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逆さの月の恋  作者: Nesn


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10/20

第十話〜夏目side〜

俺はきっと全部間違えた。


過去に戻れるなら、もう一度チャンスが欲しい。


____________________



翌朝の会社__



夏目「朔先輩、昨日は…」


朔「今、仕事中なんだけど」


夏目「あ、そうですよね。すいません」



ー別のシーンでもー



夏目「朔先輩!あの、この写真なんですけど…」


朔「ありさー。俺、今手放せないから夏目に教えてやって」


ありさ「はーい」



ー更に別のシーンでもー



夏目「あ、朔先輩!機材運ぶの手伝います!」


朔「いや、俺1人で充分」


夏目「でも…」


朔「…そこ、邪魔」


夏目「……すいません」



____________________



休憩所__


完全に避けられてる。

それに嫌われたかもしれない。


(俺が先輩の気持ちを無視して無理に抱いてもらおうと暴走したから…)


柏木「あれ?夏目君?俯いてどうかしたの?」


夏目「…か、柏木さぁ〜ん;」


柏木「なに?どうしたの?」


夏目「俺、失敗しちゃって…」


柏木「もしかして、石川さんの事?」


夏目「……はい」


柏木「そっかぁ…」


夏目「朔先輩の気持ちを無視して、一方的に気持ち押し付けて暴走しちゃって…」


柏木「うんうん。好きな人が欲しい時って焦って暴走したりするよね」


夏目「柏木さんも、そんな時あったんですか?」


柏木「あったよー。ずっと片思いだったからね」


夏目「へぇ…意外です」


柏木「あはは。そう?だから、恋人になれた時は死ぬほど嬉しかったよ。もう、本当に天にも登る感じ?」


夏目「そうなんですね。それが今のお相手ですか?」


柏木「うん。でもね、今もまだずっと片思いしてるように感じるよ」


夏目「羨ましいです…そんなに想ってもらえる相手が…」


柏木「僕ね、石川さんには結構、夏目君の存在は効いてると思うんだよね」


夏目「え?そうですか?…そんな感じしないけど…」


柏木「あはは。当人達には見えないものだよ。でも、夏目君を見る石川さんの目は君が思っているよりも真剣だと思うけどね」


夏目「…そう…だったら嬉しいですけど…」


柏木「僕ね、夏目君を応援してるんだよ。凄く素直で良い子だから。石川さんみたいな捻くれた人には夏目君のようなピュアボーイが必要だと思うんだ」


夏目「くくく。捻くれた人って」


柏木「あ、悪口になるから内緒だよ?」


夏目「はい」


柏木「少しは元気でたかな?」


夏目「はい。ありがとうございます」


柏木「頑張ってね。夏目君。期待してるよ」


夏目「期待?!…それは、責任感じます…」


柏木「あはは。それじゃ、また何かあれば相談してね」


夏目「はい!」


(柏木さん、本当に優しいな…)


誰かに背中を押してもらえるのが有り難かった。


____________________



退社後__


結局、先輩とちゃんと話できなかったな。

ポケットからスマホを取り出す。


夏目「…電話、掛けても出てくれないよな…

きっと…」



”ドンッ!!”

(肩が強くぶつかる音)



夏目「うわっ?!」


肩が誰かと思い切りぶつかって体勢が揺らいだ。振り返ると強面のチンピラ集団がこちらを見ている。


男「おー痛ぇ…」


夏目「あ、そのすいません…」


男「ボーと突っ立てんじゃねぇよ!」


恫喝されて肩がすくむ。


夏目「ご、ごめんなさい」


男2「あーぁ、今のでこいつのアクセ壊れてんじゃん」


男「まじかよ、おい、どうしてくれんだ?高かったんだぞ?!」


夏目「すいません、すいません」


男「すいませんじゃねぇんだよ!!」


男3「弁償しろよ?なぁ?!」


胸ぐらを掴まれ逃げ場を失う。


(今日は本当に何もかも最悪だ)


泣きたくなるのを必死に堪えた。





























???「わー、今どき…まだこんなカツアゲする奴等いるんだー?」


聞き覚えのない声が直ぐ横で聞こえて振り向くと…


男「なんだ?てめぇ?」


???「いやー、なんか時代そぐわないダッサイ集団がいるなー?と思って」


そこに立っていたのは、黒髪の綺麗なお兄さんだった。


男2「おい、インテリ野郎。ぶっ殺すぞ?」


恫喝する男達に全く動じる事もなく、ニコニコしながら俺の胸ぐらに置かれている手を片手で掴む謎のお兄さん。


???「離してあげなよ?怖がってんじゃん」



”グイッ”

(謎のお兄さんが相手の手首を捻る音)



男「っ!痛ぇ!」


胸ぐらを掴んでいた男が痛みで小さな悲鳴を洩らす。


男3「てめぇっ!」


夏目「お兄さん!危ない!!」


???「おっと!」


その人は背後から殴りかかった男の拳を軽やかに交わした。


夏目「す、凄い…」


???「君、走れる?」


お兄さんがそっと囁く。


夏目「え?あ、はい!」


???「んじゃ、全力で走って逃げな。俺が留めておけなかったら誰か追いかけてくるかもしれないから、電話で助けを求めるんだよ?わかった?」


夏目「でも…」


???「大丈夫だから。さぁ、走って!」


そう言って、謎のお兄さんは僕を逃してくれた。


(電話…電話…)


俺は全力疾走しながら、朔先輩へ掛けた。



”trrrrr”


”trrrrr”


”trrrrr”


”プッ”



