目「割らずに取れる方法あるんですか?」


朔「あるらしいんだけど、まだわかんねぇんだ。だから、置いておいて。自分で捨てるから」


夏目「……はい」


誰かが教えてくれるのを待っている…


そう俺には聞こえて怖くなった。


(その誰かって…いや、気にし過ぎだ。気にしない…気にしないぞ…絶対に気にしない)


自分を誤魔化すように

そう心で繰り返した。




***




夏目「…それにしても、結構腰にくるんだな…いったぁ…」


柏木「腰痛?」


夏目「わぁ、柏木さん!びっくりしたー!」


柏木「あはは。また驚かせちゃったね」


夏目「あ、そう言えばDMの件、先方に問い合わせてみました」


柏木「ありがとう。どうだった?」


夏目「来週から当社と専属契約勤務OKだそうです。先ずは顔合わせも兼ねて明後日に打ち合わせする事になりました」


柏木「そうか。良かった。ありがとう」


夏目「いえ、こんなBIGプロジェクトに新人の俺を推薦してくれてありがとうございます。俺なんかより朔先輩の方が相応しいだろうに」


柏木「それは、まだ僕の方が覚悟が出来ていなかったからね」


そう言った柏木さんの顔は少し虚な表情に見える。


(覚悟?柏木さん朔先輩の事、苦手なのかな?)


夏目「あ、それで打合せ前に先方の情報を色々と収集したいので何か資料とかありますか?」


柏木「それなら、そこの…」


”ふわっ…”


甘酸っぱい香りが鼻を掠めた。


夏目「あ…この香りか…」


柏木「え?香り?」


夏目「あ、いや…朔先輩が言ってたんですよ。柏木さんから、たまにラムネのような甘い香りがするって」


柏木「へぇ、石川さんが?」


夏目「俺は全然気付かなかったんですけど、先輩鼻がいいようで」


柏木「…いいのは鼻じゃないと思うけどな」


夏目「え?今、何か…?」


柏木「ううん。何でもないよ」


夏目「…?」


















朔「なに、密着してんの?」


夏目「せ、先輩!」


朔「お邪魔した?」


ぶっきらぼうな先輩の声。


夏目「邪魔なんて滅相もない!柏木さんから依頼されていた件の資料の話を…」


朔「あー、はいはい。俺、7階に行きたいから邪魔」


不機嫌そうに先輩が話を遮る。


柏木「夏目君の話、最後まで聞いてあげなよ」


朔「別に最後まで聞かなくてもわかんだろ」


柏木「石川さんって、自分の感情次第で物事の答えを決めつけるんですね?」


朔「は?」


柏木「難しい答えよりも簡単な答えの方に逃げるタイプだ」


朔「なんだと」


柏木「その方が楽ですからね」


夏目「ちょっと、どうしたんですか?!柏木さん」


らしくない柏木さんの挑発に、こっちが驚いていた。


柏木「僕なら、僕の感情は二の次で最後まで大事な人の話なら聞いてあげるけどな。答えって最後まで確かめないと分からない事だって多いし」


朔「なに、説教してんの?」


柏木さんの方へ詰め寄る朔先輩。


夏目「せ、先輩。やめて下さい!ここ、会社ですよ?柏木さんも!」


朔「ちっ…俺、階段で行くわ」


夏目「あっ、先輩!」


そう言って先輩は階段の方へと行ってしまった。


柏木「ごめんね、夏目君。余計なこと言って。僕がちょっと大人気なかった;」


夏目「いえ、そんなこと!今のはどちらかと言えば先輩のほうが…」


柏木「嫉妬だよ」


夏目「え?」


柏木「嫉妬したんだよ。だから、石川さんの事、許してあげてね(ニコ)」


夏目「先輩が嫉妬?」


柏木「じゃあ、僕は行くね。また」


先輩が嫉妬?俺と柏木さんが近距離で話してたから?


夏目「…そんな…まさかね///」




____________________



屋上__



夏目「あー!先輩、ここにいたー!やっと見つけましたよぉ〜!」


朔「邪魔者は隅っこで大人しくが定番なもんでね」


夏目「だから、邪魔者じゃないですってば!」


朔「なんか用か?」


夏目「いえ、ただ先輩の事が気になって…」


朔「あー、さっきは悪かったよ。ガキみたいな態度とって」


夏目「あ…いえ…」


(びっくりした。素直で)


朔「イラついたんだ。お前と柏木の距離が近くて」


夏目「え?それって…」


朔「嫉妬だよ」


そう言うと、先輩は優しく頬を撫でてくれた。


夏目「嘘…///先輩が…やきもち?」


朔「妬くだろ…普通に自分の恋人が他の男とあの距離感でいたら」


夏目「…でも、柏木さんには婚約者いるし…それに柏木さんって多分ですけど、俺と同じ受け…」


朔「いや、あいつは絶対タチだ」


夏目「え?そうですか?自分のこと犬みたいって言ってたし、相手の尻に敷かれてそうな感じしますけど」


朔「…わかんだよ。あいつは俺と同じ匂いがする」


夏目「匂いって…あ、そういえばラムネ!ラムネの匂いわかりました!確かにするなーって、さっきその話もしてて」


朔「へぇ…他人の男の匂いで興奮したと?」


頬を摘まれる。


夏目「いひゃい…いひゃいですぅ…」


朔「笑。ブス」


夏目「ひ、酷いですよぉ〜!」


朔「あんまり嫉妬させんなよ。カッコ悪いだろうが…」


夏目「…ご、ごめんなさい。気をつけます。まさか、先輩が俺なんかで嫉妬してくれるなんて思わなくて…」


朔「するだろ…好きなんだから」


夏目「…俺、死んだのかな?ここ天国ですか?」


朔「だったら、俺も死んだ事になるなー。勝手に殺さないでくれる?」


夏目「ダメダメ!先輩は死なせません!」


朔「笑。……腰、平気か?」


優しい声。

労わってくれてるのがわかる。


夏目「平気です。俺、意外と丈夫なんで」


朔「……」


(あっ…この顔…)


先輩はたまに思考が停止しているような表情をする時がある。


多分、その時は過去の人を思い出してる時だ。先輩にトラウマを作った人を…


(…俺、また思い出させるような事言ったのかな…)


朔「…もっと大切にするよ。お前のことも、腰のことも」


夏目「平気ですってば!もう、なんなら何回戦でも…」


朔「何回戦でも?」


夏目「あ、いや…違くて///」


朔「聞いたからなー。このムッツリスケベ」


夏目「ち、違うんですぅー!先輩ぁ〜ぃ!」


幸せだった。


ずっと、この幸せが続いてくれると信じたい。

そう…ずっと。


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