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53.瞬殺の運動音痴-2

「うん、ルーシオさんもヴェルさんも問題無さそうですね」


 実験が完了した。2人とも、特に問題なく影から出てきてくれた。

 ロゼッタが「良かった」と笑うと、ヴェルシエラが何かを考えるように手で口元を覆い隠す。


「それ、アナタの負担は?」


「そうですねぇ……正直に言うと、他の皆さんと比べると負担はあります。とはいえ、そこまで酷くはないんですけど……」


 最初から「そうだろう」という仮定ありきで動いていたが、ロゼッタが試した順で負担が少なかった。

 闇属性の素養を持つクロウとラザラスはもはや()()のレベルだった。やはり素養があれば魔術が入りやすいらしい。

 特にクロウに対しては呼吸に等しいレベルで行けてしまった。となると、最終的には素の魔力量も影響する、と考えて良いだろう。


 ロゼッタからすれば闇属性素養の無いレヴィは大した負担にはならないが、ヴェルシエラとルーシオに関しては若干ではあるが、負担が重いように感じた。


 ヴェルシエラに対しては坂道で背を押し続けるような感覚で済むのだが、ルーシオの方は重い荷物を運ぶような感覚だった。どちらにせよ、両者に対して長時間使用をするのは厳しい気がする。


「お2人の場合はそもそも『筋力強化(ブレイヴァ)』を使うことが前提になるので、これは最終手段くらいに考えた方が良いかもしれません。わたしが数時間で魔力切れ起こしそうです」


 そう伝えると、ヴェルシエラが困ったように笑っていた。


「……。それでも、数時間は持つのね」


 ロゼッタが、あまりにも規格外すぎる。

 それは今に始まったことではないが、どうしても聞くたびに驚いてしまう。


 そんなヴェルシエラの発言に対し、ロゼッタはこてんと首を傾げてみせた。


「あ、はい。よく考えたら筋力強化の調整が効くようになれば、もうちょっと行けるかも……」


「いや、良いわよ。アタシたちが影に隠れる必要性をあまり感じないから。

 エスラちゃんに使えたら大丈夫だと思うわ。多分……」


 多分、と言われたエスメライはさらにいじけている。

 ロゼッタはすすす、とエスメライに寄っていった。


「その、レヴィさんがあまり負担にならなかったので、エスラさんは問題なく行けると思うんです」


「……」


「いじけないで、ください……」


 エスメライからしてみれば、自分の運動神経の悪さをダシに辱めを受け続けていたようなものだ。


……本当に、可哀想に。


「えっと、えっと……行きます、ねー?」


 ロゼッタは苦笑しつつ、エスメライを影に引き摺り込んだ。


「エスラさーん! 出てきて大丈夫ですよー!」


 引き摺り込むまでは、何も問題は無かった。


 だが、エスメライが一向に出てこない。

 まさか、影の中で体育座りでもしているのだろうか? 


「エスラさーん?」


 もう一度、声を掛けてみた結果——とんでもなく悲しげな声が聞こえてきた。


「出れない……」


「えっ」


「出れない……っ」


 影からでるだけで、そんなに難しい要素があっただろうか……?

 今までは一切意識していなかったのだが、ロゼッタは自身が影から出る時のことを、思い出す。


(んー……中で軽くジャンプしたら、出ようと思えばそのまま外に出れるし、中途半端に

 上半身だけ出すようなこともできるんだけど……も、もしかして、()()()()()()()()が足りない!?)


 エスメライは、悲しいレベルでジャンプ力が無いのかもしれない——。


 どうしたものか、とロゼッタは考える。

 自分が影に入り直せばエスメライを押し出せるような気もするが、それをやると盛大に彼女を傷つけるような気がする。


 間違っても、彼女が部屋から出てこなくなったら困る。

 色んな意味で、困る。


(ど、どうしよう……手でも突っ込んでみようかな。でも、それはそれで……)


 そんな時、クロウから思念が飛んできた。


『とりあえず、何も言わずに『隠影(イクリプス)』を解除してみろ。お前が入って、エスメライさんが弾き出されるよりはマシな結果になる気がする』


『うん、分かった……』


 指示に従い、黙って隠影を解除してみる。

 すると影の中からぴょこんとエスメライが出てきた。


 脱出の反動で少しだけ宙に浮いてしまってはいたが、それでも無事に着地できていた。


「出れた……!」


「よ、良かった、です……」


 これはこれで解除時に足を捻らないか心配にはなるが、それはもう練習してもらうしかない。


 まだ大怪我のリスクはこちらの方が少ない……まだ。


(負担はレヴィさんよりちょっとだけ重いくらい、かな。全然平気。やっぱり魔術師かどうか、がポイントになるみたい)


 彼女に関してはゼロ距離まで行ければ相手を瞬殺できるとのことなので、隠影作戦が妥当だろう。

 そもそも運動神経云々がなくとも有効な手段かもしれない。ドラグゼン目線、クロウはともかく彼女の奇襲は確実に予測不可能だ。


 問題は、彼女の奇襲はロゼッタが影に引きずり込まなければ成立しない。

 ゆえに、実質一度限りになってしまうことだろうか——そこでふと、ロゼッタは気づいた。


(直に隠影掛けたらどうなるんだろう)


 それが成功するのであれば、エスメライの奇襲は複数回成立する。

 とはいえ初手で彼女に実験をしようものなら怒られてしまう。


 ロゼッタは彼女と条件が近いレヴィに視線を向けた。


「どうしました?」


 何かされることを察したのか、彼女はヒラヒラと手を振ってくれた。


「よく考えたら、引き摺り込まなくても普通に隠影使えば良いんじゃないかって思ったんです。

 ちょっと、受けてもらっても良いですか?」


「はーい、良いですよー!」


 レヴィに指を向ける。そして、隠影を発動する。

 彼女の姿が、消えた。


(あ、なんだ。行けるじゃん)