朔『…夏目?』


夏目「ハァハァ!せ、先輩!助けてください!」


朔『どうした?』


夏目「今、怖い人達に絡まれて…走って逃げてて!」


朔『はぁ?!お前、今どこ?』


夏目「えっと…3丁目の裏路地を…」


朔『馬鹿!大通り行け!人通りの多いところ!そんで、交番あるからそこで待ってろ!』


夏目「は、はい!」


朔『直ぐ行くから、止まるなよ!走り続けろ!』


夏目「わ、わかりました〜!」


____________________



交番付近__



朔「っ、夏目!!」


夏目「〜朔先輩っ!」


ヘトヘトになりながら、倒れ込むように先輩の胸に飛び込んだ。


朔「なんで、到着するのほぼ同時なんだよ。足遅過ぎだろ…」


夏目「これが、俺の全力ですぅ…あぁ…死にそう…ハァハァ…」


朔「怪我してないか?」


夏目「あ、はい…全然」


朔「お前、助けを求めるなら俺じゃなくて警察とかに電話しろよ、馬鹿!」


夏目「あ…そっか…そうですよね…先輩の事しか頭に浮かびませんでした」


朔「……マジで馬鹿過ぎ。お前」


”ギュッ”

(夏目を抱きしめる音)


そう言って、先輩は俺を抱きしめてくれた。


____________________



自宅__



夏目「すいません、送ってもらって…」


朔「一応な。また絡まれたりしたら後味悪いし…

でも、よく逃げてこれたな?相手、集団だっだんだろ?」


夏目「それが、凄く素敵な謎のお兄さんが助けてくれて!」


朔「素敵な謎のお兄さん?」


夏目「はい!その人が逃してくれたんです!」


朔「そんなヒーローみたいな人いんのか?運の良いやつ。笑」


(あ…先輩やっと笑ってくれた…)


夏目「…先輩、昨日はすみませんでした。先輩の気持ちとか無視して、自分の要求ばかりを押し付けてしまって…反省してます」


朔「……」


夏目「凄くズルい考えでした。近道なんて無いのに…1人で焦っちゃって…でも、俺、本当に先輩が好きだから、ちゃんと好きになってもらえるように努力します!だから…」


朔「お前ってさ、本当に俺のこと見てんだな」


夏目「え?」


朔「昨日は…図星だったんだよ。俺には確かにずっと忘れられない人がいる…」


夏目「…そう…ですか…」


聞きたいけど聞きたく無い。そんな葛藤が生まれた。


朔「高校の時に付き合ってた人なんだ。

俺の初恋の相手…その人は男だった」


夏目「え…?」


驚きと衝撃で目が丸くなる。


朔「最初はただの憧れだと思ってた。

凄く強くて…優しくて…でも、それが一目惚れだったんだと気付くのに時間は掛からなかったよ」


夏目「……凄く素敵な人だったんですね」


朔「あぁ…凄く眩しかった」


心の奥が苦しくて重くなる。


朔「でも、高一の冬…その人は俺の前から姿を消したんだ。何にも言わずに…魔法みたいにな」


夏目「そんな、どうして?」


朔「わかんねぇ。本当に何も言ってくれなかったからな」


夏目「辛いですね…」


朔「だから、俺が忘れられないのは…あの人というよりも、あの人が俺につけた傷のほうなんだ」


朔先輩はそう言って、拳を握り締めた。


朔「俺は昔から他人に心を開くのが苦手だった。全てを曝け出せた人はあの人だけだったんだ。でも、結局そんなの無意味だったと思い知らされた」


夏目「先輩…」


朔「今もあの人の事が好きだとか、忘れられないとか、

そんなガキみたいな感情じゃないんだ。

トラウマ…それに近いと思う。

だから、もう二度と味わいたくないんだよ。怖ぇんだ…もう一度あんな思いをしたら自分が壊れちまう気がして…」


初めて、先輩が弱く見えた。


いつも頼りになる強くてカッコいい先輩が、小さな子供のようにか弱く見えて抱きしめたくなった。


朔「俺は、あの日以来ずっと悪夢を見んだよ。幸せだと思わせて置き去りにされる夢。それは起きてる時もだ。いつも事あるごとに、あの人が俺の脳裏に現れる。甘い言葉を囁いて、何の躊躇いもなく俺を捨てるんだ」


先輩が寂しげに笑う。


朔「ダセェだろ?そんな自分がバレたくなくて、誤魔化す為に女も沢山抱いた。あれ以来、一度も男を抱いた事は無い…」


夏目「……」


朔「こんな俺が、お前を抱いていいわけないだろ?”身代わりでもいい”なんて、お前に言わせるような俺が…」


あぁ…俺はやっぱり全てを間違えてたんだ。

この人は誰よりも優しい。

とても深い傷を負ったから。

痛みを知ってるから…

だから、絶対に自分が味わった痛みを俺に与えちゃいけないと思ってくれていたんだ。


それなのに…俺は…


夏目「先輩…ごめんなさい…無責任な事、言ってごめんなさい…」


先輩を強く抱き締める。


こんなに誰かを愛おしいと思った事は無い。


夏目「…でも、僕は傷つきません。先輩が愛おしいんです。誰よりも…こんなに人を愛おしいと思った事ないんです。先輩が初恋なんです。だから…怖がらないで下さい…先輩の中に誰かの影があっても俺は絶対傷つかないから…俺が先輩の痛みを消しますから…」


朔「…もっとビビれよ…馬鹿」


そう言って、先輩は俺を抱きしめた。


とても強く…

そして、とても甘く…


朔「夏目、ベッド…どこ?」

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