 そう思っていると、かなり慌てた様子で影からレヴィが飛び出してきた。


「わあああぁああ!?」


「レヴィさん!?」


「初手がボクで良かったよ!! ダメだこれ!! 普通に死ぬから!!」


「えっ!?」


 よく見ると彼女、パタパタと翼を動かしている。何故か、飛んでいる。

 その忙しない姿を見て、ロゼッタは全てを察した。


「もしかして、中が落とし穴みたいになってました!?」


「その通りです! これ、術者が先に入って、影の中に空間的なものを作らないとダメっぽいです!

 空間さえ作ってしまえば後から調整効くみたいなんですけど、何もない状態からいきなりやったら、どこかに落ちます!!」


 試したのがレヴィで良かった。本当に良かった。

 彼女以外で試していたら、うっかりで人を殺していたかもしれない。

 冷や汗が流れるのを感じながら、ロゼッタははたと気づく。


「……それなら、ドラグゼンの戦闘員に対してやれば良いのかな」


 そう呟けば、レヴィは困ったように笑っていた。


「実際には何が起こってるのか分かんないんですよ。だから、何かの拍子で急に出てきても困りますし……そもそもロゼッタさんは、そういうことしないで欲しいかなって」


「は、はーい……」


 サポート役としてはいて欲しいが、とにかく前線には立たないで欲しいようだ。

 それに関しては、普通にありがたい。申し訳ないが、いきなり殺人行為ができる気はしなかった。


(そういえば、レヴィさんにも用があったんだっけ……)


 会話の中で彼女への要件をふと思い出し、流れでそのまま話しかける。


「盛大に話は変わりますが、レヴィさんって『念動(テレキネシス)』で銃浮かせて撃つ、みたいなことってできるんですか?」


「えっ? 念動で? そもそもその発想が無かったというか、試したことが無かったです。ちょっと……やってみようかな……」


 そう言って、レヴィは空間収納(アーカイブ)からライフル銃を取り出し、中に入っていた弾丸を全て取り除いた。


(ああ……実際に銃弾飛ばしたら、どこかしら壊れるから……)


 もうこれ以上、訓練場を傷つけてはならない。

 そんな彼女の意思が感じられた……申し訳ない。


「……」


 レヴィはライフル銃を浮かし、引き金を引いた。

 空砲が放たれ、乾いた音が鳴り響く。


 衝撃波が発生したのか、カタリ、と遠くにいた魔道具人形の首が微かに動いた。

 だから、こっち見ないで欲しい。


「そうですねぇ、微妙に精度は落ちますが、普通に行けますね。はい、大丈夫そうです」


「……何丁まで()()()行けますか?」


「あははっ、なるほど。質問の意図を察しました!」


 レヴィはするすると空間収納からさまざまな銃を取り出していく。


「そうですね……この通り、“浮かせるだけ”ならそれなりに行けます。でも、撃つとなると話は変わりますね。

 ボクは『感影(センス)』は使えないので、前方限定、同時撃ちは5丁程度が限界です。そのまま数回は行けますが、これやったら帰りの『転移(テレポート)』に支障が出るので、あまり実用性は無いですね」


「……わたしが『感影』と『魔力譲渡(マギトランス)』の2つ。レヴィさんを対象に発動させることを前提にした場合は?」


 そう問えば、レヴィは不敵な笑みを浮かべてみせる。

 なんだか、少しだけ楽しそうな様子にも見えた。


「ふふ、それは大変なことになりそうですね。たぶん、全方位同時射撃とか行けると思います。なんなら、()()()()()()()っていう自信もありますよ? 練習すれば、精度も上げられるかと」


「ですよね? なら……」


 ちょっと、試してみたい。

 そんな思いを込めてレヴィを見れば、彼女は両手を前に出し、首をぶんぶん横に振った。


「今日はやりませんけどね!? 丸太切れてますし、うっかり仲間を撃ち殺す事態は全力で避けたいです!」


 そうだった。丸太はない上に魔道具人形は1体召されているし、そもそもステフィリオンメンバーが集結している。珍しく全員揃っている。


 やるとしても、丸太を仕入れてからだ。

 メンバーの数も、もっと少ない時にやりたい。


 レヴィの返答に安堵したのか、仲間たちはホッとした様子を見せた——特に、エスメライが。


(ああ……絶対、避けられないもんね……)


 エスメライ以外は上手く避けてくれる可能性がある。

 少なくとも、ラザラスとクロウは行けると思う。術は使えなくとも、運動神経が良さそうなヴェルシエラとルーシオも可能性はある。


……が、エスメライだけは無い。絶対に、無い。

 レヴィと全方位同時射撃を練習する時は、最低条件として“彼女がいない時”を狙おう。


 とんでもなく失礼なロゼッタの思考に全く気づいていないエスメライは、軽く手を叩いて皆の注意を引いた。


「めちゃくちゃ申し訳ないんだけどさ、そろそろ作戦会議したい。拠点に戻らないか? 

 その、丸太……無くなったし……」


 訓練しようにも、的がいない。

 こればかりはどうしようもないため、皆はエスメライの言葉に頷いた。


(うん、次に来た時には……メンバーを見て、色々試してみよっと)


 ロゼッタはしれっとレヴィに魔力を渡す。

 レヴィは苦笑しつつ、全員を対象に転移を発動させた。

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